うろな町長の長い一日 その十六 緋辺・アンジェ・エリザベス編 ―犬の恩返し―
シュウさん、うろな町計画始動から一周年、本当におめでとうございます!
ささやかですが、私とリズからのプレゼント、受け取ってください!
「いい天気っスねー」
五月二十五日。晴れた空を見上げていると思わず声に出てしまったっス。
あ、私は緋辺・アンジェ・エリザベスっていうっス! どうぞよろしくっス! 日本をぶらぶら旅していて、去年の八月にここ、うろな町にたどり着いたっス。
実を言うと、うろな町にやってきて早々、空腹のあまり行き倒れていたんス。ところがそこへ捜し物のためにうろなを訪れていたベリアル先輩……いや、今はベル先輩に助けてもらったんっス! 天界と地上界の最終戦争の後、離ればなれになっていたのにこんな偶然って素晴らしいっスよね!
……っと、ついつい興奮してしまったっス。それから私はベル先輩がお世話になっている前田鷹槍さん――通称タカさんの家に厄介になる事になったんス。
そこには、白い髪に紅い瞳を持つ、どこか神々しさすら感じさせる女の子――雪姫ちゃんが住んでいたっス。私と雪姫ちゃんはすぐに打ち解けて友達になったっスよ。
どうやら雪姫ちゃんは何やら訳ありなようで、色々な悪い奴らに狙われてるんス……。現に去年の夏は雪姫ちゃんが巻き込まれたアクシデントのせいで呪いがかかっていて、命を蝕んでいたっス……。でも、先輩が命がけで元凶と戦った甲斐あって、呪いは解けたっス! あ、私もその元凶の一端を八つ裂きにしてやったっス! こう見えても、敵には容赦しないっスよ、私!
でも、その後雪姫ちゃんに宿っている神様……水羽様が現れたのは本当にびっくりして思わず平伏してしまったっス……。神様に対する畏敬の念は未だに体に染みついてしまってるっスねぇ……。
それからしばらくして、ベル先輩の捜し物が見つかったんスけど、また激しい戦いがあったんス。まあ、その話は長くなるんでまた今度お話するっス。
そういえば先輩、元気にしてるっスかねぇ……先輩は今、他の七大罪の方々と一緒に離れた所に住んでいるんスけど、そのうち会いに行ってみたいっスね!
さて、九月の始めに捜し物を終えたベル先輩が帰ってからというもの、私はうろなのあちこちをぶらぶらしてるっス。大体公園や野原で野宿してるっスね。
でも生活するのにお金は必要っス。そこで私はタカさんからの紹介により、後剣さんのところで時々お手伝いをさせてもらう事になったんス。
そして時には後剣さん家の庭で野宿させてもらう事もあるっス!
まあ、最初は私がお手伝いすると聞いた後藤建設の人達は何かの冗談かと思っていたみたいっスけど、私がタカさん指示の下で片腕で材木の束を抱えて運んだり、高所作業をチョチョイと終わらせるとみんな腰を抜かしてたっスね♪ まあ、堕天使である私ならば朝飯前っスよ! 雪姫ちゃんと遊べる機会が減ったのは残念っスけど、手が空いている時は極力雪姫ちゃんの護衛をしているっス。ベル先輩とも約束したっスからね!
それにしても、うろなに滞在し始めて九ヶ月。すっかり私もここの空気に馴染んだっスね。町の人達も流れ者の私を温かく受け入れてくれて、本当に嬉しいっス!
秋にはある事情で小さくなっていた冴ちゃん……じゃない、今は冴さんっス。あの人が元に戻ってカッパみたいなおじさんと入籍したし(挨拶に来た時、夏の一件で私に泣いて謝ったのにはびっくりしたっスけど、『私はもう気にしていないっス』と言ってあげたっス!)、うろな町一のバカップル、清水先生夫妻の結婚式に出席してその後ちょっとしたサプライズに一役買わせていただいたっス。
クリスマスにはサンタクロース役を頼まれて、春先には清水先生の所に可愛い双子の赤ちゃんが生まれ(私もお世話を買って出た事があるっス!)、浜辺で怪しい連中と戦ったりと、色々な事があったっスよ。
もう何て言うか、うろなは私にとって故郷も同然っス!
