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No.27:side・mako「光輝石と金属片」

 あたしとフィーネは、鉱石を専門とする魔導師のところへ向かっていた。

 あの後、続々と増える光太のフラグに対応しきれなくなった隆司とサンシターは放置。

 なに? 逃げただろうって? その通りだけどなんか悪い?


「あ、真子ちゃん!」


 どうやらオーゼさんの話を聞き終えたらしい礼美が、ジョージとヨハンさんをひきつれて現れた。

 ヨハンさんはともかくなぜジョージ?


「真子ちゃんたちのところに行こうと思ってたから、ちょうどいいかと思って」


 あたしの質問ににへーっと答える礼美。たぶん強引に引っ張ってきたんだろうなぁ。ジョージはなんか渋い顔してるし。

 ヨハンはいつも通りの笑顔だ。信仰心的な意味で。


「真子ちゃんたちはどこに?」

「昨日、隆司が持ち帰った変な金属を見てもらいに」


 今はフィーネが持っている金属片。うまく解析できればいいんだけど……。


「私もついて行っていい?」

「別にいいわよー」


 二つ返事で了承し、あたしは礼美たちも伴って鉱石魔導師のところへ向かうとする。

 魔導師団詰め所から遠く離れ、なおかつ地下への階段を下って行った。

 鉱石専門らしく、どうやら地下暮らしらしい。

 しばらく階段を下りていくと、ようやく研究室の入口らしい場所へとやってきた。


「……で、ここがその魔導師の?」

「うむ」


 あたしの質問にフィーネがうなずき、どんどん扉をノックし始めた。


「ギル! ギルベルト! 起きておるか!?」


 大きな声を上げ、遠慮も呵責もなく大きな物音を立てる。

 しばらくは無反応であったが、やがて扉の向こうから何か熊の唸り声のような声が聞こえ、扉がゆっくりと開いた。

 中から顔を見せたのはいかにもむさくるしいおっさんだ。無精ひげは手入れされていないうえに、髪の毛も伸ばし放題らしく、前髪が目元までかぶっていまいち表情が読みづらい。

 でも、今まで眠っていたらしく、眠そうな声をあげながらフィーネの顔を見つめた。


「なんだ、お嬢……。そんな大声あげんでも聞こえてるよ……」

「嘘つけ。私が来るとだいたい寝とるじゃろお前」


 呆れたようなフィーネの声。寝てるってことはサボり魔?

 フィーネは一つため息をつくと、あたしたちの方を振り返った。


「紹介しよう、マコ、レミ。この男が、魔導師団唯一の錬金術師のギルベルトじゃ」

「あん?」


 フィーネの紹介に預かったギルベルトさんは、怪訝そうにあたしと礼美の顔を見つめた。


「なんだなんだ。魔導師団の新入りか?」


 あれ? この人、あたしたちのこと知らないの?


「ギルのおっさん、またこもりっきりだったのか?」

「ギルベルト殿。この方たちは此度召喚されました、勇者様たちです」


 そんなギルベルトさんに、ジョージとヨハンさんが説明してくれた。


「勇者ぁ?」


 でもギルベルトさんは相変わらず怪訝そうだ。


「なんだ。そんなもん召喚する必要があるのか?」

「いや、魔王軍と戦争してるでしょう?」

「ああ。それがどうした?」


 あたしがそういうと、何を当たり前なという顔で一つ頷くギルベルトさん。

 え、まさか?

 あたしの疑問を体現するように、礼美が恐る恐る問いかけた。


「じゃあ、その前線が王都付近まで来てるということは……?」

「なんだとぉ!? そいつはどういうことだ!?」


 うわ、やっぱり知らなかった。

 やっぱりか、という顔で呆れているフィーネがまたため息をついて、ここ十日くらいの出来事を話し始める。


「――というわけで、この二人を含めた四名の勇者が召喚されたというわけじゃ」

「なんてこった……」


 フィーネからの説明を聞き終えたギルベルトさんが恐れおののいたような声を上げる。

 まあ、魔王軍がもうすぐそこまで迫ってるなんて聞かされればねぇ……。


「もう半年もたっちまってるなんて……」

「え、そっちなんですか!?」


 珍しく礼美の方が先に驚いた声を上げた。

 とはいえ、あたしも同じ気持ちだ。なんでそっちなのよ。


「おい、レーテ! 教えてくれてもいいだろう!」

「ん?」


 誰?

