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昔、書いてた奴のまとめ 作者:無職童貞

こそばゆい学園恋愛もの感(だいたい、あってる)

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001-2

第一話 刮目せよ、これが【放送禁止用語】だ!

 四月十七日の翌日。四月の十八日。少女、自由ヶ丘 アヒルは生徒会室の中で震えていた。外部生(いわゆる、編入組)にとって、生徒会室とは聖域である。

 役員は常に成績は上位十位をキープし続け、身体能力も各部活動生に引けをとらず。超お嬢様グループで組織されたサロングループに対抗が出来るほどの組織力があり、下手をすれば教員よりも権力があり、また裁量によって自由に振るうことが許されている。卒業生は一流企業社長、有名小説化、世界的デザイナーなど錚々たる顔ぶれが出揃っている。

 しかしながら、自由ヶ丘 アヒルにとって生徒会室は聖域以前にもはや人外魔境であった。特待生であるアヒルにも無縁ではない。但し、それは保護される側と、保護する側である。

 睡蓮高校には特殊な特待生制度が導入されている。返済不要の高額奨学金や完全授業料免除、一部授業料の免除など。ランクによってどれだけ優遇されるかが異なり、アヒルは特待生ランクD。つまりは下端の下端。簡単にいえば雑魚である。

 並みの高校であればトップクラスの才媛でも睡蓮高校の特待生に紛れれば有象無象。高等部一年だけで特待生数は二百を越えているのだ。

 無論、現生徒会役員など全員が特待生ランク最上位。Sランカーである。そんな彼女達は日頃から外部生がお嬢様学校の魔窟である睡蓮で日々、過ごしやすいように常日頃から奮闘をしている。

 であるからして。

 雑魚であるアヒルは聖域どころか天元の地。人外魔境たる生徒会室に足を踏み入れて、携帯のバイブより震えていた。涙目でカタカタと震えている。中学あがりの幼さ抜けきれない容貌から追い詰められた小動物にも見える。

(なして、どうして、どげんして!?)

 脳内で方言が飛び交う程度には混乱していた。お嬢様学校に入学してみたいという好奇心から入学し、本物のお嬢様を見て「ふわぁー、凄い……」と憧れの視線を送り、クラス内で数人のお友達が出来てそれなりの人生を歩むことが出来た筈だ。

 同じく低ランク外部生と中学編入の自称にわかお嬢様。気が合う三人で楽しい学園生活を送れる筈だったのだ。

 しかし、生徒会に呼び出された。

 生徒会に呼び出されたというのは睡蓮学園においてはそれなりのゴシップである。生徒会に呼ばれた生徒が一人いるだけで学内にいる血統主義のお嬢様組織が動き出す。理由など必要ない。生徒会を叩き潰せるのなら、理由などなんだっていいのだ。血で血を争う睡蓮学園の政戦に巻き込まれたようなもの。

 例え、お話の内容がなんであれ生徒会が一生徒を呼び出すというのはそれだけ大きな出来事なのである。

「ごめんなさいね、自由ヶ丘 アヒルさん。急に呼び出して」

 生徒会長室の窓側に用意された生徒会長の椅子に座るのは『姫宮 龍華』である。腰まで伸びるほどの黒髪に、切れ長の瞳。美しさで銅像がたっていそうなほどに整えられたプロポーション。そして、美を崩す無くことない貌。それでいて成績は常に学園一位。運動能力もトップクラス。天が一物も二物も与えた典型的才媛である。

「い、いえええええええええ、そ、そそそそんなことはななないででです」

 最早、顎を殴ってでも自分の口を閉じたくなるアヒル。優しく声をかけたつもりが予想以上に怯えられて困ったのは間違いなく生徒会長。

「二ノ宮」

「はっ!」

 龍華が名前を呼んだ瞬間、秘書のようにたっていた女性が紅茶を用意する。アヒルは鮮麗された動きに目を奪われつつもバイブ機能がOFFになることはなかった。

「さぁ、飲んで、少しは落ち着くから」

 龍華の優しげな微笑に促されながら、アヒルは紅茶に口をつける。その瞬間ッ! 自由ヶ丘 アヒルに電撃が走ル……ッ……

(あ、有り得ないッ……これ、がッ……紅茶ッ!?)