緋辺・アンジェ・エリザベス……堕天使ナベリウスは今日も大好きなうろなで生きているっスよー!
さてさて、昔語りが長くなってしまったっスけど今日は工務店の手伝いもお休みなので、朝のお散歩っス! ……誰スか? 今「犬の散歩」だって言ったの。
「おはよう、リズちゃん。今日も元気いっぱいねぇ」
「おはようございまっス! はい、私は今日も元気いっぱいっスよ!」
明け方、家の周りを掃除していたお婆ちゃんから声をかけられて挨拶する私。挨拶されたら挨拶を返す……それってとても気持ちのいい事っスよね!
そうやって道行く町の人に挨拶をしながら歩いていると――
「そういえば、今日は町長が就任してちょうど一年ですってね」
「あらあら、もう一年になるのね。早いものだわー」
と、おばちゃん達の話が耳に入ってきたっス。そこで私は足を止めて考えてみるっス。
町長……流れ者の私にも分け隔てなく接してくれ、時には私が野宿している所に食べ物を持ってきてくれたりしてくれる、とてもいい人っス。
いつも何かしてもらってばかりだから、私も何か返さないといけないっスね! よーし!
そう思い立って財布を取り出し、中身を見ると…………千円札が二、三枚……だと……?
そういえば、前に給料が入った時に思い切ってアウトドアグッズを新調したからオカラ(訳注:オケラ)だったっス……。
マズいっス、本当にマズいっス。これじゃあ何もできないっスよ! でも、何か一つでもプレゼントを贈らないと申し訳が立たないっス! このままでは、私の寿命がストレスでマッハなんスけど……!
私の苦悩がピークに達したその時、私は閃いたっス!
(……そうだ、プレゼントといっても何か物を買って贈るだけじゃないっス! うろな町には、美味しい物がたくさんあるじゃないっスか! そして私には、抜群の嗅覚と、長いアウトドア生活で培った食材に関する知識があるっス! …………よし、決めたっスよ! 私からのプレゼントは『うろな町産の美味しい食材セット・リズスペシャル』に決定っス!)
「……よーし、方向性が決まればあとは全速前進っスよーっ!」
私は手を空高く突き上げ、行動開始宣言するっス! 周囲の人達が何事かって目で私を見てるっスけど気にしてられないっス!
さあ、そうと決まれば善は急げ! 行くっスよー!
「……といわけで、まずはここから始めるっス」
時刻は午前九時過ぎ。
背中には大きなリュック、肩には魚用のクーラーボックス(魚屋さんで借りたっス!)を担ぎ、私はうろな町にそびえる西の山――無山の麓に立っているっス。まずはここで山の幸採集といくっスよ!
「よっし、じゃあ行くっスかね!」
気合い十分! いざ、山に足を踏み入れるっス!
ここは山の幸が豊富に採れるんスよ! さっきそこで会った猫夜叉の二人にも事情を説明して許可はもらったので問題はなしっス!
……少女採集中……
時刻は十一時前。
さてさて、山菜にキノコ、木苺はいっぱい採れたっスよー。それらは丁寧に風呂敷に包んでリュックにしまってるっス!
でも、まだこれだけじゃ足りないっス。山の幸は地面や木にあるものだけじゃないっス。それは……魚!
というわけで私は今、無山の上流に来てるっスよ! ここはいわゆる穴場って奴っスね! 何せここは結構険しい地形のため、登ってくるのは一苦労っス。まあ、堕天使としての身体能力があれば楽勝っス♪
さて、今はイワナが穫れる時期っスからね。味もいいし、食べ甲斐があるっスよ~。どこかの熱血・元テニスプレーヤーも言っていたっス。
「イワナはなぁ……余計な味付けがいらねぇんだよ。自分に中身がある……出汁がついてるんだよ!」
って! 堕天使を越える暑苦しさ……もとい熱血さを持つあの人が言うんなら間違いないっス!
塩焼き、唐揚げ……はあぁぁ想像しただけでも口の中に涎がじゅるり……おっと、いけないいけない。ついイワナ料理を想像してしまったっス。
え? 釣りでもするのかって? うーん……時間がなかったんで釣り道具は持ってきてないんスよね……釣りも得意なんスけど。
でも大丈夫。私に考えがあるっス!
