第60話 彼女の秘密
だれにもいえない、あたしだけの。
(ナツキと未羽が、なんでこんなところに)
滑り台からのぞき込めば、中央に見覚えのあるふたりの姿。
未羽はどうやらナツキを追ってきたらしく、当のナツキは未羽に背を向けて立っていた。
「帰れよ。おにーちゃんが心配して待ってるぞ」
ナツキは未羽に向き直り、あたしが耳にしたことのない強い口調でそう言い放った。
その距離は約五歩分。
近いとはいえない。
(ナツキの様子が、おかしい?)
あんなに元気なナツキが、まるで別人のようだ。
これは未羽とあたしに対する想いの違いだろうか。
「帰らない。たった一日の彼女だったけど、あたしにだって聞く権利があるよ。」
ふたりの会話は、はっきりと聞こえた。
盗み聞きするつもりなんてなかったのに、会話の内容があまりにもあたしを混乱させた。
(一日の、彼女?)
とっさに思い浮かんだのは、屋上では聞くことのできなかった未羽の秘密。
そしてそれを盾に、ナツキは未羽を脅して泣かせた。
そこまでは、あたしも知っていることだったけれど。
(ナツキは、未羽に謝りにいったんじゃないの?)
五歩分の距離を先に縮めたのは、未羽だった。
「どうして、なっちゃんはあんなこと言い出したの? それにどうして、あたしを自由にしてくれたの?」
「バカくさくなったから」
「ちゃんと答えて。あたしから逃げる理由はなに?」
砂が唸る。
未羽の声が、ナツキを責める。
「お前が、ヒロしか見てないから」
未羽がナツキの腕に触れようとして、それをはじいたナツキ。
その口から出た言葉は、とても切ないものだった。
「本当はずっと前から知ってた。お前がヒロを好きなことも、夜中にヒロの部屋に忍び込んでいたことも」
思わず、口を押さえた。
飲み込んだものが、音になって吐き出してしまいそうになる。
「眠るヒロにキスするお前を見て、いつも俺がどんな気持ちでいたかわかるか?」
未羽の秘密は、こんな形で暴かれた。
卑怯で最低なことをしているとわかっていても、動くことができない。
耳を塞ぐことが、できない。
「俺を見ろよ。俺だけを見てくれよ。未羽」
「な、っちゃん?」
「俺に気がついてくれよ! お前のことが好きなんだよ!」
月明かり、星明りの下。
未羽の腕を引き寄せたナツキ。
影が重なる瞬間、あたしは目をそらした。
「……一日でも良かったんだ。オマエが俺のものになるんだったら」
走り出した音がした。
視線をもとに戻せば、中央でしゃがみこむ未羽の姿。
指先でくちびるにふれるその姿は、まるでさっきまでのあたしと同じものだった。
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