 まず感じたのは鼻。そして、唇。流れ込む水流は舌、喉。そして、胃に落ちた時、自由ヶ丘アヒルはこの日、初めて、生徒会室でバイブ機能(身体の震え)がきれたのだ!

(ち、違うッ……有り得ないッ……こ、こんなのが、紅茶だなんてッ……じゃ、じゃあ、今まで飲んでたのはッ!? 私がこよなく愛する午後の○茶は紅茶じゃなかったっていうのッ!? 馬鹿なッ!? こんなのってないッ……あんまりだよっ……)

 この間、僅か二秒。再度、カタカタと震え始めた。しかし、手の震えは明らかに質が変わっていた。これは恐怖だ。未知なるものへの恐怖。そして、今まで信じてきた常識が塗り替えられるという畏怖。

(じゃ、じゃあッ……今まで友達に『午後の紅○が最強だから。紅○花伝じゃなくて、午後ティーが最強だから、ニワカにはそれがわからんとです』とドヤ顔で語っていた私って何だっただべッ!? あ、有り得ないッ……認められるかッ……こんなのッ! ノーカンッ! ノーカン……ッ! ノーカウントッ……なしっ……無効ッ! 無効――ッ……!)

「ど、どうかなさいましたか?」

 あまりの尋常じゃない様子に二ノ宮と呼ばれた女生徒は尋ねる。

「い、いえっ……」

「お、お口にあいませんでしたか?」

「い、いいぃぃぃえぇぇぇぇっ?」

 まるで地獄の底から搾り出すかのような声に生徒会ナンバー2である二宮 祥子は恐怖を感じた。怜悧な瞳に、肩で切りそろえられたボブカット。知的な顔立ちから『お姉さまにしたいランキング十二ヶ月連続二位』の二ノ宮 祥子が一介の女子生徒に恐れをなしたのだっ! ちなみに一位は生徒会長である姫宮 龍華である。

 そんな様子を眺めながら。

(へぇ、祥子が気圧されるなんて……それほどまでに舌が肥えているのかしら。一般生徒と聞いていたのだけれどね)

 二ノ宮 祥子の注ぐ紅茶は学園の中でもトップクラスに巧い。初見の相手のえり好みさえなければ、大抵の人間の舌を満足させることは可能だろう。サロンの人間が紅茶のためだけに二ノ宮の身柄を要求してきた事件すらある。

 しかしながら、そんな二ノ宮の紅茶を不満とする少女がいた。本来ならば名も無き一生徒で大勢その他の中に紛れる筈だった一人。紅茶を飲んで一口。歪む顔から想像できることは……よほどの味覚音痴か、よほど優れた舌か。

 しかしながら、姫宮 龍華は味覚音痴であるという可能性を思い浮かべなかった。何故なら、睡蓮学園である睡蓮学園に通うような女子が馬鹿舌など有り得ない。それも特待生である、幾ら特待生ランクDとはいえ、二ノ宮の紅茶を不味いとするほどの馬鹿舌は有り得ない。ちなみに味覚の試験など睡蓮の入試に存在しない。

(優れた味覚の持ち主……ね。覚えておきましょうか、自由ヶ丘 アヒル。時として、特化された一芸は万遍な人間よりも遙かに役に立つ)

 姫宮はじっくりとアヒルを観察する。そして、アヒルが二口目に口をつけないことから本日の用件を切り出すことにした。

 尚、この時、自由ヶ丘 アヒルと二ノ宮 祥子の心境は、というと。

(ぐぬぬっ、これ以上、紅茶を飲んだら私の世界観が崩壊する。午後ティーは至高、きのこタッグは無敵……この理論が塗り替えられる前にやめなければッ。あ、たけのこなんてクソ不味い駄菓子の存在を私は認めていないから。あんなん、手を汚すだけだから。きのこ、最強だから。昔からそう言われてるから。つまり、たけのこ勢はすべて逝ってよし)