 不思議に思って覗き込むと、中には一人のメイドさんがせっせと研究室を掃除している姿が見えた。

 ごちゃごちゃと机の上やら床の上やらにいろんな石や道具の詰まった箱を見る限りではまさに研究室といった感じだが、妙な清潔感がある。たぶん、メイドさんが埃とか吹いてくれているからだろう。

 今も箒をかけているメイドさんが、ギルベルトさんの声に振り返った。

 ……って。


「メイド長!?」

「これはマコ様。ようこそ、錬金研究室へ」


 驚きに思わず声を上げるあたしに恭しく頭を下げてくれるメイド長。

 え、なんでメイド長がわざわざ……?

 そんなあたしの疑問をよそに、メイド長は涼しげな眼差しをギルベルトさんに向けた。


「教えても、どうせ“今日がいつなんてどうでもいいじゃないか”といって、私の話を聞かないじゃありませんか」

「い、いや、それはそうかもしれんが」

「だいたい、一度だって私の話を聞いてくれたことがありますか? きちんと整頓してくれと言って私が整頓しても、半日もすれば元の木阿弥に戻しますし」

「いや! 某にとってはこの状態が一番機能的なんだよ! どこにあるかわかってれば、それでいいじゃないか!?」

「ダメです。フィーネ様が転んで大けがを負われたこと、忘れたとは言わせませんよ?」

「そ、そんなことあったか……?」


 まっすぐに見つめてくるメイド長から、ツイッと視線をそらすギルベルトさん。フィーネの方を見ると、怒った表情でうなずいてる。ああ、そういうことがあったの……。

 それにしても、いかにもなダメ人間なのね……。見た目からしてダメっぷりがにじみ出てるけど。

 でも……。


「まったく。私がいないと、本当にダメなんですから」

「いや、そんなことは」


 なんて言っちゃうメイド長は、なんだかとてもうれしそうで。

 女としてのあたしは、そんなメイド長が少し羨ましく思えてしまった。

 女の幸せって奴かー。世話好きだったら、この環境は垂涎ものよねぇ。ダメ人間もセットならなおさら。


「礼美。あんた、メイド長を見て何か思うところは?」

「え?」


 こそっと、ためしに礼美に話題を振ってみる。

 もちろんフィーネや男どもには聞こえないようにだ。

 礼美はメイド長の姿を見ると、ゆっくりと息をついた。


「メイド長さん、幸せそうだよね……」


 羨望の眼差しでメイド長を見つめる礼美。

 うん、こういう感情自体がないわけじゃないのよねこの子。

 なのになんで、フラグに一向に気が付かないのよ……。


「そ、そんなことより! 今日は、何の用だ、お嬢!」


 と、何やらギルベルトさんが強引な話題転換を図り始めた。

 メイド長との正面からの言い合いに不利を感じたのかしら。今更過ぎない?

 大けがしたことに関して忘れたふりをされたフィーネはご立腹だったけど、それでも今の用事を忘れるほどじゃないらしい。


「今日は、ちと見てもらいたい金属があってきたのじゃ」

「金属? おいおい、ここ以外に金属を扱ってるところなんてほとんど……」

「今日持ってきたのは、魔王軍が使用しとると思わしき金属で――」

「魔王軍!? 何故そいつを早く言わない! さっさと見せてくれ!」


 フィーネが魔王軍、と言ったとたんに目の色を変えて……目は見えないからなんとなく雰囲気だけど、ともあれ声を荒げ、フィーネの両肩をつかんで揺さぶり始めた。


「ちょ、ま、落ち着かんか!?」


 いきなり揺さぶられて焦るフィーネだけど、何とか腰の袋から例の金属片を取り出した。


「こ、これじゃ」

「こいつか!」


 ギルベルトさんはフィーネの手の中から金属片をむしり取り、素早く体をひるがえして研究室の隅を占領している巨大な箱へと近づいて行った。


「いたた……。相変わらずじゃな……」

「大丈夫ですか? フィーネ様」

「うむ、大事ない……」


 いきなりむしりとられて、指を少しこすってしまったのか指をさするフィーネにハンカチを差し出すメイド長。傷ついていないみたいだけど、大丈夫かしら?

