警告
この作品には
〔残酷描写〕
が含まれています。
苦手な方はご注意ください。
この話自体は短編ですが、シリーズ物です。
シリーズ物ですが、それぞれタイトルによってジャンルが変わります。
悪魔側の時間軸では『海神の歌姫』の後で、『終焉のカタストロフ』の直前。
同僚悪魔達に封印された腹いせで、世界を本に記して八つ当たりで思い通り操っている物語の悪魔。同僚達への復讐を企む最中、見つけた世界の物語です。
「ねぇ使い魔、本当の復讐って何かしら?」
物思いに耽る表情で、俺の仕える悪魔はそう言った。
「はい?」
やんちゃが過ぎて封印されたこと、その復讐を同僚悪魔達へ望んでいるのか。ならばすぐに上に報告しなくては。そう思ったのだが、その人の顔は鳥籠の鳥そのもの。どうやら俺の杞憂に過ぎないらしい。
「復讐を取り扱った物語は世に幾らでもある。けれどその何一つ、私に共感できる物はない」
「それはお嬢様。我々悪魔と人間達は価値観が異なりますからね」
「ええ、そうね。人間は私達悪魔より遙かに短い時間を生きる。そして脆い。だから彼らの復讐という概念は私達悪魔の抱く物とは異なる物なんだわ」
そういってお嬢様が手に取るのはまだインクの乾ききっていない本。先程綴り終えたばかりの世界の話なのだろう。そしてそれは、彼女にとって興味深い物だったのだ。だからこそ彼女は俺にこんな風に語りかける。
「自分の百年足らずの人生を棒に振ってまでその相手の命を奪うことに意味はあるのか。けれど自分自身がその過去の呪縛から逃れられなければ、殺さずとも百年足らずの月日は苦痛に他ならない。だから彼らは選択を強いられる。殺すか、殺さないか」
「なるほど。それで今回の世界はどんな世界だったんですか?」
「よくあるつまらない世界よ。人間ばかりが蔓延って、魔法も悪魔も滅んだ世界」
そんな世界でも、人は異端を狩ることを止めない。魔女や悪魔を作りたがる。それはあまりに滑稽ね……哀れむように彼女は笑った。
*
ある観測点からは未来と呼ばれる世界。またある観測点からは過去と呼ばれるその世界。そこで一人の女が死刑に処せられた。
女の罪業は殺人。彼女は幼気な幼子を何人も血祭りに上げた。その犯行動機を女は最期まで語らなかった。それこそが何よりの復讐だと知っていたからだ。
*
人の怨みは買わずに越したことはない。だから良くも悪くも目立たずに、平凡でありなさい。それは一人の少女が言われてきた言葉。
美人でなくとも良い。だが平均であれ。天才ではなくて良い。だから平均であれ。それが彼女の親が遺した言葉だった。
その少女の不可思議な点。教師達も頭を悩ませる。
どんな馬鹿みたいな子でも何かしら得意分野はあるものだ。絵に描いたようなガキ大将、鼻水を垂らしたような子供でも、例えば体育。例えば保健体育だけ。そういうものはあるものだ。仮にそれが少女なら、美術や技術、家庭科、国語……何か一つはあって然るべき。しかし彼女にはそれがない。100点満点のテストなら60点前後をキープ。10点なら6点。アルファベット評価なら常にC。数字ならば常に3。
天才でもなく馬鹿でもない。容姿も所有物も良くもなく悪くもなく。取り立てて欲しいと思わないようなもの。他人から向けられる感情は、好きでも嫌いでもない、無関心。それが彼女のアイデンティティ。
暇な田舎は娯楽に飢えている。少しでも目立てばいじめの対象になる。ひっそりと息を潜めて生きることが幸せに生きる術だと彼女は知っていた。そういう意味では彼女は学年中でもっとも頭が良かったのかも知れない。
気にならない内は本当に気付かない。関心すら持てない。だが一度気付いてしまえばその異様さに驚かされる。
