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王子と女騎士の恋物語〜2〜
作者:AYAKA
初めましての方は初めまして。そうじゃない方はお久しぶりです。この作品は以前書いていた短編作品の続編にあたります。前作を読んでいない方でも読める内容になっているとは思いますが、興味がある方はぜひ前作も読んでみてください。
それでは、王子と女騎士の恋物語をお楽しみください。
 ――とある国に恐ろしい魔女が住んでいました。ある日王子様に恋をしてしまった悪い魔女は、王子様の婚約者である美しいお姫様に嫉妬して、とうとう呪いをかけてしまいました。それは、永遠の眠りにつくという、とても恐ろしい呪いだったのです。呪いをかけられたお姫様は、まるで死んでしまったかのように眠り続けました。王がどんな手を尽くしても、お姫様が目覚める事はありませんでした。愛する者を失ってしまった王子様は悲しみにくれ、やがてお姫様の傍に寄り添って眠るように息を引き取りました。こんなはずじゃなかった、私はなんていう愚かな真似をしてしまったのだろうかと、自分の犯した過ちに悪い魔女は深く後悔しました。愛する王子様を殺してしまったのは、他でもない自分だったからです。長い後悔の末に魔女は決意しました。そして花に囲まれた台座に横たわって眠る二人に近づくと、そっと頬にキスを落しました。するとどうでしょう。たちまちのうちに透明になっていく魔女の体からは綺麗な光があふれだし、やさしく二人を包み込んだのです。そう、魔女は魔法を使ったのです。王子様を生き返らせてお姫様の呪を解くかわりに、自分が犠牲になって。これが、魔女のせめてもの償いでした。その後、王子様とお姫様は結ばれて、末永くそして幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。

 これは、ここライオネット王国に古来より語り継がれてきた古い童話“眠りの森の魔女”である。
 読む人によってハピーエンドだと言う人もいれば、悲しい魔女のバットエンドだという人もいる。
 ――なんて、悲しいお話なのかしら。
 麗しの美貌を持つ王国の女騎士、エリア・エカテリーナ・ルルベルは後者である。
 エリアは整理していた書庫の棚から偶然見つけたその本をぼんやりと眺めながら、窓の外で途切れることなく降り続ける雨に憂鬱なため息をこぼした。
 ライオネット王国の今の季節は梅雨。ここは大陸の中でも珍しく四季のある気候で、春には綺麗な花が咲き乱れるし、冬には一面白銀の世界に移り変わる。多種多様な国の表情はエリアも好きなのだけれど、この憂鬱な梅雨の時期だけは大の苦手だったりする。
 何が苦手かって、それは。
 ジメジメした天気や湿度もあまり好きなものではないが、エリアはあの虫が嫌いなのだ。あの、ヌメッとしていてにゅっとしているとても触りたくはない気持ちの悪い虫。塩をかければたちまちのうちに小さくなってしまい、殻をかぶった親戚みたいな虫までいるときた。
 そう――ナメクジ。
 幼い頃はよく、ナメクジを捕まえては追いかけてくるアルフレッドやアンソニーに泣かされていた覚えがある。やり返してあげたかったのも山々だったが、相手は一国のやんちゃな王子連中。エリアは悔しがりながらもただ逃げ回るばかりだった。我ながら、とてもけなげだったと思う。
「あの模様を見ただけで背筋がゾッとするわ」
 縦じまのうり坊みたいな模様が、そして粘膜のヌメヌメ具合が気色悪さを増幅させているようで。こればかりはどうしても好きにはなれない。
 という風に、ここまでだと今まで通りなのだが。だけど、今年の梅雨は気持ち的にも例年より憂鬱だった。
 なぜならばこの梅雨があけた夏の時期には、エリアの主アルフレッド王子と隣国アルバーナの王女アルテミスの盛大なる結婚式が控えているのだから。
