第41話 嵐、吹き荒れて
「は、離して」
「どうして? 俺を待ってたんだろう、奈緒は」
校舎が見えなくなって、人の姿も見えなくなったところまで来て、あたしはようやく声を発した。
バカみたいに心臓はうるさいし、彼の顔も見れない。
それに、腕が痛い。
とにかく混乱する頭をどうにかしたくて、彼と距離をとりたかった。
なのに、名前まで呼ばれてさらに加熱する。
「ちが、」
「違わない。奈緒はうちの高校に知り合いなんていないだろう。それに俺ときみは昨日あんな別れ方をしているくらいだし、用があるのは俺にだろう」
つめたい、声。
音、その響き。
飛び跳ねてばかりいた鼓動と熱が、静かに引いていくのを感じた。
「まさか学校に来るとは思わなかったよ。今朝、俺のことを避けたのは奈緒なのに」
感情のない声に、胸が痛い。
避けたわけじゃなくて、そもそも学校にいっていないと言い訳をすることもできない。
腕はまだつかまれたまま。
痛みはうずくように体中をめぐった。
「わざわざマフラーを返しにきてくれたの? 律儀だね」
うつむく顔をのぞき込まれた。
昨日ぶりに見た彼の顔は、意地悪そうに笑っていた。
どうして、何も聞かないの?
あたしのこと、何とも思わなかったの?
見えない糸が、切れそうになっていく。
つかまれた腕。
感情のない声。
いつもどおりの、表情。
――ああ、このひとはあたしのことを何とも思ってない。
「離してっ」
振り切るように、力まかせに腕を振り下ろした。
離れていった指に、さらに体を離して遠ざかる。
泣きたくない。
絶対に泣かない。
でも、もう限界に近い。
「あたしは、ヒロくんに会いにきたんじゃないですから!」
強がりの言葉は、声を張り上げなければ出すことも困難だった。
「じゃ、どうして?」
「それ、は」
距離を縮めてくる彼に、足を引いて後ろに下がるも壁に当たる。
コンクリートのその冷たさに一瞬にして体の血が引いた。
「俺が怖い? また何か言われそうで」
顔の横に、手をつかれた。
覆いかぶさるようなこの状態に、いやでも熱が上がってめまいがする。
どうしよう。
逃げたいのに、逃げられない。
体が、動かない。
「……目が赤いのは、昨日俺が泣かせたせい?」
近すぎる顔に目をそむけば、痛いところをつかれた。
もう、どうしたらいいのかわからない。
「な、いて、なんか」
いない、と続けようとしたそのとき。
そらした視線の向こう側に、待ち人の姿があった。
|