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ドラマチック・ラヴァーズ
作:梶原ちな



第70話 あなたのそばにいるための理由





 抱きしめられて、抱きしめて。
 大事に思われることの喜びを知る。

 抱きしめられて、抱きしめて。
 それでも、届かない想いの距離を知る。




「はい。お返しします」

 鞄から取り出したのは、ずっと底で眠ったままだった青いマフラー。
 返さなくてはと何度も思って、それでも返せずにいた。

 冷えた彼の首に巻きつけようと手を伸ばせば、首を横に振られる。
 近距離であたしを捕らえたその目は、なぜかとても痛々しく思えてならなかった。

「いい。これは、奈緒をつなぎとめておくための道具でしかなかった」

 つめたい手が、マフラーを握ったあたしの手を押し返してくる。
 淡々とした口調とは裏腹に嘘のつけない目。
 これは、彼にとって何にも代えがたい大切なもの。
 
「うそつきですね。未羽からもらった大事なものなんでしょう。お返しするの遅くなってすみませんでした」

 彼の手を避けて、首に巻きつける。
 やっぱり、彼には青がよく似合う。

 すれ違う電車の中でいつも見ていた、青。
 これでつなぎとめていたのは、あたしのほうだ。
 彼に会いたくて、いつまでも手放せないでいたのだから。

「奈緒の、においがする」

 マフラーに顔をうずめるそのしぐさに、体が反応する。
 まるで、またあたしが抱きしめられたかのような錯覚。

 彼がすきで、どうしようもなくて。
 だけど、この想いを口にすることはない。
 そばにいると決めたけど、それはこのひとに求められる形として。
 通じることは、ない。

「み、はねは、どうしたんですか。学校にも来なかったし、ナツキも……」

 あふれんばかりの水がどこかで揺らいだ気がして、とっさに話題を変えた。 
 とにかくこの状況がつかめないのは事実なのだから。

「未羽と、ナツキを待っていたんだ」

 彼の視線の先。
 オレンジの焦げるアスファルト。
 誰もいない通りを何時間もこうして待っていたのだろうか。

「ふたりは、どこへ? ナツキは未羽を避けていたはずなのに」
 
 伝わらない想いに、自分を見てもらえないもどかしさに、未羽から逃げ回っていたナツキ。
 ついこのあいだもそんなことがあって、落ち込むナツキと語り合ったばかりだというのに。

「もう、あいつは逃げない」

 マフラーに押し付けられた声が、色を変えた。
 腕組みをしていた手が、あたしに触れる。
 つめたい、彼のてのひら。

「今度は、きっとふたりで帰ってくるよ。だから、それを迎えるために待っていたんだ」

 なでられて、指が絡んで。
 熱が、生まれる。

「じゃ、あたしも待ってます」

 絡まれた指をそのまま掴んで、にぎりしめた。
 つめたいこの手に、熱が伝わるように。

「こんなつめたい手をほっといて帰れません。それにあたしはヒロくんの手袋だから」

 薄暗くなってきた空。
 彼とあたしを包むもの。

 そばにいたい。
 手袋としてだっていい。
 いまはこうして、彼と手をつないでいたい。











ドラマチック完結記念
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