 実はエリアは女騎士ながらに、ライオネット王国第二王子であるアルフレッド・バラモン・ライオネットの専属護衛という大役を任せられている。そして、このアルフレッドはエリアが恋心を抱く相手でもあるのだ。ちなみにもう両思いだということは確証済み。
(このまま、時が永遠に止まってしまえばいいのに…………)
 最近ではそんなことさえ考えてしまう始末。嫉妬をしてもどうにもならないことぐらい、自分が一番よく分かっているはずなのに。
 国の未来や主であるアルフレッドの幸せを思えば、ここで自分は身を引くべきだろう。私情を持ってはいけない。そう、自分は騎士なのだから。本来ならば、そもそも主に主以上の感情を抱くなど許されるはずもないのだ。命に代えても己の主を守りそして主の幸せを一番に願うのが、専属護衛騎士である自分の勤めではないか。
 ――……そうやって、頭ではわかっているのだけれど。
 お互いの気持ちに気付いてしまった、そして一度身体を交えてしまった後では、どうにも上手くいかないのが難しいところ。
「…………はぁ」
 ふと窓の外の雨から焦点をずらせば、浮かない顔の女が薄くガラスに映っていた。いつもは結ばない甘栗色の長い髪を今日はひとつにまとめて右肩から胸に流し、王家の紋が胸元に刻まれた白銀の鎧に身を包むその姿は、他でもない自分。
 ――私、こんなにひどい顔なんてしてたかしら……
 少しやつれたような、そして思い詰めたような。
 エリアは再びはあっと一息吐くと、視線を手にしていた本に戻し表紙の埃を手で払った。
 砂埃みたく塵が宙に舞い、たちまちのうちに汚れていた表紙が綺麗になる。エリアは長細い指で表紙をめくると、一枚一枚、ゆっくりとページを読んでいった。
 長年読まれることなく倉庫に眠っていた古びた本は思いのほか脆かった。中のページもすすこけて変色していて、だがかろうじて文字を読むことは出来た。
「王子様に恋した魔女は……結局その想いが報われることもなく死んでしまうのよね」
 なんだか魔女が自分と重なって思えてきて、悲しいような切ないような複雑な心境になってしまったではないか。未だに憂鬱な気分が紛れない中、エリアはぼんやりと考えてみた。
(もしも私がこの童話の中の魔女だったなら、やっぱりこうしたのかしらね。でも、もし王子様が魔女の事を好きだったとしたら、彼らの結末はどうなっていたのかしら)――と。
 王子様は魔女と結ばれたのだろうか?それとも、やっぱり別れる選択肢しかないのか。
 魔女という典型的な悪役と、王国騎士という正義の立場を照らし合わせてもあれだとは思うが、エリアにはやはりこの魔女が自分と被って見えてしょうがなかった。
 ちなみにアルフレッドは今他の兄弟と肩を並べて政治の講義を受けている真っ最中。まだまだ終了までには時間があるし、廊下に三人の騎士が立っていても仕方がないということで、第一王子パトリシアの騎士アルエにその場の見張りを任せてきたのである。アルエは真面目な男だからとても信頼できる。
「アルフレッド様も、アルエほど真面目でいてくれたらあまり苦労しないのに」
 でもそうしたら、きっと自分に対して大胆かつ積極的なアプローチ方法は取らないだろう。今のアルフレッドの少々強引な性格だから、二人は主従関係を超えて想い合っていられるのだ。だが、やはり王子と騎士という分厚い身分の壁が、二人の前に立ちふさがっていた。
(アルフレッド様には、婚約者のアルテミス様がいらっしゃる。彼女はとても可愛らしいし、素直で素敵なお方だもの。それに、2人はとてもお似合い。……いくら私がアルフレッド様を想っていても、これはいつかは断ち切らなければならない想いなのよ)
 チクリと、胸の奥深くが痛んだ。まるで、童話のお姫様と同じように毒の塗られた針で刺されたみたいだった。けれど、お姫様は指。そして自分は……心。
「もしもこのまま永遠の眠りにつけたのなら……どんな夢を見るのかしら」
