第68話 疾走ガール
はやく、はやく、はやく。
長すぎる終業式が終わって、教室になだれ込んで。
次に会うまで元気でと手を振った。
混雑する廊下を走り抜けて、階段を駆け下りて。
途中ですれ違った先生に気をつけるようにとしかられた。
校舎を出て、靴を引っかけたような状態で走り出す。
舞い上がる砂と、制服の群れ。
空は高くて。
風は生ぬるくて、どことなく甘い。
にじんできた汗と、顔にはりつく髪の毛。
長袖のすそをひじまで捲り上げて、むぎだしの腕でひたいを拭った。
たどりついた駅で、耳に届くアナウンス。
掠めるように改札を抜けて、ホームへ続く階段を二段抜かしで駆け下りた。
乗り込んだ電車の中で、祈るようにつぶやいた。
はやく、彼のもとに、と。
自分が降りる駅を越えて、次の駅で降りた。
たいした距離じゃないのに、まったく知らない土地のような気がする。
改札を抜けて、たまらず走り出した。
はやく、はやく、はやく。
彼のもとに。
胸に沈む違和感と焦燥感とアスファルトを蹴った。
記憶をたどって歩く住宅街。
ナツキの家の近くに彼と未羽の家がある、と聞いたことがあった。
ケータイは相変わらず無反応。
メールの問い合わせもいったい何度繰り返したのかわからない。
一度行ったきりのナツキの家を思い出すのは難しくて、もうだいぶ時間がたってしまっていた。
迷う足が、行ったり来たりと踏み返す。
あのいちばん立派な家を探して、空を仰いだ。
(もしかしたら、あたしの早トチリかもしれないのに)
ブラウスのボタンをもうひとつ外した。
入ってくる風が、体を冷やす。
(ほんとは何でもなくて、こんなことしてもカラマワリかもしれないのに)
カバンの中から、ペットボトルを取り出した。
ぬるくなった水が、それでもノドに気持ちいい。
満たされていくカンジがする。
(彼は、あたしを必要としていないのに)
水泡の向こうで、ひかりが舞う。
フタを閉めて、ボトルをカバンにしまいこんで。
ケータイをもう一度確認して。
(だけど、そばにいたい)
つま先をとんとんと地面に打ち付けて、息を吸った。
目指すは、いちばん大きな家。
はやく、はやく、はやく。
気持ちだけが、彼へ向かって止まらない。
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