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昔、書いてた奴のまとめ 作者:無職童貞

異世界クラス転移もの

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002-7

二章 プロローグ

 唐突にだが、正義の話をしよう。正義とは何だろうか。そう考えるとき、まず思うのがその答えを何人が知っていて、何人が答えられるのだろう、ということだ。少なくとも、その答えの正解をすべて他者に委ねるというのならば、正義というものの形は統一であるべきだ。

 だって、そうだろう? 正義を他者に委ねるのならば模範解答が必要となる。ならばこそ、正義は必ず一致して、ずれもせず全員が納得できる形で存在するのだ。

 それでは、正義の話をしよう。正義とは何だろうか。答えは簡単だ。答えなど存在しないのだから。例え、答えたとしてもその答えを他人ではなく自分で判断するのだから、何、難しい話じゃない。ただ、それが戦争というものだ。

 そうだろう、空洞 空委員長。

 彼女はそう言って嗤った。口角を吊り上げて、微笑み、そして、正義を通すために僕の前に立ちふさがる。正義、それは正義なのだろうか。そうなのだろう、きっと彼女の正義とはそうなのだ。何も間違いじゃない。こちらの正義がある以上、立ち向かうべきは悪であり、悪ではない。僕らが悪だと思っているのはいつだって、他人の考え、他人の正義。

 私利私欲だったとしても、到底受け入れられない話だったとしても。それが彼女なりの正義なのだ、通すべき道なのだ、通るべき道なのだ。だから、戦争。

 女子、出席番号十九番。薄いフレームにおかっぱ頭の女子。顔立ちは綺麗なのに、それでいてどこか他人を見下ろしがちだった、元『孤高の独裁者』 法理 矛盾。異世界生活を始めて、三週間目。ゆっくりと、ゆったりと確実に僕達が進んで来た道。

 最初に明確に否定したのは何を隠そう「クラスメイト」を愛している法理 矛盾だった。クラスメイトを愛しているが故に、法理 矛盾はクラスメイトの前に立ちはだかる。けれどもそれは意味がわからないわけじゃなかった、理解できないわけじゃなかった。

 ただ、僕は共感できなかっただけ。ただ、法理 矛盾。君は勘違いしていることだろう。君が思っているよりか遥かにこの世界は最低だということを。それでも、君は僕の前に立ちはだかるのか。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 飲み水でうがいをする。何だかとても不思議な感覚だ。六日目の探索を終えて、僕達はとうとうカードキーを八つ溜めた。一つは武器屋、一つは酒場、一つは食材屋、一つは教会、一つはパン屋、一つは雑貨屋、一つは魔法屋、一つは大浴場である。

 確認をしてみれば扉は全部で十八存在し、時折現れるゴブリンという魔物を倒せば、カードを落とすことがある。但し、だ。危険が無かったわけでもない。赤い化け物とはいかないまでも青い化け物が二度、現れた。その時、襲われたパーティーは大怪我を負うことになる。流石に死ぬとまではいかなかったが、それでも腕を折ったりなどと重傷が相次いだ。ただ、どちらも同じような場所に現れているので同一体であると推測された。

 しかも、全員で行動をしていると『モンスター』と呼ばれる魔物はとんと現れることはない。七人前後で行動をすれば現れるが、それでも全員で集団陣形を組んでいると一切、姿を見せないのだ。

『恐らく、人数制限でござろうな。ここまで偶然が続けばそう考えられるのが普通でござる。最大七人で一つのパーティー、クラスで言えば……五チーム丁度でござるな。何とも、まぁ、凄い偶然でござる……』

 小堂が言った説は正しいのだろう。七人で町を探索すれば青の化け物や緑の化け物と出くわすことがあった。ただ、一つ間違いがあるのなら。

 クラスメイトは現在三十四名。先生一名の計三十五名。けれども、三人、他に居ることを小堂は知らない。僕達が『五十ポイントボーナスゾンビ』と呼んでいる外に居る女子の制服を着たゾンビと男子の制服を着たゾンビが僕達のクラスメイトであることを知らないのだ。