 きっと、夢の中の自分は愛しい人と幸せそうに微笑み合っているに違いない。そう、信じたい。
「そんな幸せな夢なら……いっそ永遠に眠っていたいくらい」
 現実から逃避して、偽りの世界でいつまでも愛しい人との時を共有していたい。
 ――だけど現実はそんなに甘くない。
 アルフレッドがアルテミスと結婚するのは止めることなど出来ないし、何よりそんな権限が専属護衛といえど一騎士でしかない自分にあるわけもない。
 アルテミスはいずれアルフレッドの子を身篭もり、そして幸せな家族を築く。
 果たしてその時、自分はアルフレッドの後ろに控えて気丈に笑っていられるだろうか。
「こんな事なら、いっそ出逢ってしまわなければ良かったのかもしれない」
「――誰にだ?」
 無意識の内にぽつりとつぶやかれた独り言。しかし意外や意外、なんと返事が返ってきた。それもこの声の主は――……
「……アルフレッド、様」
 薄暗い書庫。半開きの扉の前に立つ高貴な衣服に身を包んだその人物は、漆黒の髪と自我の強い真っ直ぐな瞳でエリアを眺めていた。
 もう講義は終わったのか。……いや違う。抜け出してきたのだとエリアは直感した。そうだった。この主は目を放したらすぐに講義を抜け出す癖があるのだった。扉の外にはアルエが控えているはずなのに、一体どうやって。自分の不注意に内心ため息しつつ、エリアはアルフレッドの射抜くような視線に耐え切れずに顔を窓の外へと逸らした。
「まさか、俺に、なんて言わないよな」
「……そんなこと」
 アルフレッドはつかつかとエリアの傍まで歩み寄ってくると、エリアが手に持っていた読みかけの本を取り上げた。
「なんだこりゃ。――眠りの森の魔女?」
 考えるように視線を斜め上へと向けたアルフレッドは、一拍置いてから、ああと思い出したかのように頷く。
「確か、魔女に呪いをかけられたお姫様が王子様に助けられるって話しだっけな」
 ずいぶんと大まかな内容であるし、どこかが違う気がする。
「なんだっけ……そうだあれだ。毒リンゴ食べてそれでのどに詰まらせて死ぬやつだ」
「お言葉ですがアルフレッド様。童話の内容がこんがらがってらっしゃいますね」
 毒リンゴは違うだろうに。と、クスクスッと吹き出しそうになるのをこらえながら、エリアはアルフレッドを見た。
 すると、指摘されたアルフレッドはいかにも間違えて恥ずかしいという感じで、ごほんと咳払いをして誤魔化すという手法を取ったらしい。
「それで、お前はこんな薄暗い部屋で何を悩んでたんだ? もしかしてあれか、あのほら、俺の結婚……とか」
 アルフレッドの瞳に、何とも言い表しにくい不安の色が滲む。アルフレッドだって悩んでいるのだろう。いくら好きではないといえ、というより相手は妹のようにしか見ていなかった大国アルバーナの姫君。けれど今後の友好を保つためにも、アルフレッドはアルテミスと結婚しなければならないのだ。いつの時代も、王族に政略結婚はつきものである。
「違いますよ。私は、アルフレッド様にはアルテミス様とお幸せになっていただきたく思ってますから」
 にこりと微笑み、エリアは続ける。
「私は騎士なのです。そして貴方様は一国の王子」
 エリアの微笑が、悲しげな色を滲ませる。
「やはり、私は貴方の隣にいるべき存在ではありませんし、それを望んでもいけないのです」
 震えるように、唇から言葉が滑り落ちた。
 エリアのこの言葉に何を感じたのか、アルフレッドは持っていた本を無造作に床へ降ろすと、力強い手でエリアの腕を掴んだ。
「――ちょっとこい」
「え、ちょっ、アルフ……」
 呼びかけた名前は途中で途切れた。無理矢理、今までにないくらい強引に腕を引かれ、エリアはずかずか歩くアルフレッドに仕方なくついて行くしかなかった。
 声のトーンが少し下がっていたことから、アルフレッドが怒っているのだと理解する。
 廊下を右へ左へと何回も折れ、アルフレッドに連れられるがまま辿り着いた先は、エリアもよく知る、というか毎日入っている部屋だった。