教師は見てしまったのだ。彼女はまず完璧に答案を埋める。その後に計算して、狙った分を消していく。その時々の平均点ぴったりになるように、不気味なほどにその数字を合わせてくる。それはまるで、このクラスのレベルを知っていて、テストの難易度を比較しそれを導き出しているかのような、その不気味さ。
はじめは偶然だろうと言っていた教師達も、それが続けば続くほど、彼女を気味悪く思うようになる。
「なぁお前はどうして本気でやらないんだ?いつもいつも……そうやって生きて何が楽しい?」
「先生、私は楽しいですよ。だって生きていられる」
少女の言葉に教師は疑問符を浮かべる。
「おい、それはどういうことだ?」
「先生は私を不気味だと思っている。私はそれを知ってします。だからこれ以上は言いません。唯、どうしようもないことはどうしようもない。それだけです」
少女はそう言って笑ったきり、翌日から三日間学校を休む。彼女はそう言う子だ。皆勤賞など目立つようなことはしない。一年に何日か、平均的日数を風邪と言い休む。
そして事件は彼女が休んでいる内に起こった。
可哀想なことに休んだ彼女がその犯人として槍玉に当てられた。テレビで覚えたような言葉でアリバイを尋ねないとと子供達はせせら笑った。
既に異様なことなのだが、その事件というのは殺人事件だ。そのクラスメイトが死亡した。屋上から飛び下りた。事件か事故か。両方で進められたが、自殺という噂が翌日から広まった。悲しむ者はなく、犯人捜しと言う流れ。それもまた、何の証拠もない。だが、子供達の悪意は恐ろしいものがある。
彼らは自分たちが死に追いやったその子の死を、休んだ少女に押しつけることにしたのだ。仮に本当に風邪で休んでいても構わない。今度はその子が標的になるだけ。それで自殺まで追い込めばいい。そうすれば、やっぱりあいつが犯人だったんだ。そういう認識が広まる。それを子供達は理解していた。残酷なまでに。
しかし子供達は拍子抜けをする。風邪と聞いていた少女はいつまで経っても登校してこない。まるで登校拒否になってしまったかのように。
それは平均で在り続けた少女が初めて起こした、逸脱行為。そこに教師達も不気味さを感じ取っていく。
担任の教師は、その不気味さを払拭すべく、少女の家へと電話をかけた。10コール以上ならし、もう諦めようかと思ったその時、具合の悪そうな声の少女が電話に出た。聞けば症状は重く、風邪が移ることを恐れて休ませられていたそうだ。それでも魔もなく治ると言う。
「明日から学校に来られるのか?」
「いいえ、明後日からです先生。ああそうだ先生。テストの採点はなさいましたか?私今回は頑張って勉強したんですよ。満点取れているかしら?」
「ああ、そう言えばまだやってなかったな。解った。明後日までに採点しておく。だから明後日にはちゃんと来るんだぞ」
「そうですね、考えておきます」
電話の向こうで少女は笑っていた。何がおかしいのか教師には解らなかったが、久々の学校が恋しいのだろうと好意的な解釈をし電話を切った。顔を見ずに話してみれば、なんとも普通の少女と会話をしている気になった。
しかし先週の小テストの採点をすれば、やはり狙ったかのように平均点を当ててくる少女の名前が不気味に映る。満点を狙った?嘘だろう?やはり消した跡がある。そこに別の答えを書くなら可愛いものだが、敢えての空欄。それもやはり不気味だ。夜遅くまで採点していたこと、そして少女の言動。それが気になりなかなか眠りにつけず、教師は寝坊をしてしまった。
「くそっ!寝坊しちまった!」
寝惚け眼で時計を確認し、教師は急いで飛び起きる。もう一時間も遅れている。車を飛ばして学校へと向かうが、何やら騒がしい。
「あの、何かあったんですか?」
「いや、良かったね先生。あんた、寝坊してなかったらあんたも危なかった」
「え?」
