(12)「これでよければ。」
平次の家には小さな離れがある。
小さい言うても、8畳の座敷が3つと手入れされた水回りがあって、ちょっとした家くらいはあるんやけど。
「いい天気やね」
離れの縁側に並んで座って、淡く霞む春の空を見上げる。
風はまだ冷たいけど、陽射しがぽかぽかと暖かい。
『花見しようや。明日昼までには帰るから、家に来とれ』
依頼で出掛けてる平次からそんなメールが来たんは、昨夜の事。
アタシに異論がある筈もなく、予定通り帰って来た平次と、離れでお花見する事にした。
本当は、どっか出掛けたかったんやけど………
そっと隣を窺ってみた。
のんびりと桜を見てる平次は、何となくキツそうに見える。
身体的にやなくて、精神的に。
他人には絶対に悟らせないそれに気付いても、アタシに出来る事なんて何もない。
ただ、邪魔にならんように傍に居るだけ。
「お茶、煎れ直そうか?」
「ん〜?それより、何や眠いわ」
「ブランケット持って来とるし、少し寝る?」
「せやなぁ……」
大きな欠伸をした平次が、座敷の方に移動して寝転んだ。
ガラス戸を閉めると、陽射しだけが入って結構あったかい。
それでも、そのまま寝たら冷えてまうから、ブランケットを広げた。
「一眠りしたら、スッキリするやろ?」
「……そんな疲れた顔しとるか、オレ?」
「ううん、ただ何となくキツそうやなぁと思って」
「………バレとるんならええわ。ちょお手ぇ貸せ」
「手?」
この手の事?と右手をひらひらさせたら、ぐいっと引っ張られた。
「暫く貸しとけ」
「うん」
平次は、大抵の事は自分の中で処理してしまうから、アタシに出来る事なんて殆どない。
時々、それが酷くもどかしい。
せやけど………
「こんなんで良かったら、いくらでも貸したるで?」
すっかり寝入ってしまった平次に小さく囁いて、瞼にそっとキスをした。
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「アタシは何も持ってない」(和葉)
『キスにまつわる20の御題』(http://tw.skr.jp/kiss/)
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