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母の許へ
 ロンディニウムのハヴィランド宮殿で、ウェールズ国王から直々に勲章と褒賞金を頂いた才人とルイズは、その1週間後ようやくトリステインに帰ってくることが出来た。

 あの後才人たちは、今回の戦いでトリステイン軍の前に現れたドイツ軍の2号戦車についても調査していた。幸いその攻撃による被害は小さく、ギーシュ達が乗員を捕虜にしてくれたおかげで、必要な情報は簡単に得る事が出来た。

 捕虜の証言によれば、その2号戦車は彼らの父親たちが乗っていた物で、やはり地球から飛ばされた物だったそうだ。捕虜達は操縦や銃の使い方も彼らに習ったという。ちなみに、その父親達は既に他界していた。

 そしてPZLに乗っていたマリーの時と同じく、この戦争でどこからか噂を聞きつけたレコン・キスタ軍に徴発されたという。例によってこちらでもシェフィールドという謎の女が目撃されていた。

 彼らはそうしてトリステイン軍に戦闘を挑んだわけだが、これがこの時代の兵隊なら大きな打撃を与えられただろうが、残念ながら相手が悪すぎた。まさか彼らも自分たち以上の戦車と戦う事になるとは予想できなかった。

 結果は操縦が不慣れプラス性能でも劣る彼らの敗北であった。これがハルケギニアにおける地球製兵器同士で起きた最初の戦いの結末だった。

 とにかく地球製兵器をこの世界の人間に使われることは、才人たちにとって新たな脅威の発生でもあった。才吉たちは早速この女についての調査をトリステイン・アルビオン両政府に依頼した。

 ちなみに、才助がハヴィランド宮殿襲撃作戦の最中に拾った謎の指輪も、この時引き渡されている。

 そしてウェールズの厚意により、捕獲されたPZL戦闘機と2号戦車についてはそのまま戦利品として才吉たちに譲られることとなった。もっとも、PZLの方はエンジンに軽く被弾しただけだったから故障も軽く、修理可能であった。しかしながら、2号戦車の方はエンジンに戦車砲弾が直撃していて完全に破壊され、修理不能になっていたた。そのため、残念ながら戦列に加える事は出来なかった。

 この2つは、その後アルビオン政府の協力によって才吉の公爵領へと運ばれる事となる。

 ちなみに、この2つの本来の持ち主はそれぞれ才吉に勧誘された結果『トリステイン空中義勇軍』の仮称アルビオン方面軍に入ることとなった。

 こうしたごたごたが終わった所で、才人とルイズは、まだウェールズ国王と打ち合わせする用件が残っていた才吉たちとわかれて、先にトリスタニアへ帰ってきた。もっとも、帰ってきたからと言ってそれで全てが終わったわけではない。

 今回アルビオン王室の復興がなったことと、才吉がアルビオンの公爵となり、公爵領を貰ったことから、彼を司令官とする『トリステイン空中義勇軍』は大幅な編成見直しを行なわざるを得なくなった。それに加えて今や彼らは陸上、海上にも兵力を持つ大規模な組織へとなっていたことも原因のひとつだった。

 また才人自身前述したとおり、勲章や褒賞金を頂いている。その事から、彼のトリステインでの社会的地位も上がることとなる。これはこちらの世界では名誉な事であった。そして、才人の生活にも影響を与える事となるのである。

 

 才人はトリスタニアに着くと、ルイズと共にまず母親の瑞江の元へと向かった。戦闘シーンばかりのこのシリーズの中で影の薄い彼の母親は、今トリスタニアで人気の料理屋をやっていた。

 彼女がやっている料理屋は最初は小規模な物だったが、今はかなり大きな店になっていた。その原動力となったのは、そこで出した料理だった。テンプラに魚の煮物、味噌汁、うどん、蕎麦、おでんといった和食は、もちろんこの世界にないものばかりだった。その分、人々に与えた影響も大きかった。

 厳密にはシエスタの祖父である佐々木少尉や、先に流れ着いていたアントン島や「にぎつ丸」の人間によって和食は持ち込まれていたが、いずれも地方文化に過ぎなかった。だから、トリスタニアの人々に和食が広く知れ渡ったのはこれが始めてであった。

 最初の頃は味噌や醤油を地球から直に持ち込んで料理を作っていた彼女だったが、米が少量ではあるが市場に出回っているのを知るや否や、早速買いつけてきて麹を作り出した。さらに、それを使ってなんと自家製の味噌や醤油を作り出してしまった。

 人間の行動力は本当に偉大である。しかも、こちらの世界では錬金魔法があるから、短時間で大豆を発行させ、加えて大量に造る事が出来た。もちろん、メイジの協力がいつも得られるとは限らないから、自然発酵式の方法でも製造を開始していたが。

 とにかく、今や彼女が作り出した醤油や味噌は市場にも出回りだしており、新種の調味料として人々に使われ始めていた。ちなみに現実のヨーロッパでも戦前から醤油が良く使われていた。

 そして彼女はそこから生み出される莫大な利益を手にしていた。もっとも、その利益がどうなっているかは本人とその家族しか知らないが。

 とにかく、それが彼の母親の近況であった。才人たちは店の方を訪ねたが、その母親は今日は店に出ておらず、店は休みとなっていた。どうやらこの日はトリスタニア郊外の、才吉の工場から少し離れた所にある自宅にいるらしい。才人とルイズはそちらに向かった。

 才助と瑞江が住んでいる家は、才助がタルブ戦の功績で得た報奨金で買い込んだ物で、さすがに貴族の屋敷ほどではないが、庭付きのそれなりに大きく広い家だった。才人やルイズはトリスタニアに泊まる用があると、時々ここを使わせてもらっていた。

 才人はまず正面の入り口をノックした。しかし、反応はない。

「留守かしら?」

 ルイズが家の様子を見て言う。だが、才人は母親についてあることを知っていた。それは彼女が、昼間に裏の庭でゆっくりと休むのが好きであることだった。

「もしかしたら裏かもしれないな。回ってみようぜ。」

「そうね。」

 2人は一端家の裏へと回った。そして才人の予想通り、裏の庭に2人の人影があった。それは間違いなく母親の瑞江と、もう1人若い女性の姿であった。

「母さん!」

 才人が手を上げて声を掛けると、瑞江がそれに気付いた。そしてすぐにやってきて、裏門から2人を迎えた。

「あら才人、いつアルビオンから戻ったの?驚いた。それにルイズさんも。いらっしゃい。さあ、2人ともお入りなさい。」

 瑞江に促されて、2人は中へ入った。

「ごめん、突然押しかけちゃって。今日の朝アルビオンから着いたばかりなんだ。伝書フクロウで伝えようと思ったけど、向こうを出発する時間が中々決まらなかったから。」

 才人が連絡もせず押しかけた事を謝る。しかし、瑞江は笑顔のままで言った。

「そうだったの。じゃあ、ルイズさんも一緒に帰ってきたの?」

「はい。突然お邪魔してすいません。」

 そう言ってルイズはぺこりとお辞儀する。

「あらあら、別にそんなに他人行儀な態度することないのよ。まあ何はともあれ、2人とも怪我もなく戻ってきてくれてよかった。今、ちょうどマチルダさんと一緒に、新作の味見を兼ねた昼食にしていたの。2人も一緒にどうぞ。」
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