 全員のレベルがあがってから、何度かゾンビを倒すことをしていたそうなのだが、レベルは上がらず、それでいてもらえるポイントも五十固定なので、今では六時間おきに誰かが倒しに行く、そんなローテーションが組まれている。

『恐らく、あれじゃね? 救済措置みたいな。よくあるんだろ、ネトゲとかで』
『うむ……その可能性もあるでござるな。最低限、五十ポイントあれば全員分の水と食料が賄える。節約すれば安いものとは言え、槍を三日で買えることになるでござる』
『んじゃ、まぁ、別に積極的に倒す必要もねぇか』
『その通りでおじゃ。それでは檜山、次はどっちに向かうでおじゃ?』
『……槍が倒れた方向』
『何とも適当でござるなぁ……』

 昼頃の出来事を思い出す。現れた青の化け物。名前は――ロックゴブリン。前衛に僕と檜山と野母に麻呂と小堂、後衛に法理が居て、弓を構えている。法理の周りでヤンキー男子、リーゼント渡辺が周囲を警戒している。

 クラス内で唯一の弓道部である法理が狙いを定めている。ただし――

『あ、法理! 今、僕に掠ったぞ!』
『あぁ、すまないね。何分、下手糞なもんで』
『よく、後衛志望したな!?』
『ふふふっ、言っては何だが、前衛でまったく役に立つとは思えないよ。何せ、非力の法理と言えばワタシのことだからね』

 僕は槍を繰り出しながら、法理に文句を言う。

『……というか、空洞殿は余裕があるでござるなぁ』
『おじゃ、おかしいでおじゃ……麿達が必至に槍を動かしているのに、委員長だけ会話をするとか……』

 青い化け物に槍を刺す。ただし、肌をギギギギッと削るだけで多少の切り傷が出来る程度だ。おかしい、目がこんなに堅いとか聞いてない。あの赤い化け物ですら、木の杭で貫けたのに槍で傷を入れるのが精一杯だなんて、どう考えてもおかしい。

 膂力も、武器のスピードも、速さも、そして嫌な気配も赤い奴以下であるにも関わらず、まったくと言っていいほど攻撃が効かない。

『まったく、クソゲーでござるよっ! どうして、ゴブリンがこんなに硬いでござるか! どう考えても目は急所でござろうっ!』
『そうでおじゃ!』
『いいから、さっさと槍で突け! おい、ソラっち、何で、やる気なさげなんだ』
『これが僕の普通だっての……』
『もぅん、ほんとに立派すぎて、ビンビンきちゃうわぁん! あたし、ゴブリン相手なら楽しめちゃうかも……』
『おい、筋肉、ぶっ飛ばすぞ! ソラっち、だからやる気……だーっ、クソ、いったん、離れる!』
『おい、待て、槍で全員で押し返しているのに、一人離れたら!』

 全員で突っ張り棒よろしくゴブリンを押し返していたのに、檜山がさがったせいでゴブリンが突撃してくる。というか、こいつ何だ、馬鹿なのか? 槍衾を問答無用で突撃だなんて……

 僕達の槍が突撃するロックゴブリンの皮膚に押し返されて、それぞれ体勢が崩れる。

『おかしいでおじゃ! ゴブリンなのにレイドやパーティー並の戦闘だなんて聞いてないおじゃ!』
『誰も説明してないからな! おい、檜山! 戻ってこい!』
『うっせー! 今から、助走で一気に決めてやるから、少し抑えてろ』
『だぁぁっ、クソ、押し返されるぅぅぅっ』
『ふふふっ、いい気合だわ、ゴブリンちゃん。いえ、ゴブちゃん。あたしの力とあなたの力、どっちが強いか試しましょうん』
『馬鹿、五対一の時点で既に相手優勢だっての、野母ォ……』
『行くぞ、ソラっち!』
『遅いぞ――って、ぇええええええええっ!』