(二口目に口をつけない、ということはやはり、口に合わなかったのでしょうか……まだまだですね、私も。やはり初心を忘れていたのでしょう。紅茶に関しては睡蓮においてトップだと、驕っていた。けれども、それが必ずしも満足させるわけではない。世界には私よりも優れた紅茶メーカーが居る……ありがとうございます、自由ヶ丘様。不詳、この私、二ノ宮は必ずや、あなたの舌を満足させる紅茶をいつか注げるようになりましょうっ!)



~~~~~~~~~~~~~~

「不審者……ですか?」

「えぇ。不審者、変質者。もっといえば、変態ね」

「き、昨日のですよね……?」

「えぇ」

 脳内できのこたけのこ論争を起こしたことでいつもの調子を取り戻したアヒルは生徒会長である龍華と普通に受け答えできる程度には冷静になっていた。ちなみに生徒会室ということを思い出せば、身体は震え、目の前の女性が睡蓮の生徒会長ということを思い出せば気絶しそうなので、目のハイライトは軽く仕事をやめていた。

「私達は昨日の変質者を追っています。それで、昨日、自由ヶ丘 アヒルさん。あなたが変質者と会話をしたという目撃情報があったので、その内容をお聞きしたいと思い、呼び出したのです。無論、あなたが変質者の知り合いや協力者といった考えは一切ありません」

「ももも、勿論ですよっ!? う、うちが協力者!? あ、ありえませんからっ!?」

 同類扱いされてさりげなく素が出るアヒル。

「うち……?」

「あ、いえ!? じ、自分は一切、あの変質者とは知り合いではないであります! マム!」

 敬礼で立ち上がるアヒル。流石に挙動不審ではある。しかしながら、あんな変質者と同類扱いされれば気でも狂うか、と龍華は納得。中々に酷い思考である。

「さしつかえなければ、話の内容を聞いても?」

「も、勿論です! って言っても、大した会話なんてしてないですけど。えっと、確か」

 そこまで考えて、アヒルは自分の口からあの変態の名前を言わなければいけないのか、と頭を悩ませた。何が悲しくて、あんなこっ恥ずかしい、五年後には枕に顔をうずめて「うああああああああああっ」と身もだえでもするような名前を。それも卑猥な枕詞をつけた名前を紹介せねばならないのか。

「……『エロのカリスマ』とか名乗っていました」

 げんなりとした様子で吐き出すアヒル。

「「なんですって!?」」

 異句同音。驚きに揃った声にびくりとしたのは最も驚いたのは名を口にしたアヒル本人である。

「えっ、そんなに驚くような事でした?」

