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ドラマチック・ラヴァーズ
作:梶原ちな



第6話 ユビサキ





「俺を待っていたのかな」

 いつも遠くから見えただけだったから、顔カタチまでは分かっていなかった。
 知っていたのは制服と青いマフラー。
 だけどいま、目の前にそのひとは立っている。

 頭がごちゃごちゃになって、はじけて真っ白になった。
 そもそも自分でもよく分かっていないのに、彼の問いに返事をすることが出来ない。

 どうしよう。
 待ち合わせも、約束もなくて。
 あたしはここで何をしていたんだろう。
 
 帰れなくて、通り過ぎる青いマフラーを目で追って。
 どうして定期を探してくれたのか、そればかり考えていた。
 まさか本人が現れて、話しかけてくるなんて思ってなかった。


「あ、あの」

 どうしよう。
 なんていったらいいんだろう。

 あなたを待ってました、じゃ違う。
 どうして定期を探してくれたんですか、じゃストレートすぎる。

 どうしよう。
 どうしよう。

「ココアと紅茶、どっちが好き?」

 結論の出ないあたしの上から、またも質問が降ってきた。

「え?」
「ココアと紅茶、どっちが好きですか」

 ごそごそと鞄から財布を取り出す目の前のひとは、近くに設置されていた自販機を指差した。

「コ、ココア、が好きですけど、あの?」
「ちょっと待ってて。これ、寒いから」

 青いマフラーが外されて、座り込むあたしの膝に落とされた。
 断る間もなく歩き出すひとの背中。
 むきだしの足に触れたマフラーは、信じられないくらい暖かかった。

「はい。どうぞ」
「あ、ありがとうございます。あのお金……」

 手渡された缶はヤケドするかと思うくらい熱かった。
 じんじんする指先をこらえて財布をとりだそうとすれば、いいから、のひとことで止められてしまい、手が宙をさまよう。

「プルタブ、開けられる?」
「え、あ、だいじょうぶ、です」

 隣でカツンと音がして、開いたのみ口から湯気が立ち上った。
 同じくプルタブに指をかければ、すっかり凍えてしまった指先のせいで思うように開かない。
 カツンカツンと何度も音がして、指は金具を滑っていくばかり。

「貸して」

 伸ばされた手が、あたしの手から缶を奪い取っていった。
 瞬間、触れた指先が全身に何かをもたらして、体がすくむ。

 なにこれ。

「はい、どうぞ」

 混乱の中、勢いよく開いた音が隣から聞こえて、またあたしのもとに戻ってきた。
 今度は指先が触れることのないように、静かにあの手から缶を受け取った。

「いただきます」

 一応、ことわってから口をつけた。
 ノドを通る熱いものとその甘味に思わずため息がでると、横で小さな笑い声が聞こえた。

「寒かっただろ。それに、思考回路も回復してきた?」

 口に手を当てて、こらえるように笑うひとの顔をようやく落ち着いて見ることができた。

 ずいぶん、整った顔をしたひとだ。
 なんていうんだろう、サワヤカ系?
 笑った顔は、ちょっと意地悪ぽかったけれど。

「ご、ご迷惑をおかけしてすみません、でした」
「いいえ、どういたしまして。朝も体を冷やしたのに、夜までじゃきっとカゼをひくかもしれないな」
「ヘーキです。体は丈夫ですから。あの、朝はありがとうございました」

 缶を両手で掴んで、頭を下げた。
 とにかくお礼をいうことくらいはできた。

「まさか、ホームで叫ばれると思わなかったから、驚いたよ。律儀だね」

 こっちだって驚いたのに。
 だって、まさかいつもすれ違うだけのひとが拾ってくれるなんて思わなかったから。

 それに、あたしの定期探してくれていたなんてしらなかったから。

「律儀なんかじゃないです。だって、本当に嬉しかった。……定期、探してくれたんですよね」

 そう。
 どうして、そこまでしてくれたの。

 先を聞くのは何だか失礼な気がして気がとがめたけれど、ここまで来たらもう止められない。

「どうして、探してくれたんですか?」

 あたしたちはすれ違うだけだった。
 それだけで、終わるはずだったのに。











ドラマチック完結記念
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