第12話 花咲くシンデレラ
会いたかった。
きっと、多分。
――絶対。
「な、んで、」
「ゆっくり来て良かったのに」
急いで改札口を出たところで、目が合った。
サワヤカな笑顔に手を振られて、思わず顔が引きつる。
なんで、どうして。
疑問ばかりが頭に浮かんで、コンランする。
「あの、マフラー、お返ししなきゃと思って。勝手に使っててごめんなさい」
汗ばむ首から外したマフラーのホコリをはらってたたんで渡した。
何もなくなった首筋は急激に冷えていって、なぜかとてもさみしい。
彼の首には、また違う青いマフラが巻きつけられていた。
あたしが借りたものよりも色が深くて、夕日が沈んだばかりの夜に似た藍色。
「奈緒の、においがする」
受け取った彼は、それを自分の口元によせた。
まるで、キスをするみたいに。
どくんと、波打つように高鳴った胸は。
脳と心臓と体のどこかを強く揺らして、めまいを起こさせる。
恥ずかしいのと、よくわからない感情と、とにかくいたたまれない気持ちでいっぱいになった。
「奈緒、俺とデートしよう」
その言葉と同時に渡したばかりの青いマフラーが広げられて、あたしの首の後ろを通って巻きつけられた。
目の前に立つ彼が、器用に結ぶ。
距離が、近い。
「は、い?」
聞こえた言葉は、上手くあたしの中で変換されなくて。
間を置いてようやく理解したときには、妙な汗をかいてしまった。
いま。
デートって聞こえた、ような。
「デート。タイムリミットは九時まで。じゃないと俺の魔法がとけてしまうんだ」
ここは、笑うトコロなのだろうか。
彼はどうやらシンデレラだったらしい。
「じゃあ行こうか。馬車も魔法使いもいないけれど」
そうして握られた手は、昨日と同じように冷たかった。
このひとは、どれくれいあたしを待っていたの。
どうしてあたしを待っていてくれたの。
約束なんて、なにもなかったのに。
「あ、あのっ、ヒロさん!」
「呼び捨てでいいよ。で、なんでしょうか。用事でもあった?」
呼び捨てになんてできるわけもなく、足を止めた彼を見上げた。
あたし、きっといま。
すごい顔してる。
握られた手はつめたいのに、汗かいてきたし。
周りの視線もいたい。
なのに。
「じゃなくて、あの、手袋買いにいきませんか」
「ほしいの?」
「いえ、その、定期を拾ってくれたお礼です。手が、いつもつめたいから……」
なんだろう、この気持ち。
恥ずかしくてたまらないのに、この距離が、この手が、彼といることがこんなにもうれしい。
胸を突き破ってしまいそうなくらいの鼓動が、顔を染めるこの熱が、なんだかとてもうれしい。
あたしが知らなかっただけで、きっとみんなこんな気持ちを知っていたんだろう。
くだらないと思っていたことは、ただあたしが知らないだけだった。
「な、なんでもいいんです。ほしいもので」
悩むような彼の顔に、必死に言葉を重ねた。
困らせたかな。
調子に乗りすぎたかな。
不安が大津波のように押し寄せる。
だけど、次に彼の口から出た言葉は。
「手袋、奈緒が選んで。俺のために」
「あ、はいっ」
再び、歩き始めた足。
響く靴音。
知らなかっただけなんだ。
あたしはきっと、バカにしてうらやんでいた。
くだらなくない。
こんなに、どきどきする。
この胸で色づきはじめた花の名前は、なに?
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