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昔、書いてた奴のまとめ 作者:無職童貞

異世界クラス転移もの

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002-1

異世界クラス転移ものです。未修正なので、大規模な名前置換をやっていたような記憶がありますのでミスがあるかもしれません。



 人生の主演は己らしい。らしいというのは実際に体感したわけではないので酷く曖昧な表現になってしまうが、人生とはそういうものであると、偉い人がいつか、どこかで言ったことがあるから、そういうものだと納得していた。

 主演。それは主観とは違うのだろうか? 主観しか持てないからこそ、主演にしかなれない。つまり僕達は脇役であることすらも許されないのだ。そう考えれば主演なりの苦労というものもあるのだろう。実感したことはないけれども、うすぼんやりとそんなことを考える。

 仮に主演だったとするならば(いや、主演であるべきであろうが、そもそも僕が主演であるという意識はあまりないのだ)それは余りにも面白おかしい配役ではないだろうか。主演は主演たる理由があって然るべきなのに、僕には何も無い。何も、ないのだ。何もないことがそもそも持っているという、そんなレベルのお話ではない。

 個性も、突き抜けるものも、不幸も、幸福も、自慢できるものも、趣味も、得意な教科科目も、不得意な教科科目も、優れた身体能力も、非凡な何かも。何もない、けれども、それが珍しいというわけでもなく、当たり前のことで、とても主演と呼べるような何かを僕は何一つとして持っているわけではないのだ。

 けれども、勘違いしてほしくないのはそれを不満に思っているわけではないということである。主演である、らしいという話題になった時にそんなことを思っただけで。今の僕に、僕自身に才能がないことが何の不満も持っていなかったりするのが現状である。

 無論、小さい不満ならば幾らでもあるだろう。けれども、それを突き詰めて、自分に才能がないことを責めるほど、自分の中身に期待していないし、きっとその程度であることをわかっているから、いつでも捨てられて、いつでも投げ捨てられて、いつでも投げ出して。逃げることにも躊躇いがない。

 そう考えた時に自分は酷く冷めた人間ではないだろうか、と恐怖することもあった。けれども、それも納得して、折り合いをつけて、不満を抱くこともせずに淡々と日常を生きていくのに不都合を感じたこともない。

 ただ、個性と呼ぶべきほどでもないことだと、その性格。何故なら、誰だって、そういうものだから。そういうものだろう、そういうものだと見てきたから。大体の過半数、いや下手をすれば八割ほどの人間がそんな人間である。

 だって、大体の人間が才能など持っていないのだから。大体の人間が諦めずにもがくなんて方法をとることができないから。だから、量産型の僕のような存在が大量に生まれてきてしまうのだろう。

 さて、そんな量産型の存在を果たして主演と呼んでしまっていいのだろうか。いや、いいのだろう。事実、世の中には似たりよったりの創作物など幾らでも存在している、つまりのところ、量産型であれ、何であれ。存在することは許される。けれども、支持を受けるかどうかは別問題ではあるが。

 誰も手に取らない本、観客の入らない演劇、聴かれない音楽に一体どれほどの価値があるのだろうか。主演であっても、いや、主演であるからこそ、その惨めさというのが際立ってしまう。

 さて。少しばかり前置きが長くはなったが、主演が僕のお話を始めるとしようか。とても退屈で、ありふれて、ありふれたと呼ぶような人生に、小さな石を投げた。けれど、それでも。極々、取るにも足らない、誰も気づきもしない、さしとて伝説になるわけでもない、探せばどこにだってありふれたようなお話。

 ただ、幾つか僕の物語を読むに従って注意事項をさせていただこう。

 一つ。空洞 空は勇者ではない。
 一つ。空洞 空は正義ではない。
 一つ。空洞 空は愛には生きない。
 一つ。空洞 空は裏切らないことはない。
 一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――、一つ。空洞 空は――

 空洞 空こと、僕は異世界に召還されたという非現実的な展開であったとしても物語の主演と呼ばれるにはあまりにも平凡だった。だからこそ、期待もせずに、どこにでもある、誰でもいいようなお話でよければ、僕という物語を読み進めて欲しい。





