うごめく影
アルビオンの首都でありレコン・キスタの最高司令部たるハヴィランド宮殿があるロンディニウム。その中のホワイトホールと呼ばれる会議室は大騒ぎになっていた。
ちなみに、ホワイトホールという呼称は地球のイギリスのロンドンの官庁街を指すこともある。政治を司る意味では通じている。
閑話休題。
それで、何故大騒ぎになっているかと言えば、トリステイン軍が首都の北60km地点のチェスターフィールドに奇襲上陸しただけでなく、ロンディニウムとの間に存在する森を信じられないスピードで進撃しているからであった。
途中で妨害に遭って進撃がストップしたが、現在は進撃を再開している。この分では、夜休んだとしても明日早朝にはロンディニウムへと突入してくるだろう。
トリステイン軍は約2万。対し首都を守るレコン・キスタ軍は約1万である。決して防御する上で不利とまではいかないが、劣勢は咎められない。
他の部隊は呼び戻そうにも、一番近いロサイスの防衛部隊であっても、戻ってくるまで2日は掛かる。もしトリステイン軍が一日でロンディニウムを攻略し、王党派の旗を掲げれば、レコン・キスタは内部から瓦解してしまう可能性がある。
本来なら、1日で都市ひとつが陥落するなどよっぽどのことであるが、今の状況から見てそのよっぽどの状況が起きかねなかった。
その原因は、『トリステイン空中義勇軍』と名乗る輩が操る飛行機械であった。才吉らは厳重な情報統制を王室に依頼していたが、既にその存在は多少なり外に漏れていた。
しかし、例え情報が漏れていても今のハルケギニア内の各国に取りうる手段などなかった。本来なら存在しない筈の異世界の飛行機械の性能がわかるはずもないし、それが分からなければ対策の立てようもなかった。
その飛行機械は昨日ロサイス軍港の艦隊を壊滅させたのみでは飽き足らず、今日も各地に攻撃を加えていた。その攻撃自体の戦果は微々たる物だが、不用意に迎撃に出た竜騎士隊の被害がうなぎ上りで増えていた。
さらに、彼らが時折撒いていく宣伝ビラも問題だった。色鮮やかに刷られたそれには、王党派の言い分と、アルビオン解放を訴えるウェールズ直々に書いた言葉が書かれていた。そのビラのせいで、士気は徐々にだが低下しつつあった。
「一体、何故こんなことになったのだ!?」
クロムウェルらレコン・キスタの幹部達はただただ頭を抱えるだけであった。
一方、そんな彼らを嘲るように見る女性がいた。
「ふん、愚か者どもめ。」
クロムウェルに影のように付き添い、裏で様々な指示を与えてきたこの人物。実は大国ガリア王国の工作員であるシェフィールドである。国王ジョゼフの命令の下、クロムウェルらレコン・キスタを唆し支援してきたのが彼女であるのだ。
「それにしても、異世界の兵器がここまで強力とは予想外だったな。」
そう呟く彼女の声を聞き取った者はいない。実は彼女は『トリステイン空中義勇軍』の使う兵器の内容について、レコン・キスタ以上に近づいていた。それは、ガリア王国スパイ網の勝利ともいえる。
ガリアは、レコン・キスタのケチの付け始めとなったニューカッスルでの戦闘以降、トリステイン国内で活発にその活動が目撃された謎の鉄の竜に逸早く着目し、調査を開始していたのだ。
最近では、首都のトリスタニア近郊にある基地近くにまで出没し、情報収集を行なっていた。シェフィールドも一度直々に見に行ったことがあった。
彼女としては破壊、もしくは奪取を行ないたかったが如何にあらゆるマジックアイテムが使える彼女といえど、厳重に警備されていてマジックアイテムではない異世界の兵器相手ではお手上げであった。
そこで、ガリア国内ならびにアルビオン内での異世界兵器の捜索に作戦を切り換えた。すると、ガリアの方はまだ見つかっていないが、アルビオンの方ではかなり複数の兵器が見つかった。
もっとも、使い方がわからないのが大半で、なんとか使える物を使い方が分かる平民ともども秘密裏に徴発したのであった。しかも、レコン・キスタには内緒で。
これはもはや崩壊寸前のレコン・キスタを見捨てていたこと、そして異世界の兵器同士の戦いの効果を見るという彼女の思惑があった。
そんな彼女のもとに、2号戦車が撃破されたという報告が入った。しかし、彼女はその報告を見ても、表情を暗くするようなことをしなかった、逆に微笑んでこう言った。
「第一の牙はやられたか・・・第二の牙がどれほど戦えるのか、見物だな。」
シェルフィールドの言う第二の牙は、彼女の思惑通りに『トリステイン空中義勇軍』と戦う事になるのであった。
さて、それより少し前に「にぎつ丸」を発進した才人、ルイズ、コルベールを乗せたソード・フィッシュ雷撃機は、軍港ロサイスを通過すると一端首都ロンディニウムを迂回して、トリステイン軍の進撃予定路の偵察に向かった。
迂回したのは敵の火竜に警戒したためである。戦闘機のゼロ戦ならスピードで振り切れ、なおかつその身軽な運動性能で返り討ちさえ出来る。しかしソード・フィッシュではそれが出来ないために念を入れたのだ。
3人は予定地点に着くと、双眼鏡を使って地上を偵察する。しかし、地上には地球製の兵器どころか、レコン・キスタ軍の姿すらなく、至って平穏であった。
トリステイン軍が今日の夜野営を予定しているのはロンディニウムの北25kmの村である。現在トリステイン軍の先頭からそこまではだいたいにして20km程だが、その間の道を何度も何度も往復して念入りに探した。
しかし、3往復しても何も見当たらず、ついにルイズが痺れを切らした。
「ねえ、才人。何もいないじゃない。もう充分探したから帰りましょうよ。」
普段なら反論する才人であったが、流石に今回は3往復して探しても何も見つからず、彼も嫌気が指していたところであった。
「そうだな。これ以上探しても無駄かな。」
彼は燃料計の針を見る。短距離しか飛んでいないためまだ3分の2は残っていた。
「けどまだ充分に燃料は残っているしな・・・」
と、その時コルベールが声を上げた。
「才人君!右に飛行機が飛んでいるが。」
「え!?そんな馬鹿な!?」
今この空域を飛んでいる飛行機は自分たち以外いない筈だった。才人は信じられない想いで双眼鏡をそちらに向けた。すると、確かにほぼ同高度に飛行機が飛んでいた。しかも、それは彼ら『空中義勇軍』の機体ではなかった。
「まさか!?」
才人は機首にある機関銃の安全装置を解除した。
「才人、近づいてくるわよ!!」
ルイズが言う。才人は反射的に機体を横滑りさせた。その途端機体がガクンと傾く。そしてコンマ数秒後。
ガガガ・・・・
機銃の発射音が鳴り響き、先ほどまで彼らが飛んでいた場所を曳光弾が飛びぬけた。
才人はもう一度相手を凝視し、そして呟いた。
「PZL11・・・」
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