ドラマチック・ラヴァーズ(52/72)PDFで表示縦書き表示RDF


ドラマチック・ラヴァーズ
作:梶原ちな



第52話 だから はなさない




 わかっていたけれど、うそつきで意地悪だ。



「手、離してください!」
「そんなに俺と手をつなぎたくない?」

 駅近くの公園はいつも無人。
 遠くに見えていたはずの夕陽は、もうとっくに地球の反対側へ。
 おとずれたのは、紫色した薄い夜のはじまり。

 ようやく離してもらえた手はやっぱり汗ばんでいて、通り抜ける風がいやにつめたく感じた。

「つなぎたくない、です」

 本当にそう思っていた。
 とにかく、やけに近いこの距離をどうにかしたくてあたしはベンチへと向かった。
 けれど、そでを引っ張られる感覚に足が止まる。

「じゃあ、手はつながない。だけど奈緒はすぐどこかに行ってしまうから離さないでおくよ」

 制服のそでをつかまれて。
 顔をのぞきこまれて。
 そんなセリフまで言われて。

 もう、ぐちゃぐちゃだ。

 こんなのはだめ。
 こんなのは困る。

 手にかいていた汗は、全身にわたってあたしを沸騰させた。
 しぼったら水滴がでるんじゃないかと思えるくらい。

「いま、心底困ってるだろう?」

 まるで心のなかを見透かされたかのように、笑う彼が憎らしくてたまらなかった。




「ナツキを、未羽のところに行かせていいんですか?」

 ベンチに腰を下ろしても、まだ彼はあたしのそでをつかんだままだった。
 ムダな抵抗だと知りつつも軽くそでを引っ張る。

 この空気と沈黙に耐え切れなくて、自分から話題を振った。
 正直、気になっていたことだった。
 未羽が泣いているのを知っていて、どうして彼はナツキを行かせたのだろう。

 自分からふっかけるようなことをして、何を考えているのかわからない。
 ナツキを行かせたときの彼の笑顔が心底嬉しそうに見えたのは、あたしの気のせいではないはずだ。

「朝から未羽は目を真っ赤にさせていたし、ナツキの様子もおかしかった。ここは俺の出る幕じゃないよ」
「だけど、未羽が泣いているのに? 本当は自分が行きたかったんじゃないですか?」
「奈緒は意地悪だね」

 どっちが、と叫んでやりたかった。

「……今からでも間に合います。早く未羽のところに行ってあげてください」

 ぐっと飲み込んだ言葉を、違うものに置き換えて吐き出した。

 あたしは、彼とはもう会わない。
 そう決めたのだから。

 未羽を裏切ることはできない。
 この行為は、裏切りにもひとしい。

「ナツキが行ったから大丈夫。それに俺は奈緒に会いたかった」

 だから、どうしてそんなことばかりいうの。
 スカートのすそを握り締めて、あふれそうな感情をこらえる。

「あたしは、あなたに会いたくありませんでした」

 早く離れなきゃ。
 早くここから逃げなきゃ。
 閉じたはずの扉の中で、花が大きく揺れている。

「だから?」

 返された言葉に、血が上った。

 だから?
 そんなの、自分がよくわかっているでしょう。

「っ、帰ります。話すことなんてなにもありません」
「だから?」
「ふざけてるんですか!?」

 立ち上がったとたん、つかまれたままのそでを引っ張られた。
 怒りにまかせて彼の顔をにらみつけたのに、その目はまっすぐあたしをとらえていた。

「だから、何なんだ?」

 扉。
 すきま。

「俺は奈緒を離す気もなければ、帰す気もさらさらない」


 のぞくは、揺れる花。










ドラマチック完結記念
続エピローグはこちら







ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう