第32話 巡り巡るラビリンス
それからしばらくして。
あたしたちは、お互いのケガを手当てするべくコンビニに向かった。
消毒と包帯とカットバンを買って、近くの公園に向かう。
その公園は、あのひととあたしがさっきまでいたあの公園だった。
「はい、次」
「いってえ! マジ痛すぎるから。もっと優しくしてくれよ」
「そんなこといってたらいつまでたっても終わらないでしょ。 ほら早く!」
足、腕、肩、顔など、彼はあたしよりひどいケガを追っていた。
擦り傷からにじむ赤が痛々しい。
消毒をするたびにオーバーリアクションで痛がる彼を押さえつけて、ようやくすべての箇所の手当てが終わった。
腰を下ろしたベンチで、すっかり冷たくなったなかにあのひとのぬくもりを探す。
左足に包帯を巻きながら、うずく胸にくちびるをかんで耐えた。
「俺がやるって」
「結構ですー。 だって下手くそそうなんだもん」
「うわ、ひでえ」
それでも、笑えるようになったのは、いま隣にいてくれる彼のおかげだ。
手早く足に包帯を巻き終えて、改めて隣のひとを見た。
いつのまにかすっかり心を許してしまっていて、きちんとお礼もしていない。
「さっきは、ありがとう。迷惑かけてごめんね」
「いいって。気にすんなよ。俺はオンナノコに優しいオトコなの」
「……うん、ほんと優しすぎだよ」
優しくて、いいひと。
見知らぬあたしにこんなによくしてくれた。
最低の夜に、出会ったこのひと。
彼がいなかったら、あたしはまだ夜を走り続けていたかもしれない。
「オンナノコが夜にひとりで泣くもんじゃねーよ。なにがあったかは知らないけどさ、飛び出すのも、気をつけろよ」
照れたように、頬のばんそうこを掻く彼が可愛い。
きっと同い年くらいに違いない。
「なあ、アンタ名前は? 俺は神原夏希。夏に希望って書いてナツキな」
『糸偏に広いとかいてヒロ』
隣の彼の声が、あの声に重なってよみがえる。
同時にやってきた痛みをごまかすように、あたしは笑って自分の名前をつげた。
あのときと、同じように。
「奈緒。三波奈緒」
自分の名前が空気を揺らして、彼に届いた瞬間。
向き合っていた彼の顔から表情が消えた。
「な、に? どうしたの」
不穏な空気に、あたしの体が硬直する。
さっきまで笑顔だった彼の目が、食い入るようにあたしを捕らえた。
あのひとのように。
隠れていた真白月が雲の切れ間からのぞく。
照らし出された公園のブランコが風に小さく軋んだ。
「アンタが、三波奈緒か!」
つかまれた肩に痛みと力。
彼の目にうつる、自分の姿。
迷宮が口を開けて、あたしを待っていた。
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