001


 人生において、平常心を失うほどの出来事とはどのような出来事だろうか。そう考えてみれば、中々にお目にかかることなど滅多にないのかも知れない。例えば、災害。そう、災害にあってしまえば確かに気を失ったり、混乱の極致に陥るのかもしれない。

 なればこそ、これは災害だ。災害であろう、何せ。教室でホームルームを受けていたら、景色が変わって、理解できない出来事に巻き込まれ、挙句には勇者様方と呼ばれて、見も知らぬ場所に居て、平常心を失ってもおかしくはないのだろう。いや、むしろ平常心を失わないほうがどうかしている。

 つまり、ここでの出来事に混乱をするならまだしも理解を示す。そんな出来事はあってはならないのだ。とも、まぁ。こんな事を考えるくらいに僕は混乱していた。つまり、先ほど述べたのは現実に襲い掛かってきた非現実の出来事であり、事実であるのだから、救いようも何も無い。

 災害のような出来事。それに混乱して当然のできごと。ならば、混乱をきたすような出来事は何と呼べばいいのか。やはり、これも災害なのだろう。天災なのか、人災なのかは未だにわからない。何もわからないし、理解もできない、納得すらできていないのだ。だからこそ、ゆっくりと今朝からの出来事を振り返る。泣き喚いている、怒声を飛ばしている、何故か雄叫びをあげている、茫然自失としている、三十六人を他所にゆっくりと思い出そう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 私立六道学園高等専修学校。通信制単位の私立校でありながらも、全日制という非常に変わったスタイルの高校である。学校自体に高校卒業の資格がなく、通信制、いわば六道学園の経営元である別の学校が高校卒業の資格を出すという不思議な形態は詳しく話そうとすれば少し小難しいことになり、そもそも詳しく話そうとも内容を知らなかったりするのだから困ったものである。

 複雑な経営形態でありながら、その最大の特徴は県内屈指の低偏差値高校である。経営スタイルの複雑さと生徒の質には一切の関係が無い。また、通っている生徒にも特徴が現れている。完全なる二分化。オタク、もしくはヤンキーの巣窟である。どこの学校でもそうなのか、低偏差値の学校ともなればそういう人種が集まっているのは気のせいではあるまい。

 ともあれ、元ひきこもりだったり、中学校時代にヤンチャしたりで出席日数が壊滅だったりなどと言った人間の受け入れ門戸など限られていて、その限られた門戸が私立六道高等専修学校なのだ。

 何の因果か五年前まで女子高であり、その名残というか、女子高イメージ色が強いのか女子が七割、男子が二割五分、その他が五分(意味深)の学校であり、女子のヤンキーが四割、男子ヤンキーが一割、オタク系女子が三割、オタク系男子が五分未満、残りがその他だったりする。

 田舎町の山奥にある学校だから、まともに生活をしていれば自然と足腰は強くなろうであるものの、煙草を吸っていたり、元が引きこもりだったりといったせいか、スポーツ系の部活動は弱い。かと言って、文化系の部活が華々しい記録を出したという結果も見当たらない。

 入学金と学費はそこそこ高いが、どこの高校でも受け入れられない問題児でも受け入れるそのスタンスは少子化の影響を受けずに入学者数の確保だけはしてきた。それでも最近は減少の傾向にあるというのだから、共学化したのだろう。ただし、一年くらいで入学者数から在校生の数が半分を切ったりなどといった問題もあったりする。校則違反で退学だったり、妊娠して退学だったり、引きこもりから立ち直れずに退学だったりなどと言った様である。

 そういう生徒が多いから、矯正プログラムらしきものも組まれているが、それが実を出しているのかは甚だ不明だ。そもそも、結果を出しているから半数で済んでいるのか、結果を出していないから半数も退学させてしまったのか。

 そんな学校の教師のモチベーションはお世辞にも高いとは言いづらい。ベテランになればなるほど、そのようなモチベーションは持ち合わせてなどいないのだろう。新人教師も三年も経てば、生徒の質の悪さにげんなりして、やる気と聖職者って何……? とばかりの態度に早代わりである。

