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14話 一刀、信奉者と出逢うの事


模擬戦から明け今日は宴会、どうも俺が主役らしい

華琳について行こうかと思っていたのに

「一刀は今日は帰ってきた事を皆に報告しなさい」

との事、華琳も午後から来るとの事で俺はおとなしく参加と相成ったわけだ

しかしながら…

「えへへっ、一刀〜♪」

「北郷、あまり酒が進んでいないようだが?」

右隣りでは霞が上機嫌でべったり、左にはこちらを全員で開けるわけにはいかないと秋蘭も残っているので

…いやはや、これこそ両手に華、可愛い紫の華と綺麗な藍の華、左右の華に酌をされ周りの兵達からは冷やかされっぱなしだ

しかしさっきから周りを伺ってはいるが一向に見つからないものだ

…俺の酒があまり進んでいない理由は、昨日の副官…確か徐練兵将軍と名乗っていたが確か北郷隊時代部下として何度か見掛けた記憶がある…秋蘭に聞けばわかるだろうか?

「なぁ秋蘭、昨日俺の副官やってた徐ちゃんて知ってる?練兵将軍って職についてるらしいんだけど…」

秋蘭がびくりと震える…何だ?

「北郷、彼女がどうかしたのか?」

「いや、昨日のお礼を言いたくて…」

秋蘭が何故か厳しい目つきをしている…何?俺何かまずい事言ってしまっただろうか…

「やはり北郷に任せるしかないな…すまん、今から少し私の部屋に来てくれ」

「えぇ〜、秋蘭〜、一刀連れてってまうん〜?」

「霞、すまない、徐将軍の事でな、霞も来てくれ」

霞が驚いた顔をする

「秋蘭!止めとけって!一刀『あれ』に取り殺されてまうで!?」

…えっと…何ですか?その物騒な発言は?

「しかし我々にどうにもできない以上、北郷に任せるしか無いぞ?」

霞がうぅ〜と唸り声を上げてる

「ここで議論しても仕方ない、二人とも、部屋に行くぞ」

俺は久しぶりにヤバイ雰囲気を感じ取ってしまった…



……

さて、秋蘭の自室にて神妙な表情で押し黙る俺達三人

その目の前には○秘と書かれた竹簡の束

「…秋蘭…」

「…北郷…」

このまま見つめ合って唇を重ね合えば大変色っぽい展開なのだが残念ながら俺達は霞を含めて全員顔色が真っ青だ

この竹簡の題は

『徐将軍の異常行動記録』だ

秋蘭は彼女をかなり前から目をかけていたらしい

前半部分はまだまともだった…

曰く、
『時々部屋から奇声が聞こえる』だの

曰く、
『調練での掛け声が
「♪北郷たいちょの為ならば〜♪」という歌から始まる』だの

奇声は多分何かしらの理由があるだろうし、調練は当時まだ北郷隊があったのだから俺の為に頑張ってくれるのはうれしい

しかし

『北郷隊長が政務の際2時間ほど部屋に侵入』



『部屋一面に自身の手書きの北郷隊長の絵姿を貼付けて毎日挨拶している』



…どうみてもストーカー!?

更に俺が向こうに帰った後は

『北郷隊長の最後に使用した寝具一式を部屋に保管』

とか

『北郷隊長の部屋で4度の自殺未遂』

など完全に逝ってしまっている…

「…まぁ、何だ北郷…つまり彼女はお前の狂信…熱心な信者でな…彼女をお前に押し付…任せたいと思っているのだ」

…狂信とか押し付けとか少しずつ本音が漏れてるよ、秋蘭…

「一刀〜、あの子は止めとき、そのうち『ウチと一緒になってくれへんなら、一刀殺してウチも死ぬ〜』なんて背中を短刀でグサ〜っと…」

「ハハッ…まさかぁ…」

…怖い位有り得る

「…一刀、…死なんとってな」

「縁起でもないからやめてっ!!」

「…まぁ、北郷が帰って来て彼女も喜んでいる、そうそう北郷に危害など加えんだろう、北郷、北郷隊再編の件、考えておいてくれ」

「…はぁ、わかった…華琳には相談しといてくれ」

「あ、一刀、酒宴の席戻るん?」

「いや、華琳が来るまで少し休むよ」

「そうか、ならば華琳様が戻られたら迎えを出せば良いか?」

「よろしく」



……

廊下を進んで自室の扉に手をかける…

おかしい、人の気配がする

…右手は腰の新月へ…

せぇの!!

バンッ!!

「はうぁ!?」

…中にいた人物は不思議な悲鳴を上げた

「…何やってるの?徐将軍…」

何故か俺の布団に包まりながら枕を抱きしめてる徐将軍…この子やっぱりストーカー!?