沢から少し離れた所に荷物を下ろして……えーと……あっ、あったあった。ちょうどいい茂みを見つけたっス。
……あ、覗かないでくださいっス。だ、だって、今から魚を穫る準備で、その……裸になるんスから。
そう、私の考えは、直接沢に飛び込んでイワナハントする作戦っス!
だって、急な話だったんで水着を準備する時間すら惜しかったんスもん! でもどうせ誰もいないから問題なしっスよね! おまけに水浴びもできて一挙両得っス!
髪を束ねていたリボンを解いて、上も下も脱いじゃって……よし、準備完了っス!
音を立てないように茂みの陰へ隠れて、そこから気配を殺し、聴覚を集中しながら様子を窺い…………水面に波紋!
「――そこっスよー!」
一声叫び、一気に飛び上がって水面にダイブ! きゃうっ! 水が冷たくて気持ちいいっスよー!
そして指先に手応えアリ! 熊が鮭を穫るかのように、思い切り腕を振るってそれを弾き飛ばすっス!
パシャン!
弾き飛ばしたイワナは綺麗な弧を描いて陸地にあるクーラーボックスの中へシューッ! 超! エキサイティンっス!
「イワナ、穫ったっスよー!」
お笑い芸人を真似して快哉を叫んでガッツポーズ!
と、私が飛び込んだ事でイワナや他の魚が逃げていくっス!
「逃がさないっスよ!」
私は水中に潜り、体の力を抜くっス。そして、一気に力をこめて水を蹴るっス!
そうすると、堕天使が持つ身体能力も併さり強烈な加速ができるんス!
私は急加速を活かして逃げる二匹のイワナをロックオン! 私の腕が届く所まで接近したところで体を回転させ、腕を振るうっス! すると、一気に二匹のイワナが吹っ飛ばされ、クーラーボックスへ!
「――ぷはっ! 二匹、穫ったっスよー!」
いい感じじゃないっスか! この調子でガンガンいくっスよー!
午後一時過ぎ。
それから私はさらにイワナ数匹を捕まえ、休憩がてら水浴びっス♪ はぁ、気持ちいいっス~♪
そうそう、アウトドア大好きな私は乱獲なんてしないっスよ。命をもらって命を繋がせてもらっているんだから、過剰に穫るのは自然界に対する冒涜っスよ! だから私は炎を放って魚を穫ったりしないし、必要以上に穫るのは無益な殺生だって考えてるっス! きちんと自然に感謝して、ありがたくいただくのが礼儀っスよ!
「は~……気持ちいいっス~……」
さてさて、私はと~っても気の抜けた声を上げながら水浴びを満喫してるっス~。ちなみに背泳ぎっスよー♪
やっぱり、誰もいないところでこうやって水浴びするのって最高に気持ちいいっスよねー!
旅をしている時、近くに銭湯がない時やお金がない時なんかに私はこういった川や湖を探して水浴びしてるっスよー。乾かすのは私の炎であっと言う間だし、力の有効活用っスね!
……まあ、たまに近くを通りがかった人に見つかってしまう事もあるっスけどね、あはは。同性はともかく、異性に見られるのはちょっと恥ずかしいっスね……。
……もし、私が水浴びしてるところに出くわしても見ないでくださいっス。見てもいいものじゃないっスよ? 下手したら炎が飛ぶっスよ?
さてさて、とりあえずもう少し水浴びしたら、上がってお昼ご飯にするっス!
午後一時半。
「くあ~っ! さっぱりしたっスよー!」
麓に下りた私は大きく伸びをするっス。う~ん、気持ちよかったっスー!
水浴びを終え、コンビニで買ったおにぎりとお茶でお昼ご飯を済ませた私は山を下り、次の食材探しへ向かうっス。
それから商店街で新鮮な鯛や鮮度抜群の野菜をそれぞれイワナや山菜と交換したっス! お店の人に事情を話したら、快く交換に応じてくださったっス! こんな事もあろうかと、あらかじめ物々交換のためにいいものを用意しておいた甲斐があったというものっスよ!
