第7話 理不尽な暴力は反対
数分前のディーノの言葉に気分を悪くしながらもジールはリサを連れてくるために一度、宿に戻っていた。
「リサ、出掛けるぞ」
軽く一声かけてから部屋の扉を開ける。
室内はいたってシンプルで左隅に机と椅子が置かれ他には右側のベッドしか無い。
そのベッドへとジールは視線を移動させる。
「なんだ、まだ寝てるのか」
ベッドの上に丸まっているシーツの布を発見し、そのまま塊に向かって歩み寄る。
(大方、うずくまりながら眠ってるんだろな〜)
そんな軽いことを考えながらジールは布に手をかけて
「リサ! 出かけるぞ、起きろ」
と、勢い良く布を引っ剥がした。
「…………」
勢い良く取った布を片手にジールは固まってしまった。
引っ張ったらベットの上がもぬけの空でリサが居なかった、分けでは無い。
リサは当然のようにすぐそこに寝ている、それもスヤスヤと寝息を立てながら。
この状況だけならジールも冷静に対象して起こすことができただろう。
(なんで…なんでこんな格好で寝てるんだ)
彼の視界に入るリサは寝間着のサイズが合っていないのかブカブカな服の隙間から傷一つない肌が露出し肩なんか完璧に見えている。
別にこの程度のことをうるさく言う程ジールは口うるさいわけでは無い。
問題は見られたリサなのだから。
「んっ、出かけるのかジール?」
丸まっていたリサが僅かに目を開いてジールを見る。
そのまま眠たそうに目を擦るとムクリと起き上がり、ジールの顔をまじまじと見る。
「っ、いや、そりゃな」
明らかに不自然な視線のそらせ方にリサは少し首を回し室内をそして自分の服に目を向け、固まる。
視線を彼女から不自然にそらしたジールが渇いた笑い声を上げる。
「なっ、見っ×★§△!!!」
ジールの笑いの意味を理解し顔を羞恥に真っ赤に染めたリサが拳を振り回す。
一撃一撃に殺意の篭もる拳をジールは紙一重で全てを回避。
「おい、そんなに暴れたら更に服がっ」
急な運動ではだけそうになるリサの服に注意を向けすぎて拳を顔面にもらってしまった。
「ハアハア」
肩で息しながらリサが服の乱れを直す。
「で、何の用だジール?」
まだ赤みの残る表情のまま鋭い目で彼を睨みつけ問いただす。
「いや、俺の知り合いのディーノって奴がリサに会いたいって……」
殴られ傷む鼻を擦りながら恐る恐るといった感じで起こしに来た要件を告げるジール。
リサの理不尽な暴力に備えていつでも避けられるように彼女を見据えると普段と違う違和感に気づく。
(なんであんなに爪が長くなってるんだ?)
普段は綺麗に切りそろえられていたはずのリサの爪が不自然なぐらい長い。
「なあ、リサ爪長くないか?」
両手を指さして疑問に思うことを訪ねる。
「なっ、知らん!そんなのは!」
自分の手を見た途端、更に顔を赤くしてジールを睨むリサ。
しかし、予想していた暴力は来ない、彼女はただ顎に手を添えてフムフムと頷いているだけだ。
(何を考えてるんだコイツは?)
怪しむ様な目つきでリサを見ていたが突然にリサが
「よし!では、そのディーノという奴に会いに行こうではないか!」
そう宣言すると勢いのままにピョンとベッドから飛び降りると、目の前の彼を
「着替えるから少し待っていてくれ」
と部屋から強引に押し出した。
(何であんなにディーノに会いに行くのに乗り気なんだ?)
宿屋から出て外の壁に寄りかかって待っていたジールは前髪をいじりながら思案していたが1つ言い忘れた事があったのに気がづく。
(あっ、ディーノと戦わなきゃいけないって言ってないや。でもまあ、今から言ってもややこしくなるからいいか)
と特に何も気にせずにリサが出てくるのを待っていた。
/////
一方、部屋の中で着替え中のリサはこの前買った洋服を前にして悩んでいた。
(ジールの知り合いに会うのはこれが初めてだ、ジールの昔のことを聞くのはともかく。私が龍と知られてはジールが困るかもしれないからな……)
本当はもう知られているのだがジールの説明が適当-もといい説明の途中で部屋から追い出したが-だった為に、なるべく気をつけて服を選んでいる彼女だった。
(そういえば爪が長いままだったな)
リサは爪と爪とを擦りあわせて削り長さを調節し始める。
(不覚だ……)
古龍であるリサは自分の体を制御している。それは城一つを拳で破壊する力や岩を切り裂く爪などは日常生活には必要無いからだ。
(ジールが居ることに安心して爪が少し長くなってしまったなんて……)
本人の前では口が裂けても言うことは無いであろうとを思いながら数分、目の前の服を素早くとっかえひっかえして
「これでいいか」
と服を選びながら着るのだった。
彼女は涼しさを感じられる清楚な色合いの水色キャミソールに動きやすそうな短めな丈のジーンズ。
キャミソールの方には裾にレースのヒラヒラが付いていて可愛らしさを演出している。
(これならまず正体なんてばれないであろう。それにもしバレてしまってもこの格好なら十分に戦える)
人間の服装にあまり頓着しないリサは自分の服の着方に間違いが無いかどうか鏡の前で一度自分の姿を確認して頷くと部屋を出た。
/////
「待たせてしまってすまない」
とリサの声をジールが聞いたのは部屋を出てから十五分も経っていない頃だった。
「いや、そんなに待っちゃいないさ」
背中を壁から離しリサの服を見ながら軽く首を回す。
(似合うな。やっぱり元が良いからなのか)
ジールが服を見ているのに気づいたリサは少しだけ頬を朱に染め
「ジールさっさと行ってしまおう」
と彼の服の袖を少し引っ張りながら歩き出した。
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