「あんたのクラスで殺人事件さ。早く病院へ行ってやんな。まだ息のある子もいるかもしれん」
教師は急病で暫く休み。代理の教師を名乗る女が、子供達の前に現れた。女はなかなかの美人。そして子供達に手土産を持ってきた。美人で優しいその先生。
その甘いお菓子にすっかり気をよくした子供達はすぐにそれを口に運んだ。そしてその全員が毒に倒れて死亡した。
中には死まで至らなかった者も居ただろうが、子供達は皆、毒で倒れた跡に身体中を刺されていた。特に酷かったのは10人程度。これはクラスの三分の一に当たる人数。その中には男もいたし女もいた。そこに接点という接点はない。
警察は先日あった殺人事件……自殺ということになった子供の周辺操作を始めた。その親が今回仇討ちに出たのではないか。そう考えたのだ。
しかし自首をして来た犯人は、そのクラスには何ら関わりのない女であった。女には子もなく、その学校の卒業生であると言うこと以外、何の接点も見つからなかった。
女は一切の供述をせず、しかし始終遺族を嘲笑う言動を続けた。精神鑑定もされたが、女は事件に冠する事柄以外は普通に語る事が出来る、至って普通の精神状態。死刑執行されたのも、女が正常であることを認められたためである。
しかし女の正常さが世を恐怖の渦に落とし込む。なぜ至って正常な女があんな事件を引き起こしたのか。女の過去に何があったのか。
しかし死刑となった今では女の口から真実は語られない。残された人間達も皆、一様に口を閉じる。その様は異様ですらあった。
そして田舎の学校。1クラスしかない一つの学年がほぼ全滅したのだ。たまたま休んでいたお陰で事件から免れることが出来た一人の少女。平凡を志す彼女が、他の学年と一緒に授業を受けるなど目立つことをするはずもなく、遠くの町の学校へと行くため引っ越しをすることになった。その前日、彼女に教師は会いに行く。
「なぁ、お前は……“明後日”に学校がやっていないことを知っていたんじゃないのか?いや、それだけじゃない。お前が休んだのは、これまで平凡で在り続けたのは……この事件が起こることを知っていて」
全ては推測の域。犯人と少女にも、なんら接点はない。それを知っていても教師は尋ねずには居られなかった。
「何故、俺だけ助けてくれたんだ?」
あの日、少女がテストの採点のことを口に出さなければ……自分は殺されていたはずだ。教師は確信している。自分の代理で来た振りをするのだから、邪魔な担任は本来ならば消されていてもおかしくなかった。
「ねぇ先生。最高の復讐方法ってご存知?」
「復讐、だって?」
「ええ」
「俺はそんな事を考える人生を送って来ていない」
「それは随分と幸せな人生を送って来られたんですね」
少女は若干“頭の”という含みを臭わせながら小さく笑んだ。
「犯人には子供がなかった。それが全ての絡繰りを解く鍵です」
「子供がいないことが今回の事件と何の関係が……」
これは無差別快楽殺人ではないのか。そう尋ねる教師に生徒は首を振る。これは復讐殺人ですと。
「犯人は昔悩んだんですよきっと。自分を殺すか相手を殺すか。その結果、割に合わないと殺すことを取り止めた。許せないことを許そうと努力した。それを私は美徳と呼びましょう、讃えましょう。この残酷な世界にある、唯一の美しい物だと私は彼女を褒めましょう」
少女は会ったこともない他人を高らかに讃え笑む。
「けれど彼女は知ってしまう。十数年の歳月を経て、まだこの世界は醜いままだと知る」
「……この間の自殺が引き金になったっていうのか?」
「ええ、そうです。母校での自殺。その子を自殺に追い込んだ、残酷な子供達は今ものうのうと生きている。それを自分の過去と重ねてしまった。……押さえ込んだ衝動を、もう押し殺せなくなってしまったのではないですか?」
