Chain176 歪んだ愛情・束縛したい欲望2
心は要らないという意地だけを持って君と再び関係を持ち始めた俺は、昔と違って確かに芽生えていた“愛情”を秘めながら君と関係を持っていた。
君の心は別の所にある……まるで心の無い人形を抱いているかのような錯覚に陥る俺だったが、確実に天罰は下ろうとしていた。
“ねぇ! 二人とも聖南学院に受かる実力はあるって!”
“ふ〜ん。そうなんですか?”
一緒に受けようと誘ってくれた大学受験……俺は、お祖父様の言いつけを守るという名目もあったが、それよりもこうして君から同じ大学を受験しようと誘ってくれた事にはまるで子供のように喜んでいた。
あんな事をした俺を君は許すのか……君の変わりない笑顔に、俺はまんまと騙されていたのだ。
そんな俺を待ち受けていた現実は、大学の入学式で居る筈の無いあの男の存在。俺の傍から離れてあの男の元へ走っていく君の姿に、俺は吐き気と意識を失うほどの衝撃を与えられた。
俺が……お祖父様の大切な君を汚したから……その罰が今こうして与えられたのだ。
“賢一!”
今でも恐ろしいくらい鮮やかに覚えているあの声……俺の横を走り去って行く君の姿を忘れられない。
君と一緒に過ごせると心弾ませていた俺は、それから地獄のような生活が待ち受けていた。憧れの人物と仕事が出来たり、自分の仕事が評価されたりといい事ばかり続いていた俺に降ってきたとも言える天罰……まさしく、それは俺を底という底に叩き落された気分だった。
しかし、それでも君との関係は続いていた。高月がいる事も知っているが、それでもこの手を離すと今度こそ君は二度と俺の元へ帰って来てくれないと思っていたから。惨めだと思っていても、それでも俺はしつこく君の手を掴んでいた。
そんな俺を襲ってきたのは、高月の所有印を刻んでいた君の姿……。そんな君に向かって俺は初めて罵声を浴びせた。
“帰れ! お前なんか、俺の前からさっさと消えてしまえ!”
“琉依!”
君に物を投げつけて追い出したあの日から、俺の中に潜む歪んだ感情はさらに増していき俺が大切にしていた仕事にまで影響が出るようになった。
“sEVeN”の後に行われた“K2”の撮影時に、俺は居る筈の無い君の幻影を目にして再び呼吸困難になっては倒れてしまった。大切な仕事で体調を崩して倒れるのはプロ失格……そうK2にも言われてしまい、さらにはそれ程君の存在が俺の中で大きくなっていると痛感した俺は、もう君の傍に居られないと思い始めるようになっていた。
“もし、このままあの子の傍に居たら俺は夏海を殺しそう……”
もう限界を迎えていた俺の心を理解したのか、兄貴は両親と相談した結果俺にロンドンへ行くよう勧めてきた。しばらく君から離れて異国の地で暮らす……初めて君から離れる事に躊躇いはあったものの、俺は君の為にとその勧めを承諾した。それから俺はロンドンへ行くまでの間、君と元の幼馴染みの関係を通していくと決意したのだ。
しかし、そんな俺の元にやがて舞い込んできたニュース。それは、君と高月の別れ話だった……。
“賢一とね……別れたんだ”
“……そう”
簡単な返事しか出来なかったが、本当はとても動揺していた。着々とロンドン行きを進めてきたのに、そんな時に舞い込んできた君が自由になったというニュース。それは、さらに俺を悩ませる事となったが、それでも俺は手にした退学届けを捨てる事は無かった。
“君も……そして俺も、自由になれる”
そう感じていた俺が目にしたもの……それは、かつて君が愛していた高月が別の女と一緒に歩いている姿。友人や身内といった雰囲気でなく、とても親しげな……恋人同士を思わせる姿に衝撃を受ける君の姿を見て俺は快感を胸に秘めていた。
君を傷つけたい……かつて抱いていた俺の思いが叶った時だった。しかし、それでも俺は君を愛していたんだ。傷つけたいという気持ちと同じくらい君を愛する……歪んだ俺の愛情は自分を見失うくらい闇へと落ちていった。
純粋な気持ちなど、とうに忘れてしまっていたんだ……