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鉄の鯨 下
「ほう、さすがは日本人だね。その通りだ。『鉄の鯨』とは、こちらの住民にわかりやすく説明するために我々が考え付いた名前だ。本当は我々が乗ってきた潜水艦「呂501」のことだ。」

 才人は、「呂501」という潜水艦のことを思い出してみる。そして以前読んだミリタリー雑誌に書かれていた記事を読んだ記憶を掘り起こした。

「「呂501」って・・・確かドイツから日本に渡されたUボートだ。けど、大西洋でアメリカ軍に撃沈されたはずじゃ・・・」

「歴史にはそう記録されたのかな?まあそうなっても仕方がないか。日本を目指しフランスのロリアンにあったドイツ海軍基地から、出港して1ヵ月半、ベルデ岬諸島沖で我々は米軍機と駆逐艦の攻撃を受けた。爆雷の直撃こそ受けなかったが、注排水装置の故障で浮上不能になった。その時はさすがに覚悟を決めたよ。ところがだ、深度200mを越えた所で突然攻撃が止み、艦が浮上を始めた。そして、浮き上がった先がこの島の近くだったんだ。」

 昨日会ったグルー大尉の時もそうだったが、行方不明になった人間がこのような形でこちらの世界に流れ着いて生きていたとは、才人にとって本当に驚きである。もし地球でこのことを知らせたらどうなるのか考えてしまう。

 もっとも、今はそんなことを考えている時ではない。

「それで、こちらに来てからはどうしたんですか?」

「取りあえず現状把握に努めたさ。しかし無線は通じない、見たこともない地形、2つの月、さらに遭遇した漁師にここはハルケギニアという異世界であると聞いた時は本当に悩んだよ。だが、地球に帰れる方法はついに見つからなかった。仕方ないので、我々は「呂501」を隠し、この島で暮らし始めたわけさ。だが、12年で7人が死んだ。もっとも、今は外から嫁いできた女性とその間に生まれた子供合わせて20人増えているがね。」

「島に外の人間が近づくのを極端に嫌ったのは何故ですか?」

「それは先ほども言ったが、「呂501」を宝か何かと聞きつけてくる馬鹿者が多いことと、「呂501」のことを悟られたくないからだ。取り上げられてはたまらないからな。もっとも、もう燃料がないからどうしようもないがね。」

 やはりここでも燃料の不足が問題となったようだ。ちなみに、潜水艦の場合エンジンはディーゼルのはずだから、燃料はガソリンではなく軽油だ。

 そうなると、トリスタニアに才吉が設けた精製施設で作れるか微妙である。さらに、船となると必要となる燃料の量も相当な物となる。

 もっとも、原料の原油さえ手に入れられれば、どうにかなるかもしれないが。

「乗田さん。もし燃料が充分に手に入ったらどうしますか?」

「そうだな・・・地球に戻れる方法はないが、我々は腐っても潜水艦乗りだ。もう一度海へ出たいよ。」

「実はですね・・・」

 才人はトリスタニアで石油の精製に成功し、さらにゼロ戦を見つけて、義勇軍としてアルビオンとの戦いに参加している事を説明した。

「なるほど・・・君は我々にも戦争に協力して欲しいのかね?」

「遠まわしに言えばそうなるんでしょうか。」

 才人としては、あまり戦争に人を巻き込むのはいい気がしない。しかし、小国であるトリステインが勝つためには、彼らが持っているような強力な力が必要だった。

「まあ一緒に戦うのは吝かではないよ。なにせ、今や我々には上位組織である海軍軍令部や潜水艦隊司令部もないんだからね。それに戦争に負けたということは、軍も既にないんだろうね・・・しかし、潜水艦ではアルビオンとの戦争には役立てられんと私は思うぞ。」

 言われてみればそうだ。飛行機や陸上兵器ならともかく、潜水艦では空に浮かぶアルビオンとの戦争では役立たない。

「確かに・・・言われてみればそうですね。」

 才人もそのことに気づいた。

「しかし、搭載していた武器や技術者なら派遣しても構わないよ。まあ、そうした話は追々していくとしよう。それに、君の曾おじいさんにも会って見たいしね。さて、では行こうか。」

「行くってどこですか?」

 才人がキョトンとする。

「「呂501」の所だよ。君も見てみたいだろ?それに、外で待つ君の友人たちもそろそろ心配している頃だろう。」

 そう言うと、乗田は壁際の棚の中から濃紺の服を取り出した。どうやら旧海軍の服のようだ。それを着て、帽子を被ると彼は才人を連れて部屋を出た。

 扉の外では、ルイズたちが待ちくたびれ、そして少し心配そうな表情で待っていた。

「来たまえ、「鉄の鯨」をお見せしよう。」

 乗田に案内され、一行は建物から出た。そして彼に案内され、歩いて向かった先は島の端にある山の麓であった。

 そこにあったのは、ポッカリと空いた洞窟であった。入り口には銃を構えた歩哨がいたが、乗田は一言何かを行って下がらせ、その中へと才人たちを案内した。

 洞窟は人一人が歩けるほどの幅しかなかったが、ランプが付けられていて明るくなっており、さらにしっかりした階段も作られていた。

 その階段を一番下まで下りると、急に視界が開けた。そこは天然の巨大洞窟だった。それこそ本物の秘密基地であった。

「さ、これが「鉄の鯨」こと「呂501」だ。」

 そこにあったのは、間違いなく潜水艦だった。そして才人には、映画や本で見覚えのあるナチス海軍のUボートであった。ただし、艦橋前にあったナチス党の鷲のエンブレムは外され、艦橋にも白ペンキで「呂501」と書かれていた。

「すげえ、本物のUボートだ!」

 一方、ルイズたちハルケギニアの人間はやはりこれが何であるか理解に苦しんでいた。一応水に浮いているから船の一種とは感じたようだが、目の前の物体には船に欠かせない帆がない。さらに、甲板以外鉄で出来ているので、どうして浮いているかも理解できないらしい。

「一体これはなんだ?」

「船には・・・見えないわね?」

「帆もないのに動けるはずがない!」

「理解不能。」

 そんな一行を横目で見ながら、才人はそれこそ悦に浸っていた。

「すげえ!やっぱり本物は違うぜ!これ動くんですか?」

「もちろんだとも。さすがに燃料がないから出港させるのは無理だが、それ以外は点検を欠かしていないから大丈夫さ。燃料さえ入れれば、明日にでも出港できるよ。」

 その言葉に、胸躍らせる才人だった。
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 なお、作中に登場した「呂501」潜水艦と、艦長の乗田大尉は実在の潜水艦と人物です。


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