この町では魚や野菜も鮮度抜群、純国産、産地直送っス!
それからさらに、奥田屋のお婆ちゃんに「どうしたんだいリズちゃん、そんなに大きな荷物を持って?」と声をかけられ、事情を説明すると「それじゃあ、これを持っていきなさい」とミルクパンをはじめ、お菓子がいっぱい詰まったバスケットを持たせてくれたっス! ……でも、背中には山の幸が詰まったリュック、肩にはイワナや鯛が入ったクーラーボックス、手にはバスケット……流石の私でもこれはちょっと重いっスね……。
午後四時過ぎ。
「マズいっス、本当にマズいっス」
日が傾き始めた空を見上げながら私はぼやくしかなかったっス。だって、清水先生が高校時代、地元で蘇らせたという名酒、「海江田の奇跡」がどこも売り切れだっていうんスから! しかもそれなりに希少価値の高い品らしく次の入荷は未定、あとは現地で買うしかないって……今からじゃ間に合わないっスよ~!
今手元にあるのは酒屋さんでもらった「若きマゾ清水が復刻に携わった貴重な名酒、『海江田の奇跡』限定入荷!」と書かれている「海江田の奇跡」のチラシ……。これじゃ絵に描いた餅ならぬ絵に描いた酒瓶っスよ……。
いや、だって美味しい料理には美味しいお酒がつきものっスよね? 食べる事と料理する事が大好きなベルゼブブ様がそう仰っていたっス。まあ、私はお酒が苦手っスけど。なんて言うんスか? あのアルコールの匂いが私の鼻には刺激が強すぎてキツいんスよ……え? そもそも私が酒を飲んでもいいのか? 未成年飲酒じゃないのかって? し、失礼っスね! 私はこう見えても成人っスよ! え? 歳はいくつなのかって? …………でも今は、そんな事はどうだっていいんス。重要な事じゃないっス! とにかく何としても「海江田の奇跡」を手に入れないと!
と、気がついたら公園に足を踏み入れていた私。すると、側のベンチに見知った影が。
「るぅ~♪」
それは、黒く小さいドラゴンのような体に赤い瞳を持ち、独特の鳴き声(?)を上げ、ベンチで気持ちよさそうにひなたぼっこをしている生物(生物……っスよね?)――るぅるぅだったっス。五月に入って、ひょんな事からるぅるぅと知り合い、友達になったんスよ~♪
そうだ! もしかすると、るぅるぅなら!
私は思い立つや否やるぅるぅに近付き、声をかけたっス。
「るぅるぅ、こんにちはっスー」
「……るぅ? あ、りずねーなのだー♪ こんにちはなのだー♪」
羽をぱたぱたさせながら挨拶してくれるるぅるぅ。うーん、いつもの事ながら可愛いっスねー。
「どうしたのだりずねー? そんなに大荷物を持って、お引っ越しでもするのだ?」
……おっとっと、いけないいけない。私は手にしていた「海江田の奇跡」が印刷されたチラシをるぅるぅに見せるっス。
「ああ、ちょっと町長さんにプレゼントを持っていくんス。ねえるぅるぅ、一つ聞くっスけどこんな感じの瓶、持ってないっスか? 今の私にはどうしてもそれが必要なんス」
るぅるぅはチラシをじーっと見つめているっス。すると、
「ん~……ちょっと待つのだ?」
お腹をぱかっと開け、中をごそごそと漁り始めたるぅるぅ。……いつも思うっスけど、そのお腹の中ってどうなってるんスかね? アレっスか? 未来の世界の猫型ロボットが持ってるあのポケットみたくなってるんスか?
そんな事を考えながら待つ事数分。
「あったのだー♪」
明るい声と共にるぅるぅが取り出したそれを見ると……そ、それはまさしく「海江田の奇跡」!
「るぅるぅ! それをゆずってくれっス! たのむっス!」
頭を下げて頼み込む私。確かゲーム高原の店長さんが人から大切な物を譲ってもらいたい場合はこの頼み方が一番だって聞いたっス!
「おっけーなのだー♪」
「えっ!? いいんスか!?」
あまりにもあっさりオッケーしてくれたるぅるぅ! それ、かなりの高級品なんスけど!?