 豪華な家具が存在感抜群に陣取り、中央には天蓋付きの大きなベッド。部屋の隅には鳥かごもあり、中にはイエローの美しいオウムもいる。
 そう、アルフレッドの寝室だ。
 アルフレッドはエリアを部屋に引き込むなり扉に鍵を掛けて、厳重に二人きりの密封空間を作りだした。そして、扉の前で立ち尽くすエリアを横目に、ベッドに腰掛けて頭を無造作にかきながらイライラしたような口調で言った。
「お前なぁ、あんなこと言うなよ。悲しくなるじゃんか。だいたいお前は俺の隣にいるべき女じゃないだなんてどこの誰が決めたんだ?……いや、まあ現実問題そうなわけだけど。でも俺はアルテミスでも他の誰でもなくて、お前にずっと隣にいてほしいわけで、お前だって俺のことを好きでいてくれてるわけだし。だからその、あ―もうあれだ、お前はもしかして俺のことが嫌いなのか?!」
 好きと言ったり嫌いと言ったり、言葉の中身がまとまっていない。そんなムシャクシャとした表情でこちらを見上げてくるアルフレッドに、エリアは胸がきゅんと切なく痛むのを感じた。
「……嫌いなわけないじゃないですか」
 嫌いなはずない。自分がアルフレッド様を嫌いだなんて、そんなことあるわけがない。
「だったら――――」
「でも駄目なんです。私はあなたの隣……妻になることなんて出来ません」
 それは、一番望んではいけないことだから。自分達は住む世界が違うのだ。いくら相手を愛していても、彼は王族。けして無視できない現実の壁が、苦しいほどに2人を邪魔する。
「俺はまだお前をあきらめたわけじゃない。親父には俺から話すつもりだ。アルテミスには悪いけど、俺が結婚したいのはアルバーナの姫じゃない。俺が結婚したい相手は……なんだかんだ言いながらいつも俺の世話を焼いてくれて、器量が良くて、美人で、やさしくて、どんな女よりも魅力的な騎士だ」
「――ッ、恥ずかしいからやめてください」
 よくもまあこんなことを真顔で言えるもんだなと、エリアは顔を赤く染めながら目の前の主を睨む。もちろん、本気ではないが。
「そんなこと出来るはずもありません。あの厳格な国王様が、お許しになるはずもないじゃないですか。もう少し考えてものを言ってください。だいたいアルテミス様との婚約を勝手な都合で解消して、大国アルバーナとの縁談を断りなどしたらこの国がどうなるかくらいあなただってわかるでしょう」
「それは……」
 うっと黙り込む王子。口論ではほとんどいつもエリアが勝つのである。……アルフレッドが強引な手段を取ったりしないかぎりは。
「いくらライオネットとアルバーナが友好な関係だとはいえ……」
 エリアは視線をそっとアルフレッドから逸らすと、よどんだ雨降りの空を眺めた。
「……もう、忘れさせて下さい」
 ぽつり、小さなつぶやきが零れた。それは降りしきる雨粒よりも小さくて、儚げに咲く花よりも弱かった。
「……忘れるって、何をだ」
 納得のいかない顔で、アルフレッドが言った。
「私はただの騎士。あなたに抱く感情は、忠誠でしかありません」
 だからどうか、あなたを愛してしまったことを忘れさせてください。
 この降り止まぬ雨と共に、余計な想いを流し尽くしてしまえたらと切に願った。
「それは無理な話しだな」
 しかしそう言ったアルフレッドの顔は真剣そのもので、またドキッとしてしまうのだ。
「俺はお前を愛してるんだ、女はお前しか要らない。ずっと前からそうだった……ってか、んな恥ずかしい言葉を何度言わせたら気が済むんだよお前は。愛してるなんて、パトリシアはともかく俺は滅多に言わないぞ」
 そこでなぜ第一王子の例えがでてくるのか。とも思うが、確かにパトリシア様にはそんなイメージがある。と、エリアは妙に納得した。あの第一王子、いつもにこやかに女性受けのいい微笑を振りまいては、言葉巧みに口説きにかかる。落とされた女性は数知れず、実はエリアも昔はよく口説かれていたり。というのはこの嫉妬深い焼きもち焼きの第二王子には秘密だ。