「い、いえ。しかしながら、名前というものは大切なものです。例え、それが本名でないにしろ、そこからどういう思考を経て、その名に至ったのか。十分に参考資料となります」

(……えっ? 思春期男子の馬鹿騒ぎじゃないの、どうせ?)

「お手柄ですねっ! 自由ヶ丘さま!」

「ふぁっ!? ナンデ!? サマヅケナンデ!? 先輩の方が年上でしょう!?」

「いえ、自由ヶ丘様。私は尊敬すべき人間には全て敬意と敬称を持つものだと思っております。そこに年上も年下もございません。無論、客分にとっても同様。まぁ、下賎で屑でどうしようもない「男」とか呼ばれる種族に対しては一切、敬意を払う必要はありませんが」

 そこで「こほん」と一つ咳払い。発生源は龍華である。

「二ノ宮の男嫌いは話が長くなるわ。それで、自由ヶ丘 アヒルさん。他に何か言ってなかった?」

「あ、えーっと」

 アヒルは昨日の衝撃的すぎる変態との邂逅を思い出す。

「他には『学園に肉欲と快感と刺激を与える』とか『退屈な学園生活を破壊する改革者』だとか、言ってましたね……」

 その瞬間、二人の瞳が驚きに見開かれた。

「な、なんですって!?」

「姫様ッ!」

 ふらりと椅子に倒れこむ生徒会長である龍華についぞいつもの呼び方を呼んでしまう祥子。そして、そのまま俯き、爪をかみ始める龍華。そして、爪が割れる音が響いて――顔をあげた時、生徒会長『姫宮 龍華』の瞳の中には決意があった。

「祥子、学院と教員に連絡を。業腹ですが『サロン』にも」

「はっ」

(お、おい、なんぞ、大きなことになってきたぞよ。えっ、何で?)

「外部からのテロリストの可能性有り。昨日、外から出入りした全ての人間の情報を洗うようにしなさい。現在敷地内にいる男性職員すべてに事情聴取を。なお、この情報は職員とサロン上位、生徒会役員名持ち以外に知れ渡ることがないようにしなさい」

「ちょ、おまっ!?」

 アヒルは龍華から飛び出したあんまりな内容に絶句した。

「ちょ、ちょっと、待ってくださいっ、生徒会長ッ!」

「アヒルさん、ごめんなさいね。あなたの身柄も一時的に拘束させてもらうわ……これは最早、学園に紛れ込んだテロリスト。私は生徒会長として、戦わなければならないわ。二ノ宮、彼女を別室に」

「はっ! では、こちらへ!」

「えっ、ちょ、まっ!」

 腕をがっちりと掴まれたアヒルは生徒会室の隣に作られた客室に移動された。そして、鍵が閉められ、閉じ込められた。ドアを叩いて、何か言わなければとアヒルがあわあわと慌てるうちに――事件は起きた。

『全ての生徒諸君に告げます』

 機械音声。決して、似る筈のない声色に、アヒルは昨日の声と重なって聞こえた。