「それならやはり無差別殺人じゃないか」
教師の言葉に少女は、最後まで聞けと言わんばかりの強い目で、首を振る。
「そしてどういう巡り合わせでしょう。彼女はいじめの首謀者である子供達を調べ上げる内に、それが幼い自分をいじめ抜き、今なお人生に暗い影を落とさせた奴らの子ではありませんか」
証拠などない。ないはずだ。それでも少女は妙に確信めいた口調で断言。
「人間に虐げられた所為で、彼女は人間を愛せなくなっていた。人を愛せなくなった原因達が、よくもまぁ一丁前に人間面で愛し合い、愛を育み子供なんかもうけたものです。彼女の怒りはここで爆発。自分の復讐と、自分の正義のために何が何でも殺さなければならないと考えたのでしょう」
「何故、本人達を殺さないんだ?子供達に罪はないだろう!?」
「先生、ならば何故人の子は人の子をいじめるのですか?いじめられる人間にも罪はないと思うのですが?」
世の中はそういう理不尽で作られた世界なのだと少女は告げる。
「それに罪がないとも限りませんよ。蛙の子は蛙。いじめっ子の子はいじめっ子。あの日自分が許してしまったからこそ、新たな罪が生まれた。生かしてしまった命が生み出した命が、罪無き子供を死へと追いやった。彼女にとって許せるはずもありません」
悪を許すことは罪を容認すること。新たな犠牲を受け入れること。それはあってはならないこと。だからこそ悪は許してはならないのだ。彼女は語る。
「彼女は自殺した子が、自分の分身に見えた。違う道を選んでしまった自分自身に……或いは我が子のように愛おしく感じたのかも知れませんね、顔も見たことがない相手なのに」
嗚呼、美しいですねと少女は微笑む。無償の愛ではありませんかと。
「彼女は気分が良かったでしょうね。笑わずにはいられなかったでしょうね。自分の復讐を本懐を果たすことで、哀れなその子の復讐もしてやれる。その親御さんの無念も晴らしてあげられる。ヒーローはヒーローらしく一切の言い訳をせず申し開きをせず幕を降りる。完璧じゃあありませんか」
「それは……おかしい。俺のクラスには苛めに関わらなかった奴らだって!」
「あら先生。傍観も一つの裏切りですよ」
少女は今度は教師をも、告発するようその目を向けた。
「先生、私が先生を助けて差し上げたのは、先生には全てを見届ける義務があると思ったからです。先生はいじめがあったことを知っていて、その子を助けてあげなかった。“お前一人が我慢していれば、うちのクラスは平和なんだ”……でしたっけ?子供は人柱じゃありませんよ先生」
そう言われるまでは、自分への僅かばかりの好意があったから、だから救われたのではないか。そう自惚れていた教師。こんな変な子でもちゃんと生徒扱いした俺は正しかった。そう思っていたところにこの言葉。教師はあまりのことに目を見開いて、激昂。
「それならお前がっ!お前があの子に何をしてやった!?お前だって同じだ!見ていただけじゃないか!!」
「いいえ先生、私はあの子を見なかった。傍観さえせずひたすらに、私は一つの道を示した。私のようになれば生きることは出来ますよと。私は行動であの子に伝えていたのです」
「けれど可哀想なあの子は、特別になりたかったんですよ。誰かの特別。自分だけが特別。無個性には埋もれたくなかった。ここに生まれた意味、生きている意味を欲しがって必死に悲鳴を上げて生きていた。あの子もまた、例の二択に直面していたことでしょうね」
自分を殺すか、相手を殺すか。
「だけど数が多すぎる。全員上手く仕留めることは難しい。だから自分の命と引き替えにあの子は訴えかけたのです。あの子は幸運にもその訴えを受け取ってくれた人がいた。その命は、その死は決して無駄ではなかった」
「唯あの選択には第三の選択があった。それは相手の子供を殺すという選択肢」