「だってりずねーには、この前缶を開けてもらった上にジュースまでおごってもらったのだ♪ だからこれはそのお礼なのだ!」
「るぅるぅ……」
るぅるぅの礼儀正しさが胸に沁みるっス……。
「わかったっス。それ、ありがたく頂戴するっス! 今度また、ジュースをごちそうするっス!」
「うれしーのだー♪ りずねー大好きなのだー!」
「よしよし、るぅるぅはいい子っスねー♪」
「るぅ♪」
上機嫌なるぅるぅの頭をぽんぽんと撫でる私。すると、るぅるぅは何かを思い出したかのように言った。
「りずねー、ちょっとお願いがあるのだ♪ りずねーの髪が一本欲しいのだ~♪ 持ち物袋の紐が切れかけて替えの紐が必要なのだ♪」
そう言ってるぅるぅはお腹の中から黒い袋を引きずり出したっス。うっすら開いた袋の縁から見えるのは大量の酒瓶らしき物。ま、まさかるぅるぅってお酒好き……!?
「紐が切れると収納できなくて大変なのだ♪ そこで、りずねーの綺麗な髪を紐代わりにしたいのだー♪」
「は、はあ……うん、そういう事ならいいっスよー♪」
私はそう答えて髪の毛を一本抜き、るぅるぅに手渡したっス。
「ありがとなのだ、りずねー♪ これで一安心なのだー♪」
「どういたしましてっス! それじゃ、私はこれでー」
よし! これで必要な物は全部揃ったっス! 上機嫌な彼(で合ってたっスよね……?)と別れ、私は先を急ぐっス。
……ちなみにどうしてるぅるぅがあのお酒を持っていたのかという事についてはこの際考えないようにするっス。
午後六時過ぎ。
町長さんがどこで何をしているのかわからなかった事に今頃気付いた私は、とりあえずいる可能性が高い町長さんのお家へ急いで向かったっス!
するとちょうどよく戻ってきたのか、家の前で話している町長さんと秘書の秋原さんを見つけたっス!
「町長さーん! 秋原さーん!」
私は声を張り上げつつ、二人の元へ向かうっス。すると向こうも気付いたようで、私の方を振り返ったっス。
「おや、リズちゃんこんばんは……って凄い荷物だね!? どうしたの、それ?」
「……お引っ越しか何か?」
私が持っているたくさんの荷物に、町長と秋原さんは目を丸くしてるっス。
「ふふふ~、町長さん。これは私からのプレゼントっス! 全部、うろな中を走り回って集めてきた名産品っスよ! 海の物、山の物、里の物……たくさん集めてきたっス! そして――」
私は胸を張って息を吸い込み、一番言いたかった事を叫ぶっス!
「町長さん、就任一周年おめでとうっス! そして、いつもありがとう! これからもよろしくお願いしまっス!」
「お二人共仲良くっスよー!」
渡す物を渡し終えた後、私は町長さんの家を後にしたっス。二人共、とっても大喜びしてたっス!
「ふぅ……」
町長さんへ食べ物とお祝いの言葉をプレゼントし終えた私は、少し風に当たるためにぶらぶらと歩くっス。
ふと空を見上げると、そこには満点の星。キラキラ輝く星を見ているとなんだかちょっぴり「せんちめんたる」な気分になってきたっス。
……私がうろなに来てから九ヶ月。私はこの町で多くのヒトと知り合い、その生き様を見てきたっス。
町長は秋原さんと公私共々充実した日々を送っていて、清水先生はとっても強い梅原先生のお父さんと戦って勝利を掴み、結婚を認めてもらい、雪姫ちゃんも確実に賀川さんとの距離を縮めている(二人の仲がいいのは喜ばしい事なんスけど、私としては賀川さんが雪姫ちゃんに変な気を起こさないかどうか気が気じゃないっスけど!)……色々なヒトが寄り添い、支え合って生きているっス。そんなヒトの姿を見ていると、私もなんだか心が温かくなってくるっス。
そういえばベル先輩も、好きだっていうヒトとあれからどうなったのか気になるっスね……。
恋……恋っスか……。
そこで、ふと考えてみるっス。
私は生まれてこの方、恋なんてした事がないっス……。堕天して、地上で活動していた頃は色々なヒト達が恋をし、結ばれ、家庭を築くのを見ていたっスけど、どうして今になってそれが頭をよぎるんスか……? ここでの生活と、ベル先輩の変化が私に影響を与えているんスか……? ……うーん、わかんない……わかんないっス……。
恋とはどんなものなんスか……恋をしたら、私も何かが変わるんスか……?