 助走して、飛び掛るように槍の柄で思いっきり殴りつける檜山。

『いってぇぇぇ……手がジンジンしてやがる……』
『馬鹿なのか、お前! 皮膚が硬いことは突きまくってわかるだろうが!』
『いや、やれるかな、って思って』
『やれねぇよ!』
『委員長、撤退でおじゃ』
『ぷひぃ、これは流石に、もう無理でござるよぉ……』
『ッ、わかった。最初に小堂と麻呂から離れろ。次に野母、最後に僕がひきつける』
『あはん、殿を務める空洞ちゃん、濡れるわぁん』
『濡れるな、馬鹿っ!』
『おじゃあああああああああっ』
『ドロンでござるぅぅぅぅぅう』

 槍を手放して、一目散に逃げさる二人。その瞬間、こちらに近づこうとゴブリンが飛び込んでくる。僕はそれを避けて、槍を繰り出す。

 パキン。

 間抜けな音だった。今まで持っていた槍の柄が折れる。

『ソラっち!?』
『う、お、マジかよ……』

 急激にバランスが崩れて、倒れこむ。ロックゴブリンは右手の剣を僕の頭に向けて。

『回避ッ!』

 ゴロンと転がり、間一髪。危ういところを避けきる。

『か、神回避でござる』

 けれども、完全に立ち位置は反転。こちらは転がっている。全員がどうしようと焦っている。焦るな、落ち着け。目が駄目、網膜も硬い。皮膚も硬い。立ちあがるタイミングも難しい、なら――

『ソラっち、危ねぇ!』
『南無ッ!』

 折れた槍の穂先を握って、折れた先の柄を持って横向けに、振り上げられ下ろされる剣を受け止める。重ッ……相手が体重を乗せてじわじわと剣先が迫ってくる。こちらは仰向けの状態で間一髪受け止めただけ……両足で腹を蹴る、まるで岩を押し上げるかのごとく重い。

『ぬ、ぬああああっ……』

 何とか、ゴロゴロと転がり距離を開く。危なかった、死ぬとこだった……

『撤退だ! 走れ! こいつ、これでも喰らっとけ!』

 僕は折れた槍を投げつける。

『ぎぃっ! ぎぃっ!』

 叫んでいるゴブリンの口元にナイスイン。そのまま、口内を貫き、背後まで飛び出る。そして、血が飛び出て、のたうち回った後、さらさらと灰になって消えていった。

『えぇぇぇぇっ……』
『えっ、倒しちゃったのか、ソラっち』
『どういうことでおじゃ、意味がまったくわからないでおじゃ……』
『ロックゴブリン……外は岩のように硬くとも、中は柔らかかったというわけでござるな』
『あぁん……ゴブリンちゃん……』
『おい、筋肉。なんでそんな残念そうなんだよ』
『だって、あんな見事なイチモツ、滅多に見れないわよん……』

 そうなのだ、あのゴブリン。腰布が短いせいでプラプラとモザイク上等なものが揺れていたのだ。

『あの大きさは空洞ちゃん並ね……』
『おい、何で、お前が僕の大きさを知っている』
『あらん、去年の学祭の時、皆で一緒にお風呂に入ったじゃないん』
『あぁ、あの悪夢の大浴場な』

 やってきた渡辺が遠い目をした。僕も懐かしむように遠い目をした。そして、僕と渡辺はガクガクガクガクと震えはじめる。

『ソラっち!?』
『どうしたでおじゃ!? 急に渡辺と委員長の目からハイライトが消えたでおじゃ』
『……あの時、私は若かったわん』
『尻を撫でられただけで良かった……』
『俺は握られた……』

 野母のとんでもない事件を俺達は思い出す。嫌だ、思い出したくも無い。

『いつか、空洞ちゃんにはお世話になりたいわん』
『絶対に断る』
『……いけずぅん』
『け、けど、空洞殿はそんなに大きいでござるか……』
『おじゃ……これは皆に』
『言うなよ! 絶対に言うな! 絶対だからなっ』
『ソラっち、それって前フリだろ……?』
『違ェ! 別に僕のアレの大きさが人より大きいことで、お前らに何も迷惑をかけるわけでもねーんだからいいだろ!』
『……ござ』
『おじゃおじゃ、まぁ、麿には関係ないけど、関係を持ちたいという女子は増えるでおじゃるな』
『何でだよ……別にいいだろ、男で性欲なんて持て余している奴なんて幾らでも居るんだから』