「それに、何の意味がある!?」
「あのね先生、殺しは殺せばお終いです。それ以上苦しめることは出来ない。自分が受けた苦痛と同等以上の苦痛を味会わせたい場合に殺しは合理的とは言えません。しかし真っ当な人間ならば、自分が殺されるよりも愛しい我が子を殺された方が苦しいし、痛いはず」
ならばその殺しに意味はある。その殺しを理不尽だと糾弾すればするほど、連中は自分の罪の意識を向き合わなければならなくなる。
人の怨みの恐ろしさ。それに気付けず人の身でありながら、人を迫害した我が身の愚かさを思い知る。それに苦悩し涙し許しを請うこと。請うた先にもう許してくれる人がいないという苦痛。永遠に逃れられない罪の意識から這いずり回れ。
女が笑っていたのは、そこまで知っていたから。あれは加害者共がやがては自分に屈すると知る、勝者の笑みだったのだ。
「先生、私が何故犯人に見過ごされたか解りますか?」
「それはお前が息を潜めていたから、情報にも入らなかった。違うか?」
「いいえ、私の親は私を愛して居りませんから。仮に私が殺されたとしても苦しむような人間ではありません。そんな私を彼女は哀れんだんですよ」
目立たないように人間が振る舞うときには、必ず目立ってしまう要因がある。それを隠すために装うのが平凡だ。それを知れば相手は自分を哀れむだろう。そして哀れみは、時に自分を守ってくれる盾になる。幼い少女は幼いながら、それを理解していた、誰よりも。
*
その事件から数年内。その殺人事件の舞台となった町で何人もの自殺者が出た。
この一連の想像の面白いところと言えば、その自殺者達は皆同い年。そして被害者である子供達の親だということ。
そうして最後の犠牲者の親が死んだ時、これは呪いだとその町ではまことしやかに囁かれるようになる。
その噂話を締めくくる、最後の犠牲者。それは被害者達の担任だった教師。使者の亡霊に取り憑かれただとか語られるも、その真相は不明。
そしてそこから更に数年後、その事件を題材にしたと思われる小説が出版される。その作者が事件のあった学級での唯一の生き残りと言うこともあり、評判は高まった。しかし作者である女性はインタビューにも何も応えず、微笑を湛えるだけである。
その態度が、犯人が見せたそれと重なって……人々はこの事件の真相を解き明かそうと躍起になった。その小説は穴だらけで証拠などはまるでない。
それでもそれを読んだ者達は、おそらくそれが事実なのだろうと思わされてしまう。そんな妙な説得力がそこにはあった。
もっともその本が売れたからと言って、その国からいじめがなくなるということもなく、毎年自殺者はそれなりに生まれ、罪を逃れた人間達はのうのうと暮らしている。しかし彼らが誰かを愛した時、子を授かった時、思わず背後を振り返る……そんな恐怖を植え付けたであろうことは間違いない。
やがてその本の模倣犯が増加し、その本は出版を差し押さえられる。彼女は見当違いの遺族達から裁判にかけられるのだが、その際彼女は……例の女さながら、ケタケタと彼らを嘲笑った。裁かれない殺人犯の身内共に、人の罪を糾弾する資格などあるものかと、その嘲笑は物語っているようだ。
その態度が遺族の怒りを買って、彼女は遺族に刺されて殺されるのだが、その瞬間まで彼女は相手を笑っていた。それは、この理不尽な世の中に向けられたものだったのだと……気付いたのはこの私、物語の悪魔以外になかっただろう。
*
「……それはまた、まぁ……人の業は深いですねぇお嬢様」
「そうよね。表現の自由とか言いつつクレーム付けてくる連中はどうかしてるわよ。どうして未来方向に世界が進むと変な方向にぶっ飛んだ馬鹿が出てくるのかしらね」
物語の悪魔としては、そういうのはとても悲しいものだわ。
