第43話 ホトトギスのナミダ
「予定よりだいぶ違った展開になったけど、面白いモンが見れた」
ここのところ集合場所になってしまっているあの公園で、あたしは泣きはらした顔を洗っていた。
化粧が落ちた茶色の水は、汚い。
まるでこの心のようだ。
ベンチに座って、笑いをこらえるように口元に手を置くナツキは本当に楽しそうだった。
水の冷たさはあたしを冷静にしてくれると思っていたのに、混乱と動揺ばかりが広がって、笑う彼をもうらめしく思える。
「なにも面白くなんてないよ。作戦は失敗したでしょう」
「そうか? 確かに予定通りには行かなかったけどさ」
本日の作戦は、あたしとナツキが付き合っているというところをあのひとに見せ付けるというものだった。
目立つようにとスカートまで短くして待っていたのに、来たのはナツキじゃなくて生徒指導の先生。
しかも、助けてくれたのはあのひと。
どうして、助けに来てくれたのだろう。
あたしのことなんて、どうでもいいはずなのに。
「キスする覚悟までしてたのに、残念だった?」
ポケットから取り出したハンカチで顔をぬぐっているところに、からかうような言葉が飛んできた。
そう。
今日の作戦の目標は、鳴かぬならその気させようホトトギスなるもので。
もし、あのひとがあたしたちの関係に目もくれなかったら、目の前でキスしてやろうと思っていた。
「……女遊びが激しいひとにいわれたくない」
「激しくないって、来るものは拒まず主義だったわけ。でも、最終的にやっぱり未羽に戻ったけどさ」
陰った表情の中に、同じ痛みが見える。
何度も、何度もあきらめて。
それでも、たどり着く。
あのひとは、あたしのことを何とも思っていない。
そんな決定的な絶望に、降りそそぐ花。
それなのに、たどり着く。
冷たい水に困惑しても、彼がすきなのだと。
顔を見て、うれしかった。
助けてくれたとき、また胸で花が咲いた。
明日会いたいといったのは、どうして。
どうして。
「明日、どうする? 付き合ってる作戦は失敗したから、付き合おうかと思っている作戦に切り替えたけど」
「行かせないんじゃなかったの」
「そんな顔させるためにいったんじゃねーの。会いたいなら、会えばいいよ」
自分がどんな顔をしているかなんて、わからない。
あのひとが何を考えているかも、わからない。
ナツキの言葉が優しすぎて、どうしていいのかもわからない。
「俺をどんな風に使ってもいいから、明日、行ってこい。泣きそうになったら、いつでも呼んでくれな。すぐ行くからさ」
水にぬれた手が、冷たくていたい。
泣きすぎた目が、じんじんといたい。
なのに、ナツキが優しくて涙がでる。
不安で、どうしようもなくて、苦しくてバカみたいなのに。
それはナツキも一緒なのに。
「あたし、ナツキをすきになればよかった」
「俺も奈緒をすきになればよかったよ。でも、最終的に未羽になっちゃうんだよなあ。こんなに苦しいのにな」
涙をふいて、笑うことしかできなかった。
笑うこともできたかどうかわからなかったけれど、ナツキが笑うから。
明日、彼に会いにいこう。
もう、うじうじして泣くのは嫌だから。
この花を、あのひとに。
摘み取る覚悟を、決めよう。
別れ際、ナツキがあたしの手を握って、ささやいた。
「俺、ヒロがあんなに必死になる姿、初めて見たぜ。遅れていって正解だったよ」
なかされたホトトギスは、もしかしたらあたしだったのかもしれない。
|