~~~~~~~~~~~~~~~

『全ての生徒諸君に告げます』

『私の名前は『エロのカリスマ』です』

『この退屈な学園に刺激と快感、肉欲を教え。既存の常識、退屈な日常を破壊するために立ち上げた『ホワイト』という組織を立ち上げることを、今、ここに宣言、いたしましょう』

『しかし、あなたがたに組織を立ち上げた。はい、そうですかと受け入れないのも自明の理。ですから、まずはあなたがたの常識を破壊しましょう。私が本気だという証明をする為に』

『全ての教室のスクリーンは、この放送室から操作できます。故に強制的な鑑賞会。私という存在を、その目と、耳で知りなさい』

『人類よ! 刮目せよッ! これが――』

『S○Xだッ!』

~~~~~~~~~~~~~~~

「これは……酷い……」

 アヒルは閉じ込められた生徒会室で一人呟く。聞こえてくるのは喘ぎ声。十五年は一般常識の中で育ってきたアヒルはかまととぶるつもりはない。声の正体くらいは予想がつく。

 紛れも無い。AVだ。

 唐突に始まった強制AV鑑賞会。エロのカリスマと名乗る変態は放送室をジャックし、高等部全体にAVを流しているのだ、確かにテロリスト。エロテロリストである。

 いや、しかしながら、どーよ、と呆れながら耳を澄ましてみれば阿鼻叫喚。女子生徒の悲鳴が生徒会室の客室まで届く。

 AVの嬌声に、悲鳴に怒声。今、睡蓮学園高等部はまさに地獄だった。

「いや、それにしても、こんな部屋に一人閉じ込められて、AVの音だけ、聞くってどーなのよ、私……」

 自分のおかれた環境にゲンナリしつつ、ソファーに座る。早く止まらないかなー、うわぁーとか思っているうちに、AVを聞かされて少し悶々とした気分になってくる。

(いやいやいやいや、隣は生徒会室だから、何を考えているの……)

 共学の中学出身のアヒルはそれなりに男子と接していた。けれども、処女ではある。それなりにいいなーと思っていた男子はいたが、付き合うには至っておらず、彼氏欲しいなーと女友達ときゃいきゃい騒ぐ日々を楽しむ普通の女子中学生であった。

 トップカーストではなく、上から二番目のそれなりにいけてる女子グループに所属していたアヒル。顔こそ、クラスでは上位であり、男子に告られた数もそこそこにある。けれども、処女を捨てるには少しばかり重い女であり、とりあえず付き合うってのもなーという思考の下、お付き合いした男子もいない。

 だからといって、性の知識が全く無いとかありえない。

 女だけでつるんでいれば男の話も出てくることもある。むしろ、下手すれば恋ばなばかりである。共学にいれば、男子がAVについてはしゃいでいることも何度か耳にしたこともある。恋ばなから男子の話になり、AVの話題が出ることもあった。

 そして、アヒルはある日、友人と一緒にAVを鑑賞することになる。

 女友達が父親のAVを発見し、偶々、遊びに来ていたアヒル達数人で鑑賞会となった。先行知識で漫画にてどういうものが性行為なのかアヒルは知っていたが、想像を凌駕していた。もっといえば、そんなに喘ぐものなのか、と。

 男性の言葉責め、女性の喘ぎ声。そうか、たえちゃんの親父さんはSなのか。アヒルはそう思った。

 顔を真っ赤にして女五人で鑑賞会をしていた日を思い出して、アヒルは我に還った。右手は胸に、左手はスカートの下に伸びていた。

(あ、あぶなっ!? 幾ら、一人だからってやっていいこと、わるいこと!)

 ぶるぶると顔をふり、スカートを正す。これ以上、個室にいられるか! うちは一人に部屋に帰るッ! と思い直した。しかし、残念、鍵がかけられている。生徒会からは逃げられない……


~~~~~~~~~~~~~~~~

 鬼の風紀委員長。お姉さまではなく、旦那様にしたい女性ナンバーワンを中等部から拝命し続けた女の中の男、風塵 雷子は竹刀を片手に放送室前に走ってやってきた。

「何があったァ!」

 放送部室前には三つ編みで、必死に扉をあけようとする女子が一人。

「ら、雷子さま!?」

「放送部員か? 中は一体、どうなっているッ!」

「わ、分かりませんっ! 本日の放送は私一人のご予定でして、鍵を取りにいっても既になく……」

「下がれ」

「へ?」

「こじあけるッ!」

 放送部員を下がらせて、雷子は手に持った竹刀で強烈な突きを繰り出す。ポニーテールがたなびき、美しい横顔に放送部員は見蕩れる。そして、ガラスが割れる音。スモークガラスで中が見えない放送部。しかし、風塵 雷子はそれをよしとしない。

鍵が無い?

