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序文「息子へ。」あるいは、ある母の場合

息子へ。


 母です。お元気ですか。

 あなたが異世界に行ってから、もう2年が経ちました。


 そちらは住み良い世界ですか? 今も冒険の旅の途中ですか? それとも、もう魔王を倒して、楽しくみんなで暮らしていますか? やはりハーレムを作っているのでしょうか?

 あなたは、小さい女の子が好きだから、師匠気取りのロリババアや奴隷市で買った獣人娘に振り回されていないか心配です。ちゃんと同い年の正妻ヒロインとも仲良くしてあげてください。



 こちらの世界では、また桜の季節になりました。

 あなたの妹も、もう中学生です。あなたは中学のころ、とても成績がよかったから、今家にいてくれれば、勉強を教えたりしてくれていたのかな、などとしみじみ思います。


 憶えていますか? 全国模試で県内の21番になったことがあったでしょう? うちの息子はだれよりも頭がいいと、親戚のあいだでも、よく話題にしたものです。

 きっと今ごろは、そのかしこさで、民主主義式の選挙をやったり、マヨネーズや黒色火薬を作ったりしているのでしょうね。私の自慢の息子です。



 昨日、片山さんが(あなたは聞きたくもない名前かもしれませんが)フルーツゼリーを持ってお参りに来てくれました。

 片山さんは毎月、欠かさず、あなたに謝りに来てくれます。例のトラックの会社はだいぶ前に辞め、今では機械の工場に勤めているそうです。お給料は下がったけれど、必ず今までと同じ金額を持ってきてくれると、私たちに約束してくれました。


 あなたは優しい子だから、もうとっくに片山さんのことを許しているかもしれません。

 でも、私は駄目な母親です。いまだにあの日のことをずっと納得できずにいます。

 本当はお金なんかほしくないですし、毎月持ってきてくれる銀行の封筒なんかもう見たくもないというのに、わが子を殺した運転手が苦労すればいい、とにかく仏壇に頭を下げてほしい、という気持ちがなくなりません。自分がこんなに嫌な人間であるとは知りませんでした。どうしたらいいでしょう?



 あなたが異世界で元気にしているか知りたいです。

 でも、きっとあなたは冒険で忙しいでしょうから、今回もお返事はもらえないのでしょうね。残念ですが仕方ありません。

 いつか冒険が終わって暇になったら、そのときにお手紙を書いてください。


 内政でお忙しいでしょうが、くれぐれも無理をして体を壊したりしないよう気をつけてください。

 車にも気をつけて。



母より


 追伸、お父さんと離婚しました。



次回、明日の深夜0時、更新です。

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