第9話 彼の青
帰り道。
なんだかムズムズして、走りに走った。
翌朝。
鏡の前で、あのマフラーを巻いて。
彼のにおいが残っていることがうれしかった。
「なおちー、おはよ!」
「掃除サボってごめんねえ」
混雑する駅で後ろを振り返れば、同じ班のコがいた。
挨拶をして、自然にいっしょに電車に乗り込む。
混み合う電車の中で女子高生の集団はチカラがあるらしく、いつもより楽に乗ることができた。
「奈緒、青いマフラーしてるの? 意外!」
「そうかな」
お互いのイメージカラーの話になって、ふと視線を向かいのホームに移した。
鳴り響く出発の合図。
ゆっくりと動き出す、電車。
向かい側では、少し遅れて着いた電車に乗り込むひとたちの群れ。
そしてその中に。
「ね、なおちーはオレンジ系じゃな、ん、ナニ? 知り合い? 手振ってるじゃん」
「ちょ、マジかっこよくない? 奈緒の彼氏っしょ!」
気がついたクラスメイトたちが満員御礼の車内で、黄色い声を上げた。
手を振るあのひとは、首元を指差して笑っている。
『にあうね』
音もなく、くちびるがそう刻んだ気がして、あたしの体温が上がった。
手を振り返すことは出来なくて、ただ彼を見ていた。
サワヤカな外見と裏腹に意地悪なあのひと。
どうして、こんなに嬉しいんだろう。
どうして、こんなに胸がいたいの。
離れていく電車。
遠ざかる彼の姿。
マフラーからまだ彼のにおいが残っていて。
それがますますこの不可思議な気持ちを加速させていった。
根掘り葉掘りさんざん聞かれて、ノーコメントを通して教室にたどり着く。
数人しかいない教室で、未羽があたしの席に座って手を振っていた。
「おはよう。今日、英語当たるんじゃない? あたしもだけど」
「あたし当たる日だっけ。ヤバイかも」
鞄を机に置いて、マフラーを首からはずした。
未羽に英語を教えてもらおうと両手を合わせれば、その向こう側で彼女が少し驚いた表情を浮かべているのが目に入った。
「奈緒って、青いマフラーとかするんだ」
「意外? さっきも言われたよ」
「ううん、よく似合ってる。と、ほめてみたけど、英語は教えません」
机に広げていたノートと教科書の上に未羽が覆い被さって、隠してしまった。
あたしはさらにその上に覆い被さって、お願いとうめいた。
青いマフラーはいまだ首にぶら下がったまま。
あのひとに似合う色を似合うといわれて、なぜかとてもうれしかった。
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