ならば、こじあければいいじゃないか。

まさに力技。これが学園で旦那様にしたいと囁かれる女の本領。放送部員は震撼し、頬を染め、見惚れた。

そして、雷子もこれでどうにか中に入ることが出来ると安堵したのも束の間。

「なっ――」

 そこには壁があった。ガラスが割れた先には灰色の壁。

「な、何がッ!?」

「た、棚です! これ、きっと部室内にある放送機材がつまった棚の裏側ですわッ!」

「な、なんだとっ!?」

 つまり、扉を破ったとしても、第二の壁が雷子の前に立ちはだかった。雷子は割れた窓から腕を突っ込み、鍵を開け、扉を開き、棚を押してみる。

「くっ、重い……」

「む、無理ですわ、雷子さま!? 幾ら、雷子さまといえど、機材や資料のつまった棚を一人で動かせるわけないですわ!」

「くっ、しかし、これをどかさなければ――中に入れないではないかっ!」

「雷子ッ!」

 そこへ駆けつけてきたのは生徒会会長である姫宮 龍華と、副会長の二ノ宮 祥子である。

「姫! 放送部の入り口は棚で塞がれている! どこか、別の経路はないかっ!?」

「……ないわ、どうにかして、棚を動かさなければ」

「三人でようやく動く……といったところでしょうか……」

「ッ、早く、この耳障りな放送を止めるぞ、ニノ!」

「その呼び方はやめていただきたいと言った筈ですが、ライ」

「お前も、その呼び方やめろっ!」

「二人共っ! そんな話をしている場合ではないわっ! そこのあなたっ!」

 龍華は棒立ちしていた女子生徒に声をかける。

「は、はひっ!」

 放送部少女は背筋を伸ばし、慌てる。少女は「このまま軽く現実逃避していれば、問題解決しないかなぁ」と思っていたが、そんな甘い話はなかった。

「一番近いクラスから力のある人を呼んできなさいッ!」

「わ、わっかりましたぁーっ!」

 脱兎の如く、駆け出していく少女。姫宮の判断は間違っていなかった。例え、ここで放送部の三つ編み少女が力を貸したとしても大したプラスにはならない。そんなことよりも、腕力のある人間を数人よんでくれた方が遙かに早い。間違ってはいなかったが――言葉が足りなかった。

 最大の問題は三つ編み少女のポンコツ具合にあった。その問題は数分後に露見する。

 三人とも全力棚を押す。玉のような汗を流す姫宮。少しずつ、少しずつではあるが棚が動いている。姫宮が「遅いッ! なんで呼びにいくだけでこんなに時間がかかるのっ!」と苛立っているところへようやく少女が戻ってくる。

「お、お待たせ、しましたっ! もっとも力ある人です!」

「おーっほっほ! この学園でも最も権力のある私に力を借りたいという方はどなたかしらっ!」

 生徒会長 姫宮は思った。そして、滅多にないこと。姫宮 龍華が思考をそのままに、口に出すことなど、まず無い。そんな出来事を引き起こす程度には放送部部員の三つ編み少女はポンコツであった。

「こ、こんのぉぉっ、お馬鹿ッ!」

 お嬢様の中のお嬢様、学園きっての馬鹿ドリル。金のドリル巻きが今日も冴え渡る、世界有数の財閥の跡取り娘『金剛院 華子』が片手を口元にあてて、高らかに笑っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~

「せーのっ!」

「んぅっぅぅっ!」

「ぬぅぅぅぅっ」

「ですわーっ!」

「ひぃぃぃぃっ……」

 流石にこれ以上、時間をとられるには被害が大きくなる。それに、既に人が通るには半分程度の隙間は空いているのだ。幾らひ弱とはいえ、二人いればどうにかなる。

 龍華はそう判断をくだし、棚を押す。それにしては、ペースが変わらない。

「あ、あなた達、本当に力、入れてるんでしょうねっ……ッ」

「も、勿論ですわよっ」

「い、入れてますぅーっ」

 それなりの広さがある放送室の入り口。片側によって必死に壁をおしているかのように見える姿の五人。そして、響くあえぎ声。姫宮 龍華の苛立ちはマックスである。

 そして、ようやく。

 ようやくである。隙間ができた。そこから、鍵をあけ、扉を開く。そして、再度、棚を押し、部屋の中に入れる程度の隙間が出来上がる。

「ッ! いくわよっ!」

「はっ!」

「あぁ!」

 龍華の合図に祥子と雷子が続く。そして、放送部に入った瞬間。居た。それは確かに居たのだ。姫宮 龍華が生徒会として抱える問題の案件の一つ。

 変質者、変態。半裸のマント。

 黒のマント。フルフェイスマスク。細く引き締まった身体。黒のVパンツ。噂のもっこり。

「随分と苦労なさったようで。余りにも棚が動いていませんでしたから、こちらも手伝おうか、と悩んでいたところですよ」

 美しいテノール。フルフェイス越しに聞こえた声に龍華はイラつきを抑えながらも、冷静に振舞う。やれやれと肩を竦める仕草も半裸にも関わらず、似合っているからこそ龍華は苛立ちが湧いてきた。しかし、これもまたぐっと堪える。

「えぇ、どこかの誰かが封鎖なんてしてくれたおかげで」

 明らかな挑発だ。しかし、龍華は追い詰めているという安堵から相手の挑発に乗ることはなかった。部屋は無人。他に人が潜んでいる気配はない。部屋の中央で、優雅にたっている男は確かに追い詰められている。

