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ドラマチック・ラヴァーズ
作:梶原ちな



第57話 真っ黒な復活劇



 涙、のち、カケヒキ。




 頭の中がぐちゃぐちゃする。
 彼の行動の意味が、ぜんぜんわからない。

 だけど、抱きしめられてうれしいのはほんとう。
 浸水してしまった花園は、いまだ水を噴き上げている。

「奈緒」
「っ、う、……?」
「泣き顔、みたい」

 一瞬、真っ白になって。
 それから、火がつくかと思った。

 たしかにこの体勢じゃ、あたしの顔は見えないだろうけど、このひとはいったい何を考えているんだろう。
 ぐちゃぐちゃの顔なんて見せられない。
 絶対にいやだ。

 拒否の意志を示すために、顔を彼の胸に押し付けた。
 反対にくっついた体がすごく恥ずかしかったけれど、この場合はいたしかたない。

「嫌なの?」

 いやです。
 
 返事をしたいけれど、嗚咽がひどくて声にならない。
 しゃっくりみたいなものはおさまる気配もなく、涙はまだこぼれ落ちていた。

「俺のせいで泣いてるのに、俺が見れないんじゃ不公平だと思わないか?」

 思いません。

 ほんとうに、このひとが何を考えているのかわからない。
 ヒロくんは未羽のことが大事で大切で、好きなんでしょう?
 あたしに会いたかった理由は、謝りたかったからなんでしょう?

 ナツキのことはちょっとやきもちみたいでうれしかったけど。
 キセキといってくれた言葉はうれしかったけど。
 あなたの気持ちがぜんぜんわからない。

「――5、4、3、」

 突然、頭上でカウントダウンが始まった。
 数字を刻む彼の声に、持ち上がる不安。
 何をされるのかと身をかたくすれば、声は、イチとつげた。

「ゼロ」
「……っ、き、ゃあっつ」

 とたんに体を押し返した。

 彼の狙い通り、あたしは彼から離れて距離を取った。
 ぞわぞわする、熱い耳を押さえて。

「やっぱり、耳が弱いんだと思ってたよ」

 さわやかな外見とはうらはらの意地悪な笑み。
 久々に、見た。

「ひ、ひどっ、ひきょ、うです!」

 息を吹きかけられた耳から顔まで、確実に赤いと思う。
 背中まで走るこの感覚に、体がくすぐったくてしかたない。

「こういうのは計算っていうんだよ、奈緒。でも、かわいい泣き顔が見られた」

 顔を隠すことなんて忘れていた。
 ただでさえ熱くて仕方ない顔が、ますます熱を持つ。
 このままじゃ爆発してしまうかもしれない。

「か、わいくなんて、ないです! なんでこ、んなことっ」
「ナツキが、奈緒は泣いているときの顔がいちばんかわいいっていったからね。俺だけ知らないのは腹が立つだろう?」

 ナツキ!
 なんて話を彼としているんだろう。

 被害を受けるのはあたしばかり。
 こんなぐちゃぐちゃの顔のどこがいいのかさっぱりわからない。

 目の前で意地悪に笑う彼がまた近づいてきて。
 逃げようかと思ったけれど、足が止まった。

『結構、傷つく』

 あの言葉が、この足にストップをかけた。

「な、んで、ナツキのこと、ばっかり」

 引き合いに出してくるのと続けようと思ったのに、しゃっくりがそれをさえぎる。
 泣くのは、これだからいやだ。
 会話すらまともにできなくなる。

 近づいてくる彼がアゴに手を当てて、考えるようなそぶりを見せた。
 そして、今度はさわやかに笑いかけてくる。

「どうしてだと、思う?」

 また、はじまった。
 彼のお得意のこのセリフ。

 あたしはこのセリフにどれだけ惑わされたことか。
 こんなことを言うときは、なにかよからぬことを考えているに違いない。

「わ、かん、な、い」
「じゃあ、教えてあげるよ」

 唸る砂。
 近づく足音。

 夜は彼とひとつになって、あたしを隠していく。
 月も星も、外灯のあかりもとどかないところへ。

 髪に触れられて、涙をぬぐわれて。
 そうして、答えが耳でささやかれる。

「俺はたぶん、ナツキに妬いてるんだ」

 あたしの知っている彼の復活。
 やっぱりこのひとは、意地悪で腹黒い。











ドラマチック完結記念
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