「はうぁ!?えぇと…えぇとっ、そうだ!あの私報告がありましてお部屋にお邪魔しましたらお布団が日干しされていましたのを取り込んであまりにも気持ち良さそうなのでつい潜ってしまった次第であります!」

…そうだっておっしゃいましたね…

「…徐将軍、今さっき秋蘭に君の事聞かせてもらってきたんだ」

「!!!」

「で、君の処遇をどうするかって話になったんだけどまた…徐将軍?」

「ヒグッ…エグッ…し…知られちゃった…知られちゃった!……」

「ちょ…!?なっ…!?泣かないで、徐将軍!ほら!俺怒ってない、怒ってないから!ねっ!?」

泣き出す徐将軍をなだめながらなんだか物凄い罪悪感に襲われる俺…

「…北郷殿に嫌われたら…グスッ…私…生きて…いけません…」

ぐすぐすと鼻を鳴らしながら涙目の少女、これではどんな奇行に走ろうが許さぬ男など居ようか、いいや、絶対居まい

「大丈夫だよ、俺は嫌ったりしてないよ」

「…ほんとですか?」

ベッドに座ってる彼女と立ってる俺、…上目遣いは反則だ

「誓うよ」

ぱぁっと彼女に笑顔の花が咲いた

「…ありがとうございます…北郷殿」

…頬を赤らめ嬉しそうな表情をする彼女…あぁ…何でこの子が俺のストーカーなんか…

「で、聞いて良いかな?どうして俺なんか気に入ってくれてるの?」

正直彼女と話した事なんか数える程しかない

「…笑わないで…貰えますか?」

…なんだか深刻そうだ

「うん、誓う」

…すうっと息を吸う

「…今から一年以上前です、私は洛陽の都で兄と二人で暮らしていました…洛陽は董卓将軍の善政によって私達兄弟も何とか暮らしていたのです」

…そうだ、あの戦は結局董卓が都で利権を持っている事を根に持った袁紹によって起きた戦だ

「私の兄上は董卓将軍の善政への恩と路銀の為に戦に参加し兄上…徐栄は亡くなりました…」

…徐栄…歴史上ではあの武人の兄だ、つまり彼女は…

「…戦場で兄の遺体は魏の方が焼いて下さいました…形見の戦斧は拾ってきました、その後敗残兵として何度か兵として雇っていただけるように試験は受けたのですが全部駄目で…そんなとき北郷殿が…」

…そうだ、何度も試験を受けてる女の子がいるって話を聞いて彼女を取り立てられないか秋蘭に頼んだ記憶がある

「…嬉しかった…天の御遣い様が私に機会を与えて下さったのが…御遣い様の為に今できるのは武を磨く事だと凪様の元で必死に自身を鍛え、やっと配属が決まったのは秋蘭様のところでした…」

ガクリとうなだれる彼女

やっぱり秋蘭は彼女の才を見出だしていたようだ

「定軍山での初陣で武を見せて何とか北郷隊への編入をお願いする気だった私は蜀の奇襲を受け、自分の見通しの甘さ、そして戦場の恐怖を教えられました…私は北郷殿に受けた恩も返せず、勝手に死を覚悟しました…」

彼女がキッと顔を上げる

「しかし貴方は私達の窮地を悟り、己の命を顧みず私達を救う為に兵を差し向けて下さいました…その時です、私が貴方様に命の限り従おうと決めたのは…わかっていただけましたか…?」

恐る恐る聞いてくる彼女に俺は…

「…解らない…俺には解らないよ!君の気持ち!!」

「…どうして…ですか?」
「俺の為に死ぬなんて俺は許さない、俺の為に戦うなら君に生き続けて欲しいんだ…俺の為に生きろ、徐公明…」

抱きしめた少女は泣いていた…己の間違いに気付いてくれればそれでいい…

「…北郷殿、私の真名は涼華(すずか)です」

「…真名を預けてくれるのかい?」

「…ずっと、呼んで欲しかった…真名を呼んでいただけますか?」

「…涼華」

「あ、あ…兄上っ!!」

…涼華が抱き着いてきた

「あ、兄上っ!?」

…彼女はわたわたと慌てている…つい口に出た感じだ

「あのっ、そのっ、えとっ、はうぁ、あぅぅ…」

「…兄上って呼びたいんだね?」

コクリと頷く涼華

「…まぁ他にも妹分はいるし、構わないよ」

兄ちゃん、兄様に続いて兄上とは、次は兄貴辺りだろうか…

「兄上っ!!」

ヒシッと右腕にしがみ付いた涼華を見て、俺はコアラの母親の気持ちが良く分かった気がした…


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