「それは失礼。少しでも、長く鑑賞会をしようと思いましてね。途中で邪魔が入るなど無粋、この上なし。しかしながら、まだ前戯の途中ですが、中止にしましょうか」

 黒の手袋をつけた男が放送機材に近づこうとした瞬間。

「止まりなさいッ! 結構よ、あなた、止めてきなさい」

「ふぇ、ふぇぇぇぇっ!?」

 放送部員は間違いなく不幸だった。恐る恐ると放送機材に近づき、放送停止ボタンを押す。そして、色々と弄り、ディスクが出てきた。

「こ、これ、どうしますぅ……」

 まるで汚物に触れるかのような仕草。

「プレゼントしますよ、お嬢さん」

「ふぇぇぇぇぇっ!?」

 涙目である。小走りに役員側に戻ってくるポンコツ放送部員。なるべく後ろの方に控えて存在感を消した。最早、関わりたくないまである。

 姫宮 龍華は確かに変態を追い詰めている。武器を持った風塵 雷子という存在も居る。しかし、取り押さえるという安直な行動は慎んだ。

 五対一ではない。実質的にいえば三対一であるのだ。龍華の戦力に数えられていないのはドリルとポンコツ。尚、的を射ている模様。何故、三対一、数の利があり、武器まで持っているにも関わらず押さえかからないのか。

 一つ目は変態の強さが不明であるからである。

 見た目からわかるように筋肉は引き絞られ、動けるように見える。さらに言えば最も重要な点。あの棚を動かしたのは紛れも無く目の前の変態である。もしも、この場に誰もいないというのが事実であるのならば、突っ込むのは愚策。あの棚を一人で動かした可能性。そうなれば腕力は相当なものである。

 二つ目は応援がかけつけるからである。

 この放送室にはいざという時の非常ボタンがある。このボタンを押せば、警備の人間が駆けつけてくる。龍華がポンコツにさりげなく耳打ちをし、押すように指示をだした。ポンコツはポンコツであった為に「あ、あれ、どれだっけ、これだっけ? これ? これ?」と色々と残念だったが、変態が動く様子がないために龍華達もまた動くことはなかった。

 つまり、時間が経てば経つほど有利に働くのは龍華達。さらに、自分達は今、紛れも無く疲労している。超重量の棚を動かした直後だ。万全に動けるわけがない。

「さて、棚を動かして、物凄く疲れているでしょうから。あなた方が万全を期すまでの時間を自己紹介にあてましょうか」

(見抜かれているッ……)

 余裕綽々の態度に苛立つ。龍華の心境は複雑だ。追い詰めている。自分達は間違いなくチェックをかけている。目の前の変態に対して、王手をかけている。にも、関わらず、変態の余裕な態度。追い詰められているのはこちらではないか。そんな不安すらよぎってしまう。

 じりっと下がったのは龍華の足であった。

(恐れた……私が……? 変態ごときにッ……!)

「お初お目にかかります、生徒会役員の皆様。そして、サロンの女王。本来ならば、サロンの女王には別途挨拶をするつもりでしたが、手間が省けるとは思いませんでした。名を名乗りましょう、私は――」

「必要ない。あなたみたいな男、下賎で、下品で、どうしようもなく。男という最低の種族でありながら、その中でも変態という最底辺で、気持ち悪さナンバーワンのごきぶり蛆虫野郎のことなんて――」

