第4話 思考回路ラビリンス
恋するオンナノコはとてもかわいいけれど。
自分には関係ないのだと思っていた。
笑って応援することはできるけど、ココロのなかでどこか冷めている部分があった。
そんなドラマチックな話が、あるわけないと。
でも。
どうして、あのひとはあたしの定期を拾ってくれたんだろう。
これは偶然? それとも。
「奈緒、また明日ね」
「うん」
未羽に掃除を手伝ってもらって、電車の中で手を振って別れた。
改札をくぐり抜けて外に出れば、スーツ姿のおじさんたちがちらほら見えるだけで、まだ駅を占めているのは学生がほとんどだった。
(あの学校は普通の高校より授業時間が長くて、まだ帰ってはいない、はず)
人ごみの中、あの青を捜してあたしはまた改札の方へ体を向けた。
なにをしたいのか自分でもよく分かってない。
だけど考えはいつまでも止まなくて、青いマフラーは頭の中で色づくばかり。
偶然なら、偶然でいい。
その証拠がほしかった。
「ああ、あの有名高校の男の子? 私はてっきりふたりは友達なのかと思ってたよ」
「どうして、ですか」
改札の窓口。
朝、あたしに定期を手渡してくれたおじさんはまだそこにいた。
どうしようかと考えてはうろうろする不審なあたしに声をかけてくれたので、ここぞとばかりに抱えていた疑問をぶつけてみた。
定期を拾ってくれたひとは、いつからここにいたのか、ということを。
業務の手が空いていたのかおじさんはあたしの話につきあってくれた。
お礼をしたいという言い訳じみた言葉を素直に汲み取ってくれたのだろう。
「あの男の子、朝早くから駅にいたんだよ。だけど私がここで仕事をしていたときに、きみを指差して、あの子はなにをしているんですかってたずねられてね」
偶然なら、偶然でよかった。
カンチガイをしそうな、この思考が嫌だった。
「定期を落としたみたいだって教えたら、そこからきみとは反対方向の場所を探し始めたんだよ」
青いマフラー。
すれ違う電車。
目が合うだけの、ひと。
「きみの反応からするに友達じゃないみたいだから、私も驚いているんだよ。いい人もいたもんだね」
「はい、そうですよね……」
顔を上げることができなくて、頭を下げてそこから逃げ出した。
偶然の証拠が欲しかっただけなのに、手に入ったのは必然の証拠。
頭がくらくらした。
つま先までしびれる感覚があった。
顔はバカみたいに熱を放っていて、あたしはきっとオカシイひとに見えるに違いない。
走り出した駅の外の風が、冷たくて気持ちよかった。
「なんで……」
混乱する頭が脈打つ。
繰り返すのは、朝、振り返してくれたあのてのひら。
迷宮はあまりに複雑で、脱出することが出来なくなってしまいそうだった。
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