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ドラマチック・ラヴァーズ
作:梶原ちな



第50話 あとのあと



 
 ――どうして。


 後ろから聞こえた声に、空気がふるえた。
 その振動は、閉じたはずの扉の鍵を大きく揺るがした。

「なにって、いちゃいちゃしてたに決まってんだろ。なー奈緒」

 後ろを振り向けずにいるあたしの腕をナツキが引いた。
 しゃがんでいる不安定な体勢のせいで、そのままナツキの胸に受け止められる。

「なっ」
「だまってろよ」

 ナツキは小さな声で、そうつぶやいた。
 作戦なんて、もうやめたのに。
 こんなことをしたって、なんの意味もない。

「目立つぞ、早く奈緒を放せ」
「行かせないっていったよな、俺。そもそもお前、都合が良すぎるんじゃねえ?」

 ワントーン低い声で話すふたりは、まるで知らないひとのようだ。
 混雑する駅の中。
 喧騒、雑踏。
 その一部、この場所だけがまるで切り取られたかのように別のものだった。

「もう奈緒にかまうな。俺はお前の望むとおり未羽をあきらめて、奈緒と付き合うからさ」

 そんなことをあのひとに言ったって、もうしかたないのに。
 これじゃナツキばかりが悪役になる。
 ヒロくんにとって、あたしは未羽のオトモダチで、ナツキを惑わすための人間。

 そんなの、もうわかりきっていることだった。
 どこかがずきずきと痛むのは、気のせいだ。

「お前は未羽だけ見てろよ。未羽のために、他の人間を傷つけていればいいだろ!」

 ナツキの声が、胸に突き刺さった。
 その叫びは、きっとナツキの本当の言葉。

 いつの日からか妹しか見えなくなった幼なじみに、どんな思いを抱いていたのか。
 ひたすら優しいナツキがどんな思いでいたのか。
 後ろにいる彼に、伝わっただろうか。

「ナツ、」
「――だから、俺は奈緒に話があるんだ」

 ナツキの背をさすろうとしたあたしの手は、後ろからつかみとられてそのまま立ち上がらされた。

「や、やだっ」

 引きずられるように飛び込んだのはヒロくんの胸の中。
 一瞬のできごとに、何が何だかわからない。

「ナツキ、お前はさっさと、みーに謝ってこい。たぶんあの場所にいるだろうから。あと」
「……あと、なんだよ」
「帰りうちに来い。メシ用意してやるから」

 ヒロくんの腕から逃れようともがくあたしの目に入ったナツキの顔。
 きょとんとした表情を浮かべていたのに、急ににやっと笑って立ち上がった。

「オムライス以外な。あと」

ナツキはそのまま足を進め、すれ違いざまヒロくんの肩に握ったこぶしを押し付けた。

「あと、なんだ?」
「奈緒を泣かすなよ。なぐさめんのは俺の役目なんだからな」
「いいから、早く行け」

 ため息と、遠のいていく靴の音。
 一向にほどけることのない腕に疲れて、顔を上げれば。
 頭上で彼が笑っていた。









ドラマチック完結記念
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