 まあ、ここはメイド長さんに任せよう。あたしは箱の中に金属片をセットしているギルベルトさんの背中を追いかける。


「で、ギルベルトさん。この箱は?」

「こいつか!? こいつは、某が開発した鉱石分析器よ!」


 自慢げに言っていきなり始まる専門的な解説。

 マナ波長がどうの、鉱石比率がこうの。


「―――というわけだ!」

「なるほど」

「おいおい、ギルのおっさん。こいつ基本的に魔法のことは素人なんだぜ? そんな説明わかるはずが……」

「つまり特定の波長を浴びせて、鉱石が反射してきた波長を解析することで分析するってことよね?」

「その通りだ!」

「うそぉ!? わかんの!?」


 ジョージが驚愕の声を上げるけど、別に全部理解してるわけじゃないわよ?

 単純に要点を抜き出すのが得意なだけよ。


「真子ちゃんはね、私と違ってこういう数学的なことを考えるのが得意なんです!」

「なるほど。さすがレミ様の御友人」


 ちょっとうしろ。人のことを自慢するのはいいけど、あんたの隣に立っている奴はあんたの友人というステータスしか見ない奴だからね?


「でも、動力は何? まさか、ギルベルトさんの魔力?」

「某の魔力は大きめだが、さすがにこいつを動かすには足りん! だからこいつには複数の光輝石(マナクリスタル)が組み込んである! それがそれぞれの動力となってるのさ!」

光輝石(マナクリスタル)?」


 初めて聞く言葉に首を傾げる。今までそんな言葉聞いたこともないんですけど。


光輝石(マナクリスタル)は、ギルが発見した新しい鉱石の一つでして。魔力をため込んだり魔法を込めたりすることができる鉱石なんです」

「あ、こら!? 人のセリフを取るな、レーテ!」


 メイド長の説明に、ギルベルトさんが悔しそうな顔をする。

 でもちょっと待って。魔法を込めたり?


「それってどういうこと? 魔法武器とかあるわよね? あれと何が違うの?」

「魔法武器との最大の違いは、魔力供給の必要があるかどうかじゃな」

「魔法武器は人間が魔力を込めなきゃ魔法が発動しねぇけど、光輝石(マナクリスタル)を使えば、人がいなくても魔法が発動できるんだよ」

「ちょ、お前らまで!」


 ああ、なるほど……。時限方式がとれるかとれないかなのね。


「それから! 光輝石(マナクリスタル)は魔力を込めることができる! この性質を使えば、さほど魔力を持たない人間でも強力な魔法を使うことができるようになるんだ!」


 何やら大声で、光輝石(マナクリスタル)の性質を説明してくれるギルベルトさん。そんなに説明したかったのかしら。

 でもこれは結構大きい点よね。つまり光輝石(マナクリスタル)があれば、魔力を外に出せない隆司でも魔法が使えるようになるってことよね。


「でも、そんな鉱石なら、結構貴重よね? そうそう発見できないんじゃ……」

「フッフッフッ。光輝石(マナクリスタル)にそんな心配は無用! 何故なら!」

光輝石(マナクリスタル)は人のいるところでしか発見できないのです」

「レーテェェェェェェェェェ!!!」


 またもセリフを取られたギルベルトさんの慟哭が響き渡る。

 でもなんか普通の鉱石に見られない特徴ねそれ。


「人のいるところでしか?」

「う、ううっ! 光輝石(マナクリスタル)は! 人の魔力が結晶化したもの! だから、ある程度以上人間が暮らしていて、きっかりとした範囲が定まっている場所でなければ発見できないんだぁ!!」