 悪名こそ幾らでもあるが、名前がプラスに働くことなどない。それが私立六道高等専修学校の正体である。わざわざ、正体と呼ぶほど大袈裟なものではなかったのかも知れないが。

 さて、そんな学校に僕が通う理由。単純に中学校時代、やんちゃだったから。否。むしろ逆であろう、それなりの模範生徒だった。単純な学力不足。否。学力で言えば平均を保っていたし、取り立てて悪かったということも無い。単純に誰か知り合い、それも高校を選ぶ程度に好意的な相手が存在したから。否。そのような人物は未だ居らず、人生の大切な部分を犠牲にしてまで好きな相手など居ない。ならば、校風に憧れたから。それこそ、否。述べた通りに何の薬にもならない学校だ、選ぶ理由などほぼ無い。そう、ほぼ。

 理由は一つ。奨学生だったからだ。優れているわけでもない学力でありながら、完全に学費と入学費の免除があった学校が六道だけだったから。それが理由で僕は入学を決意した。中学卒業で就職を考えていた身としてはモラトリアムが増えた、程度の認識であった。流石に大学の方は完全に諦めている。六道の悪い意味での知名度から、返済不要の奨学金制度が見当たらなかった為に切り捨てるのに躊躇いはなかった。もしも、中学時代にもっと勉強を頑張っていれば違う選択肢があったのだろうが、過ぎたことだろう。

 そんな理由で僕は六道へ続く山道を歩いている。徒歩三十五分、そんな道のりを通い続けて早一年と半年ちょっと。自転車で登るよりかは徒歩の方が遥かに楽な道のり。十一月にもなれば新入生の何人かがバイクを空吹かせ、斜面をぐんぐんと登っている。何故、新入生限定かというと、バイク登校は禁止なのである。無論、そんなルールをガン無視している奴は後で呼び出し、停学、謹慎の処罰が降ることは間違いないだろう。そして、そんなことが続けば単位が足りなくなり、留年か退学の措置が取られる。

 つまりは一年を経て、秋の紅葉が降り注ぐ中、この坂道を歩いて登校する人間は選ばれし存在なのだ。やだなぁ……そんな選ばれし者。

「うーっす!」

 背中に衝撃。甲高いロリボイスと共に背中にそこそこ渾身の一撃が加えられた。体勢をよろよろと崩しながらも、ガードレールに手をついて、事なきを得る。背後には声に相応しい身長と体型を持った女子生徒の姿。髪型は肩から下はゴム紐で一つに結んでいる金髪。吊り目ながらも非常に大きな瞳を持つ顔は整っていて、薄くメイクも施してある。

「……なんだ、檜山か」
「なんだとは、なんだ、てめー。朝からテンション低っくいな」

 隣に並んで歩き始める。隣に立つと身長の小ささや小柄さが際立つ。決して、男子の中でも高いほうではない僕から見て、頭二つ分というのは些か小さすぎる。一五〇は確実にないだろう。後、低いのはてめーの身長だ、と心の中で呟く。口にすれば最後、さっきの背中の張り手以上の攻撃が待っていることだろう。

「なぁなぁ、ソラちゃんよぉー。数学の課題はやった?」
「やった」
「相変わらず、真面目ちゃんだよのぉ。うむうむ、お姉さんは嬉しく思うぞよ」
「……ふっ」

 僕は鼻で笑う。それだけですべてにおいて優越感に浸れるのだ。もし檜山桃香の身長に意味があったとするならば、僕の心に安らぎと平穏を与えてくれるためだろう。そう考えれば格下の口撃に一々、腹を立てる道理も無い。

「おい、今、あたしの身長を見たな?」
「別に」
「何か言いたいことあるなら、言えよ、喧嘩なら十万倍殺しで返してやっから」
「特にありません」

 女優のごとく言い放ち、坂道を歩く。その後も檜山と普通の雑談を交わしながら坂道を登っていく。珍しい光景ではないだろう、檜山 桃香とはそういう人間である。誰でも直ぐに仲良くなれて、誰にでも親しい。別の言い方をすれば馴れ馴れしい。無論、それを嫌う人間も居ることには居るが、表面上では仲良くしている。

