蒼き鋼の鳥 下
「我々エアグループ9の5機は、あの日いつもと同じように基地から訓練飛行に飛び立った。雲は多少あったものの天候は良く、我々はいつもどおりの極単調な飛行で終わると考えていた。しかし、突然それは起きたんだ。まず、方位磁石が利かなくなった。さらに、計器が滅茶苦茶に回り始めて、スピードも高度もわからなくなった。不思議と無線機は生きていたから、我々はメーデーを発信し、基地に状況を伝えた。そして突然海が、いやあたり一面が光に包まれたと思ったら、見たこともない陸地、つまりはハルケギニアの上空を飛んでいたというわけさ。」
「それで、どうしたんですか?」
「とにかく方位磁石が動き始めたからしばらく基地にある方向に飛んでみたが、結局燃料が切れてしまってここに降りたよ。我々15人はなんとか状況の把握に努めたのだが、この付近は人家が乏しくてね、ようやく見つけた住人から、ここがハルケギニアのトリステイン王国であると聞かされたんだ。最初は信じられなかったが、数日もしないうちにメイジが魔法を使う光景や龍が飛んでいるところを見たから信じざる得なかったよ。」
グルー大尉はしみじみと言った。
「それから?」
才人はさらに訪ねた。
「帰る方法もわからないし、燃料もないからね。仕方ないからこちらで生きる意外に方法は無かったよ。アベンジャーを隠し、近くの農民に頼んで農具を借りて畑を耕し、村を作ったというわけさ。」
「それがこの村ってわけね。」
ルイズが指摘する。
「そういうことさ、お嬢さん。まあ嫁さんを貰って子供や孫も出来たから、幸せといえば幸せだったね。ただ、仲間で生き残っている人間は私を含めて8人に減ってしまったよ。その内の6人は、今息子を連れて出稼ぎでトリスタニアに出ているけどね。ま、こういうわけさ。さ、昔話は終わりだ。どうかね、何にもない村だが、一晩泊まる部屋と食事くらいは提供するよ。それに、君には地球に関して色々と聞きたいしね。」
その言葉に、才人とルイズは素直に従った。話しているうちに陽が傾き、もうすぐ夜になろうとしていたからだ。
こうして才人とルイズの2人はエッセンの村で一晩過ごす事となった。最初は敵意を剥き出しにしてきた村人たちも、彼らが客とわかると歓迎してくれた。
グルーの言った通り、本当に何にも無い村で食事も質素な物だった。それでも村人たちの顔は明るく、良い人ばかりだった。
その夜、才人はグルーと色々な話をした。主に地球の事で、アメリカが彼のいなくなった後どうなったかを説明した。
彼はその話に、時には懐かしみ、時には驚き、時には憤っていた。才人は会話の途中で、地球に帰れることを打ち明けた。そして地球に帰る気がないかを聞いてみた。
しかし、グルーは驚きはしたが、その提案を断った。
「ありがとう才人君。しかしさっきも言ったが、我々にはこちらの家族がある。それに、ここに骨を埋めるともう決めている。いまさら地球に帰る気はない。」
「そうですか。」
「ああ。だが同じ地球の人間として、もし何か協力して欲しいことがあったら連絡してくれ、出来る限り力になるぞ。ただ戦争への参加は、我々も家族があるからさすがに遠慮させていただくよ。」
「はい、俺も無理を強いるつもりはありませんから。ありがとうございます。」
翌朝、才人たちはまたアベンジャーを引取りに来る事を約束し、村人たちの見送りを受けて、エッセン村を出発した。
ところが、アクシデントが発生したのは2人がゼロ戦の側に戻った時であった。なんとゼロ戦の側に4人の人影があった。しかも、2人には大いに縁のある人間ばかりであった。
「才人、見つけたぞ!!」
そう言って声を掛けて来たのは、決闘をして以来何かと親しくしてくるキザメイジのギーシュであった。彼の隣には使い魔のモグラ、ベルダンテが地面から頭を出していた。
そしてその側には、小太りでフクロウを連れた少年にサラマンダーを連れた赤毛の女、そして青い龍を連れた小柄な眼鏡の少女が立っていた。
「ギーシュ、それにマリコルヌにキュルケにタバサまで!?お前らなんでここにいるんだ!?」
才人が絶叫する。すると、マリコルヌが言う。
「いやあ、君が宝探しをすると聞いたから。僕たちとしては、宝を君たちに独り占めさせたくないからね。」
さらにギーシュが言葉を引き継ぐ。
「僕達は知っているぞ。君がこの鉄の龍を使ってタルブ村での戦闘で大戦果を上げて、陛下から直々にシュバリエの称号を貰ったことを。」
2人の言葉で、才人は2人がだいたい何を考えているか読めてきた。
「つまりお前らは、俺がゼロ戦で大戦果を上げたように、自分たちも同じように大戦果を上げたいわけか。」
才人が半ば呆れた様に言った。
「そうだ。そしてシュバリエの称号を貰ってモンモランシーを見返してやりたいんだ。」
「僕はそれで、彼女を作るんだ。」
2人の野望を聞いて、才人は苦笑した。確かに才人が探しているのは地球製の兵器であり、それらはハルケギニアの兵器の数倍の威力を持っている。しかし、機械の概念が乏しいこの世界の人間が操ろうと思ったら並大抵の努力だけでは無理である。とくに、メイジである2人の様な人間には。
一方、ルイズはキュルケとタバサにの方に向いた。
「で、あんたたちはどうしてここにいるわけ。タバサはどうせキュルケにつき合わされたんだろうけど、あんたはどうしてここに来たのよ。まさかギーシュたちのように戦争で勲功を上げたいと思っているわけでもなさそうだし。」
すると、キュルケが何時もどおり尊大に答えた。
「もちろん、私は戦争なんか行く気はないわよ。けど、宝物を見つけて売ればそれなりの値がつくでしょうからね。」
ようは売って稼ぐ気だ。
「なんてガメツイ女なの。」
ルイズが睨みつけながら言うが、もちろんそんな言葉にキュルケが動じるはずが無かった。
とにかく、才人とルイズは呆れ、少し怒りながらもここまで来た4人を今更追い返すわけにもいかず、付いてくるのを黙認する事となった。
「まあいいや、次いくぞ、次。今度はこのダンティヒっていう港町にある『鉄の鯨』を調べに行くぞ。コンターック!!」
才人はコックピットに入ってエンジンを掛けた。ゼロ戦のエンジンはちゃんと掛かってくれた。
「ようし、異常なし。ルイズ乗れ。」
「ええ。」
ルイズが乗り込むと、才人はゼロ戦を出発させた。
「さ、私たちも行きましょう。」
4人もシルフィードに乗り込み、その後を追う。
次の目的地ダンティヒでは、一体何が彼らを待ち受けているのだろうか。
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