 今度こそセリフを取られまいと、大声で叫ぶギルベルトさん。

 しかし人のいるところでしか取れない鉱石、ねぇ……。


「ひょっとして、時間をおけばまた回収できる?」

「うむ」


 わーお、永久機関。


「当然だけど、ある程度使えば摩耗しちまう。魔力がたまらなくなったり魔法が込められなくなったりな」


 つまり電池みたいなものなのね。魔力版電池。電池と回路が一緒くたになってるってことかしら……。


「ちなみに、ある程度以上の人間ってどのくらい?」

「! だいたい百人以上いて、しっかりと円形の範囲で町が発展していれば極小の光輝石(マナクリスタル)が発見できるぞ!」


 あたしが質問すると、フィーネとヨハンにセリフを取られていじけていたギルベルトさんがパッと顔を明るくして答えてくれた。

 なんか子供がそのまま大人になったみたいな人ね……。


「じゃあ、この王都なんかだと結構な大きさの光輝石(マナクリスタル)が発見できるんだ」

「ああ! 町の中心の地下だとかなりのものが見つかるぞ! それ以外にも、王都くらいの大きさがあれば、王都内のどこでも見つけることができる!」

「確定ではないがの」


 取り放題……ってわけじゃなさそうだけど、便利そうね。光輝石(マナクリスタル)使って何か作れないかしら……。


「あ、分析器から紙が出てきましたよ!」


 話に加われなくて若干さびしそうにしていた礼美が、鉱石分析器から吐き出される紙を見て、嬉しそうな声を上げた。

 紙に結果が書かれて出てくるって、あたしたちの世界の分析器とそんなに変わらない精度ってこと? 魔法スゲー。


「よし! もう出たか!」


 ギルベルトさんが分析器が吐き出した紙を毟り、嬉々として中身を読む。

 でも途端にその顔が無表情になった。


「……なんだこれは」

「なに? どうしたのよ?」


 あたしが声をかけると、ギルベルトさんは無言で書かれた内容を見せてくれる。

 分析器に書かれていたのは、紙を半分に割るようにまっすぐ書かれた線だった。

 フィーネとジョージもあたしの後ろから覗き込んで紙を見る。

 そして怪訝そうな声を上げた。


「なんじゃこれ?」

「おい、ギルのおっさん。壊れてんじゃねぇのか、この箱」

「そんなことはない! ついさっきまで、しっかり動いていた……」


 はっきりと大声でそう宣言するギルベルトさんだけど、後半はしぼんでいった。

 この結果に納得がいってないのね。まあ、当然だと思うけど。

 たぶん、この分析器は線の揺れ幅で鉱石の成分を示すものよね? それが一切ぶれずに一本の線を描くってことは……。


「……ねえ。分析器が吐き出した魔力の波長が、一切反射されなかったってことはあり得ないの?」

「なに?」

「分析器は反射した波長を解析するのよね? こういう結果が出たってことは、波長を解析してないってことじゃない。なら、波長が一切反射されてないってことにならない?」


 あたしの疑問に、ジョージが小ばかにしたように鼻を鳴らした。


「バカいえ。金属が魔力を反射しねぇなんてあり得るかよ」

「じゃあ、この結果はどう説明するの?」

「だから、分析器がどっか壊れてんだろ? 早く直せよギルのおっさん」


 つまらなさそうにジョージが言うが、ギルベルトさんはそれに答えず無言で別の金属片を分析器の中にセットした。

 今度は数分と立たずに結果が表示される。

 カクカクと機敏に波打った線が描かれた紙が吐き出されるという形で。


「あ、あれ?」

「分析器は壊れとらんようじゃな……?」

「つまり、マコ様のおっしゃるとおりに、こちらの金属片が波長を吸収しているということでしょうか?」


 ヨハンさんの言葉に、一同は首を傾げる。

 ただ一人、ギルベルトさんだけがぶつぶつとつぶやきながら研究室の中をぐるぐる回り始めた。


「マコのいうとおりに波長を吸収するのか……? ならばなぜ吸収する? 波長を吸収するということは、そこに何か理由があるはずだ。さっき入れた金属との違いは? 含まれるのが鉱石だけじゃないのか? だが――」


 自分の世界に入り込んでしまったギルベルトさんの様子を見て、メイド長があたしたちの方に体を向けた。


「どうやらギルが自分の世界に入ってしまいました。今日は御引取ください」

「うむ。今回の一件、何か分かれば報告してもらえるように言っておいてくれるかの?」

「ええ、了解しました」


 フィーネとメイド長の会話を聞きながら、あたしも考える。

 今日はいろいろ収穫のあった日ね。特に光輝石(マナクリスタル)は結構デカい収穫だわ。

 何か作れないか、明日からいろいろ考えてみよっと。




 そんなわけで新しいおっさん登場! なぜかコブ付きですが。

 子供みたいなダメなおっさんと理知的な女性の組み合わせもおいしいと思うんですよ。

 次回は隆司に戻りますー。修羅場じゃないのよ?


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