 それを悪いと言うのはお話の中だけだろう。現実という世界において、そのやり方は酷く正しい。誰だって、表面上で取り繕いながら、裏で陰口をたたきあって、それでいて仲のいい振りをする。悪いことなど何も無い。だって、それが円満な人間関係を築く方法の一つなのだから。そんなんじゃ友情を育めないなどと言った甘ったるい意見など聞くにも値しないのだ。

 そもそも、友情は育むものではなく、選択するものだから。誰かを切り捨てて、何かを切り捨てて、そして、選択した結果、仲のいい友人が出来上がる。友人Aと友人Bを天秤にかけて、友人Aを選んだ結果、友人Aと仲良くなる。その突き詰めが親友というカテゴリなんだろう。これを育むと言う綺麗な言葉で纏めることなど、僕には出来やしない。

「んあ」

 隣で変な声がしたかと思えば、下駄箱を開けた檜山が上靴を見ている。いや、上靴を見ているわけではないだろう、きっと視線の先には別の物がある。特に気にすることもなく、僕は上履きを取り出し、履き替える。その間に檜山も上履きに履き替えて、視線の先にあったものを手にとって溜息を吐いていた。

「やる」
「い・る・か・よ!」

 隣から差し出された手紙を全力で拒否する。何で他人宛のラブレターなんぞを貰わなければならないのだろうか、この女、ちょっと頭がおかしーんじゃねーの? そんな状況。

「だってー、こんなん要らねぇし……それにラブレターとか、どんだけとか思うし。ちょっと、これ書いた奴、頭がおかしいと思うんだけど」
「ラブレター一つ書いただけでそこまでボロクソ言われる誰かが凄く可哀想だと僕は思う」
「いやいや、今時、ラブレターとか異常だって。ありえないって、普通にメールでいいじゃねぇか」
「メールアドレス、知らない相手なんじゃねぇのか?」
「何それ、怖っ!? ストーカーじゃん」

 未だ見ぬラブレターを出した主はボロクソだった。ここまで言われる必要があるのかと思うくらいにはボロクソに言われていた。檜山は手元のラブレターを少し見つめた後に乱雑に丸めて、まるでゴミのように鞄の中に突っ込んだ。

「んだよ……?」

 ジトリと睨まれて僕は「別に」と返す。恐らく、ラブレターをゴミと化したことに僕ではなく檜山が罪悪感を持っているからこそ、訊ねたのだろう。けれども、僕はその行動を酷い話かもしれないが別段気にしてなどいなかった。

 そもそも、ラブレターを渡したからといって相手が来てくれるなどと言った希望は即座に捨てるべきだろう。むしろ、期待しないで待っていた方が遥かに精神的に楽だ。だって、ラブレターはアポイントメントを求める物であって、強要するものではないのだから。ラブレターをゴミとしても、破って捨てても、それを酷いとは思わない。

 勇気を出して書いたのだから、などというのは書いた側からの視点である。書かれた側としてはそんなこと知ったことではないのだ。そんなことを考えつつ、我らが教室『二年商業科Aクラス』まで向かう。

 教室に入ると一斉に視線が向いて、そして再び元の喧騒に戻る。檜山は女子のグループに混じるように歩いていった。僕は遅れて歩き出し、いつもの窓際、最後列に座る。グループの幾つかを見渡すと大きく四つのグループに分かれていた。

 一つはヤンキーグループ。恐らくバイクの会話などだろう。流石に二年にもなると学校に乗ってくるようなことはしないが、それでも趣味の範囲で話に華が咲いているようだ。

 次はオタクグループ。カードゲームに興じていた。そもそも学校に持ってきていいものだろうか? いや、よくないのだろうけど、それでも持ってきて興じてある辺りに彼らの業の深さを感じる。女子のオタクも数人観戦していた。

 次にイケメン・美女グループ。いわゆるスクールカーストの最上位って奴だろう。話の内容は合コンだの、お洒落だのといった会話。別次元のお話なので、係わり合いになど恐れ多くてなれやしない。檜山もこのグループに所属している。

