(16)何味?
『あの映画のDVD、レンタル出来たけど観るか?』
平次からメールが来たんは、晩ゴハンの片付けが丁度終わった時。
『観る!』
急いで返事を送って、待つ事5分。
今度は、携帯やなくてインターフォンが続けて2回鳴った。
この鳴らし方は平次。
「行って来ます!」
居間でお茶を飲んでるお父ちゃんに声を掛けて、玄関に急いだ。
お父ちゃんは、平次んトコやったら、連絡さえちゃんとしてれば何も言わない。
「あんまり遅うなるなや?」
「ちゃんと送り届けるよって、心配せんといてや!」
居間から声だけ掛けて来たお父ちゃんには、平次が応える。
部活仲間と駅前まで出てた言う平次はまだ制服のままで、軽そうなカバンとレンタルショップの袋を抱えてた。
平次ん家とアタシん家は、ゆっくり歩いても5分くらいの距離。
家に着くなり『ハラ減った』と騒ぐ平次が着替えてる間に、オバチャンに『お邪魔します』の挨拶をして、平次の晩ゴハンが終わるのを待って、部屋に移動した。
「帰りに寄ってみたら、丁度返却棚にあってな」
そう言って平次が袋から取り出したんは、ちょっと前に流行った洋画。
観損ねてたそれがレンタルされるんを、アタシは楽しみにしてた。
「まだ新作やから、今日中に返そ思てメールしたんや。来ない言うたら、延滞料オマエに請求しよ思てたんやで?」
「じゃあ、それのレンタル料は平次が持ってくれるん?」
「オレも観たかったしな、当日料金は持ったる」
ちょっと偉そうに笑って、平次が定位置に座る。
アタシも隣に座って、ベッドに寄っ掛かった。
二人の間には、小振りのお盆が一つ。その上には、アイスコーヒーとオレンジジュースとクッキーとポテチ。
平次の部屋で映画観る時のアタシたちの定番。
ポテチ片手に、平次がリモコンを押した。
エンドロールが流れるまでは、一緒に居っても基本的には一人の時間。
ちょっとだけ余韻に浸って、ふっと息をついて、平次の存在を思い出して、いつもの二人に戻る。
今日もそのハズやったのに……。
エンドロールが流れ始めて何気なく隣を見たら、丁度アタシの方に振り向いた平次と目が合った。
映画は別にラブロマンスやなかったんやけど、二人とも何となく雰囲気に飲まれてたんやと思う。
極々自然に近づいて、気付いたらキスしてた。
……コーヒーの香りがする。
触れてたのはほんの僅かな時間やったのに、それだけははっきりとわかった。
『ファーストキスはレモン味』とか、よく聞くフレーズやけど、アタシのファーストキスは、平次の飲んでたコーヒーの香りやった。
……アタシ、暫くコーヒー飲めんかも……。
***************
keyword
「ファーストキスはレモン味とか言うけど、アタシのファーストキスはコーヒーの味だった」(和葉)
『キスにまつわる20の御題』(http://tw.skr.jp/kiss/)
|