物語その物は善でも悪でもない。あくまで中立。ようは読み手の心、それを映す鏡。その文章からどう受け取るか。それをどう生かし、どう殺すか。
「なんでもかんでも本の所為。罪から逃れるために本の所為。そこから始まる規制祭り、嗚呼!嫌だ嫌だ。人間ってどうしてそういう馬鹿なことばかり考えるのかしら。現実と空想の区別も付けられない人間、一生座敷牢にでも隔離してなさいよって話。それかそんなにエンターテイメントが害だっていうなら自分の子供寺か教会にでも預けて出家させるかすればいいじゃない。娯楽に触れさせといて文句言うっていうんだから意味がわからないわよ」
「お嬢様、今回はそう言う話ではなかったのではないかと思いますが」
使い魔がなにやら五月蠅い。どうせ悪魔には無駄に時間があるんだから、愚痴の一つや二つ、くらい聞いてくれても良いじゃない。
「しかしお嬢様が誰とも契約をせずに話を終えるというのも久々ですね」
「私はあの少女の第七魔力に惹かれただけだもの。手を加えない方が愉しめそうだったから、当然よ。でも、子供を殺す……ねぇ」
「ロリショタ好物のお嬢様には酷な話でしたか?」
「別に。美少年と美少女なら舌打ちするし眷属に出来ないか考えたけど、中途半端な悪意持ちの田舎くさいガキ共ばかりだったし興味ないわよ。ってそうじゃなくて!」
何でこうやってすぐ人の話を脱線させるのかしらこの使い魔は。まったく私は呆れてしまう。
「それは人間だから成り立つ話だと思っただけ。私達悪魔は血縁が殺されたって別に痛くもかゆくもないじゃない」
「我々はそう言うところ薄情ですからね」
「そう、だからあいつらにこういう復讐するには、あいつらを一回人間にでもしなきゃ無理じゃないって話!人間に……人間に……あ!その手があった!」
私は思い出したことがある。そう言えば同僚の一人、第二領主は今、人間になってはいなかったかと。
「お嬢様?」
「書庫に行くわ使い魔!着いて来なさい!数多の世界から見つけ出さなきゃ!あの男を!」
私は私なりの、復讐の方法を思いつく。以前のような失敗をしないためにもまずは、第二領主カタストロフ。彼から片付けてやらなければ。晴れて自由の身になるために、私は時には努力も厭わない。そう思えば足取りも軽くなる。
「お嬢様!イストリア様!お待ち下さい!」
「使い魔、あんたにも悪くない話よ。黙ってこっち来るっ!」
人間も悪魔も変わらないものは一つあったかもしれない。復讐に望む胸の昂揚。それを成し遂げたときの達成感。至福の喜び。それは種族に関係ないものだ。
嗚呼、早く私も笑いたい。心の底から、私を陥れた連中を!
復讐といじめについて考えた小話。
自分を殺すか、相手を殺すか。この二択を見送った先、自分は影を落とした辛く苦しい人生。その傍らで加害者が幸せになっている図。
人を不幸に陥れた人間が、裁かれずに幸せになるという理不尽。
果たしてそれを許せるかどうか。
まぁ、普通許せないでしょうね。私だったらまぁ、許せないので一切の情報が手に入らないようにします。
その上でどうせ人間。100年後には誰もいない。みんないつか死ぬさ。復讐なんて馬鹿げてる。そう考えると思います。でも出来るなら長生きしてその分病気とかで苦しんで死ね、くらいは思うかも。
自分を殺すか、相手を殺すか。この二択に行き詰まった人が、相手のためにではなく自分自身のために躊躇って欲しいなと思います。
そういう場所にいる人に、死ぬのが勿体ないと思えるくらい、いつか面白い小説書けるようになりたいもんだ。そう願ってここに筆を置かせていただきます。
ここまでお付き合い、ありがとうございました。
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