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13-カレハ死ンデモオワレナイ
硬い物の上に、薄い毛布が敷かれている。そこに横たっているような感触が…
痛みはない。ただうぃーんという、唸るような低い音がする。機械の音だ。
 彼はぱちっと目を開けてみた。そのとたん、一人の男と目があった。
「ああ、目が覚めたんですね」
「……う?」
相手は、前に会って説明や案内をしてくれた人だった。デシャヴな感覚にボーッとしつつ、彼ははっと気がつき、慌てて自分の体をまさぐった。
「ケガなんてしていませんよ。ぜんぶ治りました」
自分の体をきょろきょろと見る彼に、男は言う。
「アナタは生き返ったんですよぉ」
「生き返っただと? バカな、だって俺」
と言いかけて、あれっと思う。


そうだ。自分は確か死んだはずだ。さんざん人に追い回され、傷つけられ、柯月という女に救われたと思ったら殺された。
 でも今、こうして生きている。ということは死ななかったのか? もしかして病院に運ばれて、一命をとりとめたのだろうか。
だがそれにしては妙だ。男は言うように、体にはまったく傷がない。あんなに痛かった腕の傷も、足の傷も、ぜんぶない。
包帯をまかれた様子はおろか、傷そのものが消えてないのだ。こんなことって??


ふと、彼は自分がいま乗っている台を見た。
「これは」
合金だろうか、いかにも機械らしい無機質な材質。その上に薄い茶色の毛布が敷かれている。
そして、頭の上をみれば半円状の透明なカバー。カバーは彼がのっている台とつながっていて、どうも開け閉めが自由にできるらしかった。
「さ、降りてください。カバーを閉めます」
意味が分からないまま、ただ指示に従って彼が大人しく降りると、男は横の赤いレバーを引いた。上にかかっているカバーが音もなく、おりて閉じる。
「何だ、これは」
「死者再生装置ですよ。ほら、下に投入口があるでしょう? そこに死体を入れれば、機械が蘇らせてくれるんです」
「は? いや、嘘だろそんなの」
「いいえ、本当です。…この機械のメカニズム、簡単な説明をアナタは受け、納得し、試験を受けたはずですけどねぇ」
「へ?」
また例の『講習』の時の話か。だがそれを、彼は聞いていなかったんだから分かるはずもない。
「いや、だっておかしいだろ」
ムチャクチャなことをさも当然のように言う男に対し、彼は今一度食い下がった。
「こんな物があったら、この世の誰も死なないじゃないか」
「そうでもありません。頭をやられた人は生き返りませんねぇ。…正確には、生きかえっても記憶がすっとんで元の人格を保持できない可能性がある。
あと、若返るのは無理です。だから寿命で死んだ人をこの機械に入れても再生しません」
「…………」
「おっと、そういえば」
ふと、男は『思い出した!』というように声をあげた。
「アナタ、講習をろくに聞いてなかったんでしたっけ。……なら、そりゃ分かりませんよねぇ」
「?」
「僕は開発者ではないので、詳しい説明は出来ませんけども」
突っ立っている彼をよそん、男はあちこち回って機械の具合を確かめ、言う。
「ただ、例の講習に沿って説明しますと、この機械。ベニクラゲというクラゲの生態メカニズムと能力をもとに開発されたものなんです」
「くらげ?」
「ええ。…言っておきますけど、おとぎ話じゃありませんよ。ベニクラゲっていうのはね、実在する生き物ですが、死なないんです。天敵に捕食などされない限り」
「そんなのが」
「疑う気持ちは分かりますが、ちゃんといるんですよぉ? そういう生物。まぁ詳しいことは後で調べてみなさいな。図鑑にも載ってます」
あっさりと男は言う。
「で、この機械はそれを元に開発されたんですが、まぁ上手くいかないもんでして。
本物のクラゲは、不老不死というより『若返る』んです。でもこの機械は人を若返らせることは出来ない。
だからクラゲにかこつけるのは、本当は間違っているんですけれど…
でも実在のものを引き合いに出して言った方が人を納得させやすいから、そういう風に説明しているんです」
「うさんくさい」
失礼は承知だったが、彼はハッキリ声に出して言った。
いや、実際のところはその言葉では表現不足だ。うさんくさいというか…くさすぎる。
 だが男は気を悪くするでもなく、彼の言葉に「さも当然だ」というように頷いて続けた。
「確かに。『説明だ』と言っておきながら、実際はクラゲにかこつけてごまかしていますからね。うさんくさいことこの上ありません。
でも、それはそれ、これはこれ。この通り、機械はちゃーんと死者を復活させることが出来るんですよぉ。
傷ついた体のパーツを入れ替えて、足りないものを補って、生命を蘇生させるんです。すごいでしょう?」
ねぇ? と男は同意を求めるように彼の顔をのぞき込む。仕方なしに、彼は短く唸った。

