第44話 『 』
家に帰ったら、泣きすぎた目をとがめられた。
お母さんは何も言わないあたしに、早く寝なさいとそれだけをいった。
ケータイを開けば、メールも着信もあった。
ほとんどがクラスメイトからで、無断欠席を心配してくれたものだった。
お風呂に入って、タオルで目を冷やしながらベッドに入った。
メールは手がふるえて返せなかった。
眠れないと思っていたのに、落ちてしまったまぶたの裏で夢を見た。
右側で、あのひとが意地悪く笑って。
左側で、ナツキが手を差し出して。
『うらぎりもの』
正面で、未羽がうずくまって泣いていた。
一本早い電車の中は、空席ばかりだった。
座ることができるのなら、これからこの電車に乗っても悪くないかもしれない。
揺れる窓の向こう側は、けぶった町並みと走る線路が見えた。
すれ違う電車で、仕組まれたドラマ。
何分のいちのカクリツで、あなたはあたしを見つけた。
夜の住宅街で、ちょっとしたウンメイ。
何分のいちのカクリツで、あたしはナツキにぶつかった。
そして、なによりもの幸福。
何分のいちのカクリツで、あたしは未羽と出会った。
キセキもウンメイもありえないセカイ。
なのに、こんなにもあふれていた。
たとえば、あの時間の電車に乗っていなかったら。
たとえば、ナツキをすきになっていたら。
たとえば、未羽に出会わなかったら。
こんなに苦しい思いは、しなかったのだろうか。
『うらぎりもの』
揺れる景色。
流れる青。
頭の中で、夢の中の未羽が叫んでいる。
冷たすぎる廊下には、人の気配すらなかった。
響くのは上履きの乾いた音。
教室へ続くドアに手をかけたとき。
小さな泣き声が耳に入って、思わず固まってしまった。
「っ、う……」
心臓が壊れるかと思った。
泣き声は夢の中の声によく似ていて、あたしの息の根を止めるには充分だったから。
鼓動が頭痛を引き起こして、絞られるような胸の痛みに吐き気がする。
未羽。
中にいるのは、未羽。
『うらぎりもの』
これは、悪夢の続き。
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