第21話 脱出ラビリンス
彼女の何を見て、何を思って、過ごしていたのだろう。
「ねえ。あたし、にぶかった?」
「にぶいというより、そういう方向であたしを見たことがなかったんじゃない? 奈緒は、あたしは恋愛沙汰がキライです、ってオーラを放ってたよ」
「……ご、ごめん」
「謝ることじゃないでしょ。それに今はちょっと寂しい。奈緒が離れていっちゃう気がして。だから、話してくれて嬉しかったんだよ」
軽く押された背中の後ろで、いってらっしゃいと未羽が手を振っていた。
いつもの笑顔で。
強い強い彼女。
今までどこで泣いていたの。
どうして、気がついてあげられなかったんだろう。
明日は、未羽の話をたくさん聞こう。
明日は、あたしの話をたくさんしよう。
だから今日は、明日のために頑張ろう。
怖くても、消えない想いはここで花ひらく。
泣きたいときに泣ける場所がある。
あたしは、きっととんでもないしあわせもの。
「いってきます」
振りかえした手。
指をかけたドアノブ。
つめたい風。
屋上。手を振る彼女。
また、忘れられない記憶になる。
保健室で泣きはらした目を冷やして、早退した。
残り一時間だけだったのであっさり帰ることができた。
いつもより早い電車はすいていて、久々に座ることができた。
足元から出てくる温風が、気持ちよかった。
目を閉じて、思う。
出会いからおかしなことばかりだった。
すれ違う電車で、彼と目が合うようになったのはいつからだった?
正確にいえば、彼があたしを見ていたのはいつから?
なぜ、彼はあたしを見ていたの。
『……どうしてだと思う?』
意地悪く笑っていたあのひと。
今まで、それにはぐらかされていた。
定期を落としたときもそう。
遅刻をしてまで、あのひとはあたしの定期を探してくれた。
『なんで、きみを見ていたと思う?――次までの宿題だね』
なんで、どうしてと聞くあたしに、そういえばあのひとは宿題を出した。
公式すらわからない問題は解けようがない。
けれど、ひとつだけ分かったことがある。
これは、全然ドラマチックなことじゃなかった。
いつも電車ですれ違うだけの、ひと。
落とした定期を拾ってくれて、そこからはじまった。
現実は、そんなに上手くいくはずがない。
――これは、彼が仕掛けたドラマ。
その目的は、なに?
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