 最後に普通グループだ。まぁ、普通グループといっても準イケメンクラスやら、準美女クラスも居る。けれども、そこそこなブサメンやブサウーメン(ブスとは酷くて言えない)も居る。会話の内容はテレビの話だったり、バイトの話だったり。

 細かく見れば、イケメン・美女グループと普通グループをウロウロしている奴も居るし、少人数の女子で固まって「ぐ腐腐腐」と笑いながら薄い本を読んでいる奴も居る。机に突っ伏して寝ている(名誉の為に寝た振りとは言わない)奴も居る。

 まぁ、普通グループとは言ってもライトオタクだったり、ヤンチャもどきだったりと何かしら問題は抱えていたりする。もし、僕がどこに加わるかとなれば、恐らく普通グループだろう。話の接点としてはバイトくらいしかないだろうけど。

 そんなクラスメイトの中。一際、目立つ少女が居る。神威 撫子、この学校に居ることが珍しいくらいの学力保持者であり、イケメン・美女グループに所属していないのが不思議なほど整った顔立ち。腰まで伸ばした黒髪に、彼女には不似合いな玩具のようなヒヨコのヘアピン。手元にはビー玉を持っていて、それを机の上で転がしていた。

 不思議ちゃん。それが神威 撫子のあだ名である。苛められているわけではないのだが、不思議と近寄りがたい雰囲気を持っている。イケメンやお調子者の男子が何回か頑張って話しかけていたものの、盛り上がりもせずにすごすごと退散していく姿を去年から何度も見てきた。オタク男子充実組も「すわっ、同士か!」とばかりに話かけていたが、違ったのですごすごと退散していた。それでも彼女の人気は高い。未だにデートやら遊びに誘われているが、男子が居ると必ず断っている。女子だけなら、何度か街で遊んでいるのを見かけたことがある。

「……」

 何の感傷も無い。何の感慨も無い。何の関係も無い。何の繋がりも無い。何も無かった。何も、無い。深呼吸をして、自分を整える。彼女を見ることを僕はきっと、許されない。許されないのなら、見るべきではない。関係も無いのだから意識するべきでもない。そう言い聞かせることがまるで関係があるようで、それが酷く嫌だった。朝っぱらから自己嫌悪。そっと視線を逸らして、廊下側を見る。

「うぉっあ!?」

 キスでもするかのような眼前に何故か檜山 桃香が居た。何してんだ、こいつ!?

「ははっ! 聞いたか? あのソラっちがうぉあだってー! あはははー」

 イケメングループがクスクスと笑っている。何なんだ、一体……今日の弄られキャラは僕なのだろうか。ごめん被りたいのだが。

「冷静な委員長でも驚くことがあるんだなー」

 笑みを隠さないイケメン、北村 洋介は弄りを開始するべく近づいてきた。弄られるのはあまり好きではないのだが。

「冷静でもなければ、委員長は誰もやらなかったから、菊池先生に指名されたんだよ……それよりも、あの状況で驚かない男の方が終わってるだろ……」
「お、おやおやおや? もしかして、あてくしに興味があるのかい? いやー、もてる女は辛いですなぁー」

 檜山がシナを作ってポーズを取っている。

「ふっ」

 鼻で笑ってやった。

「てめぇ! いい度胸だ!」

 檜山が憤慨とばかりに掴みかかってくる。頭を押さえてグルグルパンチをさせながら、どうにか弄りを終了させたかな、と安堵している。背後からウェーブのかかった明るい色の髪の毛と共に甘い匂い鼻腔をくすぐる。

「ふぅん、なら、あたしと付き合ってみる?」

 すると、クラスの中でも最も身長が高く、スタイルも抜群な仙道 美代子が近づいてくる。ついでに顎をくいっと上向かされた。どうやら、継続のようだ。

「いや、彼氏にボコボコにされたら困るんで」
「あはは、そこは奪うくらいじゃないと」

 カラカラと笑う仙道に溜息を吐く。やだよ、何でだよ。仙道には年上の彼氏。性格に言えばここら辺で有名な二十四歳無職の彼氏が存在する。何で有名かはお察し。オタクグループからは恐怖の代名詞でしかない。そういえば無職じゃなくて、現在、ある意味おつとめ中だ。

