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ドラマチック・ラヴァーズ
作:梶原ちな



第55話 甘くて なんて残酷な





 花、トコロにより、嵐。



「……ナツキのところに行かないでくれ。頭がおかしくなりそうなんだ」

 きつく、きつく抱きしめられた。
 頭がおかしくなりそうなのは、あたしのほうだ。

 彼のにおいがする。
 あの青いマフラーの、におい。

 息ができない。
 くらくらとめまいがする。

 まだ耳に残っている、熱いもの。
 願いを乞うような、切ない声。

「奈緒」

 名前をささやかれて、体が反応した。
 さらにきつく背中を掻き抱かれる。

 彼が、あたしを求めている。
 花が咲き乱れる。
 離さまいとするその行動に答えたくて、縮こまっていた腕を彼の背中に伸ばそうとした。

 そのとき。
 耳の奥、記憶の片隅で。

『うらぎりもの』

 
――未羽の泣き声。


「……っ、あ」

 幸福は一瞬の夢。
 背中から這い上がってくるものに、体がふるえた。

「奈緒?」
「は、なし、てっ!」

 彼の腕の中から逃れるように、力まかせに胸を突き飛ばした。
 気が緩んでいたせいなのか、よろめいた彼からすぐに距離を取る。

 だめ。
 あたしは今日、なんのためにここに来たの。

「どうして、こんなこと、するの?」

 未羽を裏切ることはできない。
 失うと思った瞬間のあの気持ちを忘れることはできない。

 すれ違う電車。
 目があう、それだけの。
 それだけのカンケイに戻ろうと思っていたのに。

「わからない」

 まっすぐな目は、あたしだけを見ていた。
 公園のブランコやベンチや砂場を排除して。
 その目にうつっているのは、あたしだけのような気がした。

「わからないのに、こういうことをするの?」

 まだ、体が熱っぽい。
 髪から、首筋から、少しだけ彼のにおいがする。
 それがあたしをこんなにも追いつめる。

 うれしい。
 しあわせ。
 だいすき。

 だけど、未羽は?

「あなたがすきなのは未羽でしょう?」

 自分の言葉に吐きそうになる。
 こんなにも胸が痛いなら、口にしなければいいのに。
 こうでもしないと、この気持ちを抑えられない。

「あたしは利用されるだけだったんでしょう? そのために出会ったんでしょう?」

 これは、あの最低な夜の続き?
 でも、あのときよりもっと最悪だ。

 だって、彼が抱きしめてくれた。
 それはなによりも甘くて残酷な記憶になる。

「だったら、もう」
「奈緒」

 上乗せされる言葉。
 だけど、最後まで言わないといつまでも終わらない。

 もう、二度と会わない。
 そうしなきゃ、あきらめられない。

「もう、ヒロくんに、」
「黙れ」

 その声に、体がすくんだ。









ドラマチック完結記念
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