「だからお前と想いが通じ合った、その……あの夜のことはすごく胸に焼き付いているし、この想いを忘れてやることなんかムリだ」
(あの夜…………)
 思い出した瞬間、エリアの引きつつあった顔の熱が再び急上昇した。
 長年抑え込んできた気持ちが、どうしょうもなくあふれてしまった夜。月だけが見守る暗い部屋の中で、あの時初めて思いを告白しあって、愛する人と一つになることができて。肌と肌が触れ合う感触に、気持ちと気持ちが満たされ合う感覚に、心から幸せになれた。
 だがあれは雰囲気に流されてしまった結果なのだ。誰でも、好きな相手にキスをされしかも告白までされてしまえば、理性なんか脆く崩れ去るに違いない。まるであの時の自分と同じように。
 そしてエリアは自分が犯してしまった過ちに、罪の意識に、深い後悔にかられて苦しんだのだ。朝になり現実に返ってみると、自分はどうしてあのような馬鹿な真似をしてしまったのだろうなんて、自責に陥ってしまった。しばらくの間はアルテミスの顔を見るたびに胸が痛んだ。
 あの時の自分はおかしかったのだ。本当にどうかしていた。
(私はアルテミス様を裏切った。両国王を裏切った。そして騎士としての誓いを、裏切った)
 主と関係を持つなんて、騎士として失格、なんて汚らわしいことか。そんなことあってはならない。それも、アルフレッドの婚約者であるアルテミスの母国アルバーナの王宮でだ。
 自分にはいつか必ず天罰がくだる。神が許すわけがない。
「私は忘れたいんです。あんな過ち、頭の隅から消し去ってしまいたい……」
「……なんで、だよ」
「お願いですから。もう、忘れさせてください」
 じゃないと、またあなたを求めてしまう。心が、どうしようもなくあなたを求めてしまう。
「――だったら、駆け落ちでもするか」
「は?」
 つい、そんな間抜けな声がもれてしまった。だって、だって駆け落ちだなんてそんな。
 こっちは本気で悩んでいるというのに、この王子はどういった心境をしているのか。
「……あなたに話した私が馬鹿でした」
「なんだと……っておい、どこいくんだよエリア」
「書庫の整理が途中ですので戻ります。第一ここにいたらまた襲われかねないので」
「おそ……って。こら、人聞き悪いことさらっと言うな。てかあれはお前もその気だったろうが」
「強引にキスをしてきたのはどこのどなたですか。もう一度、よく胸に手をあててお考えください。そうすればきっと、良心というものが痛むはずですから」
「うおーい、エリア……あ、こらエリ――――」
 バタンと音をたて、扉は閉まった。
 書庫の整理なんて侍女にでもやらせておけばいいだろう、とかいうふてくされたような叫び声が聞こえた気もしたが、エリアは少し振り返っただけですたすたと歩いていった。
(駆け落ちだなんて、冗談でも心臓に悪いじゃない)
 それを真顔で言ってのけたアルフレッド。果たして本気かそれともたんなる思い付きのたちが悪い冗談か。付き合いが長いとはいえ、そればかりは分からなかった。
 どちらにしても寿命が縮まった気がする。
 いまだにドクンドクンと早鐘を鳴らす胸の鼓動。上がった心拍数に、少し乱れた呼吸。
「でも……少しだけ嬉しかった」
 書庫に戻るとよろりと本棚にもたれかかり、エリアはしとしとと降り続ける雨空を見上げた。
「……梅雨は嫌いよ」
 だけど今は、このまま梅雨が明けなければいいのに――――……


 王国の空は今日も雨模様。
        END
ご愛読ありがとうございます。なんだか最後あたりバッドエンドな雰囲気に終わってしまいました。これから二人はどうなってしまうのか、それは作者にも分かりません。だけどアルフレッドなら本当に駆け落ちなんかやりかねないかなと(笑)

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