「あたし、今、彼氏が遠くに居るから、ほら、わかるでしょ?」

 僕に本格的にしなだれかかってくる。厄介な。ほら、見てみろ、男子グループの数人が羨ましそうに見ているじゃねぇか……こっち、見んなよ。

「すいません、そういう話はまたいつか」
「まったく、堅物よね、ソラは」

 仙道はそっと離れる。男子から視線が消えてほっと溜息を吐く。

「おい、こら、ソラちゃんよー。あたしのミヨ姉に何、欲情してんだ、てめー!」

 ゲシゲシとローキックを放ってくる。別に欲情してねぇよ、何でいきなり、僕は蹴られてるんだよ……どう考えても弄り先からのマッチポンプ。先生、ここがイジメの現場です。

「はいはい、そろそろ痛いからやめなさい」
「えーっ」
「えーっ、じゃねぇよ……」

 不満そうにブーイングする檜山。チャイムが鳴ったので各々の席に戻っていく……なんてこともなく、そのままわいわいわいわいやっている。流石は六道、チャイム如きで生徒が大人しくなるなんてことはありやしない。

 その時、がららと扉が開く。そして、垢抜けたショートボブ、どこかふわっふわした雰囲気を私服の女性が入ってきた。身長はそこそこ高く、それ以上に目につくのは圧倒的なまでに存在感を主張する巨乳である。男子のおかずは彼の女性であると新聞部で調査された。

 教職二年目、菊池 裕子。クリーム色が基準で暖色がメインの服装。けれども、本人は顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。

「も、もぅーっ! 皆、チャイムがなりましたよーっ!」

 パンパンと手を叩いて、合図する。これでようやく問題児共はゆっくりと席に着き始めるのだった。ふと、視線を前に移すと。

 神威 撫子と目があった。

 体温が上がる。胸の鼓動が早くなる。けれども、この感情は決して甘いものじゃなくて。そして、神威は微笑んだ。無邪気に、無垢に、純粋に。

 燃えるように熱くなる。あぁ、これは多分、怒っているんだ。我が事を別事みたいに考える自分が居た。怒りでドロドロと体内が溶けていきそうで、それでいて、その熱ですら生ぬるく感じるほどの怒りが渦巻く。確かに僕は怒っていた、誰に対して? そんなものは決まっていた。僕は僕自身に怒っていたのだ。二度と他人に怒ることなどしない、僕は自分にしか怒りを向けることしかできない。

「はい、じゃあ、出席を取りますー」

 ゆっくりと、ゆっくりと、大きく息を吐く。そうしなければ、今にでも衝動的に何かを壊してしまいそうで、どれだけ自分が薄くて、脆いのか。その事実が誰よりも理解している身としては時間をかけて、冷静にならなければならない。目を瞑り、ゆっくりと、ゆっくりと、何も、考えない。視界に染まる黒をと、うすぼんやりとする白を見ながら、頭の中身をからっぽにしていく。

「……ふぁっ!?」

 突如、菊池先生が叫ぶ。何が起きたのか、目を開くと、見知らぬ場所に居た。何の前触れもなく、何の前兆もなく。何が起きたのか理解もできないまま、何が起きたのか把握もできないまま、立ち尽くす。座っていたはずなのに、いつの間にか立たされていたことに疑問すらも覚えずに、ただ、呆然と。

 石造りの部屋。蝋燭がぼんやりと周りを照らし出す。そして、中心にいた真っ白なドレスを着た欧州系の少女が昔、映画で見たことがあるような、スカートの裾を掴んで、ダンスでも申し込むかのように、一礼をする。

「お待ちしておりました、勇者様方」

 終わったように平凡で、おぞましいほどの何かを抱えながらも、どこにも行けずに、何も出来ずに、ただ終わるだけの退屈な日常が、ガラガラと音を経てて崩れ去った。
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