混乱は未だとれていない。ただそのまま、彼は言葉を続けた。
「すごすぎてとても信じられない」
「でも現に、アナタは生き返ったじゃないですかぁ。そして試験は、残念ながら不合格でした」
そんな彼をよそに、男はサラッと言った。少し気の毒そうな表情はしていたが、しかしすぐに切り替えた。
「前に申しましたように、試験にはパスするまで何度でも受けてもらいます。今度の試験は午後九時からです。そして今は午後八時」
腕時計を見てそう言い、機械の傍を離れ、突っ立っている彼の背中を、前に進めと言うように押す。
「一時間後です。少し早めにお迎えにあがります。なのでアナタは時間まで、隣室で休んでいて下さいね。さ、どうぞ」
「ちょ、ちょっと。ちょっと!」
背中をぐいぐい押されて連れられつつ、ドアをくぐり、つづく階段を上されられる。
「待ってくれよ。俺、もうイヤだよ。怖いよ、やりたくないよ!」
力にあらがえないまま、彼はわめいた。
「だめです」
「そんなぁ。あんまりだろ? 俺は不合格になったんだ。素質がないんだよ、諦めてくれよ」
「一回落ちたくらいでなんですか。中には二十回も受験された方もいるんですよ」
「イヤだって。あんなのを一から繰り返すなんて、耐えられない。気が狂う!」
何が何だか分からないが、とにかくあんな思いは絶対にイヤだ。逃げようと暴れたが、男はひょいっと彼の手を掴んで固定してしまった。
彼と男では、体格的には相手の男の方がちょっと大きいくらいで大差ない。なのに、慣れているらしくずいぶん余裕だ。
 こうして彼をおさえながら、男は残酷に言い続ける。
「狂っても大丈夫。その場合は殺して、ちょっと頭を調べて、そしてまた復活してもらいますから」
「イヤだあああああああ!」
「ま、頭をいじるので少々記憶が飛ぶかもしれませんが、あの機械は優秀です。ちゃーんと復活してくれますよ」
「やめてくれえええええ!」
だが抵抗もむなしく、すぐ横のドアが開かれたと思った次の瞬間、彼はある部屋の中に突き飛ばされた。
「いてっ」
「もう、暴れないでくださいよ。こっちだって抑えるの大変なんですから」

言う割に、ずいぶん男はケロッとしている。見ればそこは、前に彼が寝かされていた場所だった。シャンデリアもソファーも相変わらずの様子で鎮座している。
無様に転がる彼に対し、部屋の中には入らず、戸口にたって男は言う。
「もがいたって無駄ですよ。逃げられません。もう何度も言ってるじゃありませんか。いいですか」
「ひいぃ…」
鏡にしか見えない扉をしめ、情けない声をあげる彼を閉じ込めて。男は扉の外からまた繰り返した。
「試験には、パスするまで何度でも受験してもらうって」
「いやだぁ、助けてよ。もうイヤだよ。出してえぇ!」
「ダメです。時間が来たらお迎えに上がりますよ。もう一度、受験して…そして合格して下さいね」
「ぎゃあああああ!」
「ちなみに、前も言いましたけど。再試験の一回目は無料です。ただ二回目からは一回につき三十万かかります。
あの機械、維持費がかなりかかるんです。またその他、諸経費もあわせますからねぇ。だからそうならないように」
「待ってよぉ、お金なら払うから、だから俺を出してえええええ!」
「……」
男はもう何も言わなかった。扉に隔てられ、互いに姿は見えない。ただ扉の前から動く気配がした。
「待って、待ってよぉ。解放して、俺を解放してええええ!」
彼は泣き叫び、扉がわりの鏡を叩いたがどうしようもなかった。

ここからは出れない。逃げられない。
そして、男が言うように……また前に彼が説明をされたように、試験はパスするまで受けなければならない。
追いかけ回され切り刻まれて、刺し殺されて血だらけになる。
何度も、何度でも。合格するまで、地獄の苦しみは終わらない。

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