「はぁ~~~~……」
浮かんできたたくさんの疑問に、私が思い切り大きな溜息をついたその時――
「リズ殿? どうしたのだ、溜息をついて」
「あらぁ~溜息をつくと幸せが逃げちゃうわよ~」
かけられた声にはっとしてその方向を振り向くとそこには天狗の面をつけた少年と艶やかな黒髪が特徴の女性が立っていた。
「天狗仮面さん……千里さん……」
思わず声に出してしまう私。この二人は妖怪という種族なんスけど、同じ人外である私とウマが合い、仲良くなったっス♪
「二人共、どうしてここに?」
「うむ、今日も一日この町の平和を守るために見回りをしていたのだ。今日はここまでにして、これから帰るところである」
「そうだったんスか。二人共、お疲れ様っス」
「ふふっ、リズさんこそ今日は一日お疲れ様。町長さんのために食べ物を探して一日中走り回っていたのでしょう? 堕天使さん」
「ど、どうして知ってるんスか?」
「あら、お姉さんは何でも知ってるのよ?」
そういって笑う千里さんを見て私は、やはりただ者ではないと感じたっス。
「それにしても一体どうしたのだ、リズ殿? 溜息をついていたが、何かあったのか?」
天狗仮面さんに聞かれ、私は少し迷ったっスけど、思い切って打ち明ける事にしたっス。
「……ねえ二人共、恋って何スか?」
「どうしたの、藪から棒に?」
「いや、最近うろなではたくさんのカップルが誕生してるっスよね? それを見ていたら、恋って一体なんだろうって思って……」
「ふむ……恋、か」
「恋、ねえ」
二人は何やら考え込んでいたっスけど、しばらくして千里さんが口を開いたっス。
「大丈夫よ、リズさん」
「え?」
突然大丈夫と言われ、私は困惑するっス。一体何が大丈夫なんスか? すると千里さんは柔和な笑みを浮かべて言葉を紡いだっス。
「悩まなくても、恋は求めればあなたの元にも転がり込んでくるわよ。だから、大丈夫だって言ったのよ」
「で、でも……」
「あなたはとてもいい人……いえ、堕天使よ。あなた自身は気付いてないでしょうけど、あなたはうろなの人達からとても好かれているわ」
「そ、そうなんスか?」
千里さんに言われ、私は思わず頬が赤くなってしまうのを感じ取ったっス。わ、私って町の人達からそんなに好かれてるんスか? て、照れるっス……。
すると、私の考えを見透かしたかのように千里さんは頷いたっス。
「自信を持ちなさいな。あなたならきっと恋を掴む事ができるはずだから」
なんだか、そう言う千里さんの言葉には妙な説得力があり、その瞳には優しさと、意志の強さが見えた気がするっス。
……でも確かに、千里さんの言う通りっスね! うん、私、恋っていうものを頑張ってみるっスかね!
「それにしても、あなたが恋をしたらきっと……ふふふ、面白いでしょうねぇ」
「……千里さん、せっかく気を引き締めたのに台無しっスよ……」
まあそれはともかく、私は星空を見上げて高らかに叫ぶっス!
「緋辺・アンジェ・エリザベス……堕天使ナベリウスは今日も大好きなうろなで生きているっスよー! そして、恋を見つけるために、明日もこの町で生きていくっスよー!」
以上をもちまして、サプライズ企画小説は終了となります!
シュウさん、いつも本当にありがとう! そして、これからもよろしくお願いいたします!
…………と、ここで町長様へのサプライズは完結ですが。
ぜひとも三衣様に行っていただきたい場所を。
http://ncode.syosetu.com/n8799cc/
メッセ誘導担当よりその旨送る予定ですが、お運びいただければ幸いです。