 僕は溜息を吐きながら呟く。ここ最近、美味しいか美味しくないかはさておいて、肉や野菜も取れるようになったので健康状況は回復している。ただし、凄く不味い。酒場レベルⅠは店を開いてはいけないレベルだった。いや、開いてないと困るが。

『ふふっ、委員長。では、君はどうやって処理をしているのかな。女として、私も気にならないと言えば嘘になるから、素直に尋ねるとしよう』
『……ノーコメント』
『駄目だっ! さぁっ! 言いたまえっ!』
『そうよぉん、是非是非、聞きたいわん』
『あ、あたしは別にどうでもいいけど』
『拙者は、そのぅ……』
『おじゃ! 委員長の丸秘話でおじゃるな!』
『委員長は童貞なんだよな? な!』

 えぇい、うっせぇ……誰が言うかよ。僕は灰になったロックゴブリンの中からカードを取りだす。

『魔法屋・レベルⅠ』

『ま、ほう……?』
『本当ですか、委員長! 私に見せてください!』
『素が出てる、素が出てるぞ、小堂』
『ふひぃ! マジで魔法にござる! 拙者、妖精になるでござるよぉ!』
『麿は残念ながら、その資格がないでおじゃ……』

 肩を竦めて、ふぅ、やれやれと首を振る麻呂。その様子をまるで裏切られたとばかりに見ていたのは何を隠そう小堂 祥子だった。

『ど、どういうことでござぁぁぁっ! これは重大な裏切りでござるよ! 処女を卒業する時は一緒に卒業しようね、って枯れない桜の木の下で約束したではござらんか』
『知らぬ知らぬ。麿は彼氏が居るでおじゃるよ』
『ふぉぉぉぉぉっ、誰でござるか! 誰でござるかぁ!』
『ふっ、醜いよのぉ、下々の人間の妬みとは、にょほほほほほー!』
『えぇい! この贅肉! この贅肉! ぽっちゃりがいいでござるか、この肉がいいのでござるかー!』
『や、やめよ。麿の肉を摘まないでほしいでおじゃる』
『……』
『おい、檜山、どうして目が死んでるんだ……』
『いや、あたしってあの化け物で処女を失ったと思うとなぁ……』
『まぁ、犬に噛まれたと思って忘れろって』
『そーそー。檜山さんなら彼氏くらいすぐに出来るだろー』

 僕の台詞に渡辺が同意してくる。

『別に彼氏が誰でもいいってわけじゃねーよ……』
『へぇ、まぁ僕が知ったこっちゃねーけど……っておい、何、さりげなくローキックかましてくれてんですか』
『うっせぇ! この委員長野郎の癖に!』
『いたっ、いたっ!』

~~~~~~~~~~~~~~


 ともあれ、僕はそんな経緯で新しいカードキーを手に入れた。ガラガラと喉をゆすいでトイレの穴に吐き出す。何で、洗面所がねーんだよ、ここは。雑貨屋で買った歯ブラシをトイレの穴がある小部屋の棚において外に出る。

「魔法……か」

 イマイチ、実感が無い。どんなものなのかも想像ができない。そういうものに対して知識が無い為に実感が湧かない。

「魔法なんて、ものがあるなら、元の世界に帰してくれねぇかな……」

 ポツリと呟く。そうすれば、僕はどれだけ、救われるか。どれだけ、楽になれるか。この身を縛る罰から抜け出せるのか。

 剱山、椿、野原。

 三人を糧にして、僕達は今日も生きている。さぁ、もう寝よう。悪い夢だと思って、目が覚めればもうすぐ始まる修学旅行の班決めという日常に戻っていると信じて。
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