 祥子が存在を否定するかの如く、罵倒する。まるで相手に喋らせるのが嫌で、声すらも聞きたくないとばかりに口に出すが。

 間。

 空白の間があった。息継ぎをしたのか、言葉が思いつかなかったのか。理由こそ、二ノ宮祥子本人にしかわからない。しかし、端から聞いていれば怒涛とも呼べる口撃の最中。

 本当に、人が意識をするには小さすぎる間に。

「エロのカリスマと申します」

「――――ッ!?」

 変態は名乗った。

 そして、余りにも強すぎる印象が植え付けられる。その僅かな間。圧倒的な空白にこそ、忘れるにはあまりにも強烈すぎる印象を女性たちは与えられてしまった。

「どうぞ、お見知りおきを」

 そして、優雅すぎる一礼。まるで物語に出てくる王子様のように。純粋培養で育てられたお坊ちゃまのように。気品溢れる一礼がそこにはあった。

「ッ、はああああああああああああああああああッ!」

 裂帛。この場で最も男の存在を恐れたのは武道に通ずる風塵 雷子であった。手に持った竹刀で面を飛び掛る。当たれば昏倒するのではないかと思われた一撃は――空を切った。

 バックステップで完全に見切り、かわされた。

「ふふっ、元気のいいお嬢さんだ」

「ひっ!?」

 避けられて、気づく。圧倒的なまでの実力差。目の前の変態は剣閃を見て、後だしで避けたのだ、と。化物じみた身体能力に雷子は悲鳴を漏らす。なんと言う反射神経。なんという身体能力。

「ひ、退きなさいっ!」

 龍華の命令は誰にくだしたものなのか。無様を見せた雷子なのか、取り押さえようと伺っていた祥子なのか。それとも、無謀にも挑もうとする自分の両足なのか。

 だが、間違いなく通じるとは想像していなかった一人。

 この場で最も余裕がある存在が自分の命令を受けて、一歩下がったことに驚き戸惑った。そして、こちらを見たまま、二歩、三歩と下がっていく。何故、一体、どうして? 疑問符ばかりが脳裏によぎり――

 窓が開かれる。

「な、何を――」

「ふふっ、想像が足りませんね、生徒会長ともあろう御方が。強かさも足りなければ、覚悟も足りない。それでは、私の革命を止めることは出来ない」

 そして、男は窓枠に足をかける。全員が目を見開く。高等部放送室。それは校舎の五階に存在する。故に、その逃走経路は度外視されていた。

 窓から飛び降りる? 馬鹿な、ありえない。死ぬ気なのか? いや、死なないにしても怪我を負うことは間違いない。そして、そんな状況で逃げ切るわけがない。

 姫宮はありえない逃走経路を見て、絶句する。たった一人、変態を除いて。

「私の名前はエロのカリスマ、もう一度、言おう。エロのカリスマです。この退屈な学園に秩序とモラルの破壊を! これは私の性戦なのです! 故に当然、私には――」

 誰かが唾を飲んだ。

「覚悟がある。あなた方とは違い、エロに対する革命的覚悟が私には存在するっ! 小細工結構。大いに結構、時間を稼いで、警備員を呼ぶのも。しかしながら、それは正解ではない! あなた方は何としてでも、私を取り押さえなければならなかった! 生徒会長――姫宮 龍華。あなたは間違えたのだ! この場での最適解は私を無力化すること。その他ならない。追い詰めた? 何を暢気な! この程度で捕まり、諦めるのならば、最初から革命など起こしていない! ふはっ、ふはははははっ! ふっふっふぅふふふふ、はははは、はぁーっはっはっは!」

 そして、窓枠から飛んだ。

「馬鹿なッ!?」

 飛んだのだ、変態が! 変態、まさかのフライアウェイ。変態、四階から飛ぶ! 真上に。ありえない、真上? えっ、そんな馬鹿なッ!?

 姫宮は窓際まで走り、上を見上げる。

 そこにはあった。確かに、ロープが存在した。変態は飛び降りたのではない。登ったのだ! 壁を、半裸で! 四階から、半裸のまま両足で、壁を! 半裸でッ! 駆け上ったのだ!

「やら……れたっ!」

 そこへかけつけてくる、女性警備員。

「全員、屋上へ向かいなさい! 何としても、変態を取り押さえるのですッ!」

 姫宮の合図の下、女性警備員は屋上へ向かった。しかしながら、辿りついた時は既に無人、屋上のてすりに巻きつけられたロープだけがそこに確かに存在したのだ。


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