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Chain175 歪んだ愛情・束縛したい欲望


 今回のお話は、最終回に向けての琉依のこれまでの人生の回想を短くご紹介する内容です。






 ――夢を見ていた



 とてもとても長い夢を。君と初めて出会った五歳の時から今までに至る時までの、長い長い夢を見続けた。君と出会ったその時に罵った言葉……


 “ブスッ!”


 君と一緒に陽が暮れるまで遊んだお祖父様の家での思い出。子供ばかりだと思っていたのに、その中には必ず子供のようにはしゃぐお祖父様の姿も存在していたんだ。屋根から飛び降りては俺たちに向かって攻撃してきたお祖父様に、俺と君は負けじと攻撃していたんだ。


 “あのジジィを倒すぞ〜!”

 “あっ、お前またワシの事をジジィ呼ばわりしたな!?”


 服を汚すくらいはしゃいでいた俺の元に突然降ってきたモデルの話は、やがて君との間に深い溝を生み出していた。君と遊ぶ事よりも、俺はモデルとしての地位を築く事を幼いながらも選んでしまったのだ。


 “もう、俺に構わないで……”

 “ちょっと、琉……”


 君と距離を置き始めてまで選んだモデルの仕事は、今までの甘えた生活をすぐに忘れる程ハードなものでありそして俺に社会の厳しさを教えた。他人の考えや集中する視線に囲まれた生活……宇佐美響一という男の息子としての俺は、他人から媚を売られたり陰口を囁かれたりと人間関係の厳しさを痛感していた。


 “K2の息子だからといって、いい気になるなよ!”

 “お父様によろしく伝えておいてくれよ”


 世間の厳しさを痛感した俺が自分を少しでも癒そうと選んだのが、たった一夜の女性との関係“情事の一期一会”だった。自分に言い寄ってくる女性や、自分から声を掛けた女性と毎夜のように情事を繰り返していた。

 そんな俺に言い寄ってきたルール違反の女性を、君はいいタイミングで俺の部屋に入ってきては救ってくれた。それなのに、俺が君にした事は……


 “何するのよ!”

 “ファーストキスだけじゃなくて、セカンドキスも奪ったから怒ってるの?”


 その頃から出張等で家をあけていたご両親と会えない淋しさから時に泣き出す君を見たくなくて、俺は何度も君にキスをしていた。君の為じゃなく、俺自身の為に。泣き出す君から逃げたいと思っていた俺の為に……

 しかし、キスも嫌がっていた君はやがて俺と体を重ねる関係へと誘ってきた。毎夜のように女性の元へ繰り出す俺を心配して自ら体を捧げたあの時、正直俺は身近に便利なコマが出来たと笑っていたんだよ……。


 “その関係に必要なのは欲望を満たす体、そして不必要なのは……”

 “愛情に決まっているでしょ”


 己の快楽の為に奪った君の体……そんな俺に罰はすぐにやって来た。お祖父様の末期の病気の告知は、俺の心に一生消えないような衝撃を与えた。そして、君には知らせるなというお祖父様の最初で最期の強い命令は、今もなお守り続けられていた。

 そんな俺に、お祖父様は重い鎖を与える……


 “わしが死んだら……琉依、お前が夏海あのこを支えてやってくれないか”

 “解かったよ……守るよ”


 お祖父様の死後も、俺はその鎖に縛られたまま君と時を重ねていた。その約束を果たす為に選んだ君と同じ高校。やがて、高校そこは俺にとって波乱の舞台となる場所とも知らずに、鎖に縛られたような生活を送っていた。

 そんな時に出会ったのが、初めて俺が心から欲しいと思った女性ひと。モデルとしてのハードな生活に君との生活を癒してくれるような綾子サンとのひと時は、俺にとって心地よくずっと浸っていたいと感じていた。


 “キスして抱きしめて、ずっと傍に居たい。壊れてしまうくらい、貴女を抱きしめたいよ”

 “どうして……貴方が此処にいるの……”


 しかし、そんな幸せなひと時もそう長くは続かなかった。

 ちょっとした歪みから、俺と彼女の間に生まれ始めた溝はやがて修復し難いものへと発展し、俺は目の前で変わっていく彼女を支えていく事に限界を感じ始める。やがてそれは、俺の頭の中に“別れ”を浮かばせる事になった。


 “綾子サンの不安に気付けなくてごめんね……”

 “こんなにも傍に居るのに、何でこんなにも遠くなってしまったのかな……”


 あんな形で別れてしまった俺を理解して支えてくれたのが君だった。そんな君に、俺はやがて自分でも気付かない内に幼馴染み以上の想いを秘めるようになっていた。

 今まで傍に居すぎたせいで気付かなかったこの気持ち、しかしそんな俺の知らない所では君もまた別の方へと気持ちを動かしていた。

 それがアイツ……高月賢一という今でも忘れない存在だった。たった一度の劇の共演から想いを抱きあっていたというこの二人。この二人が付き合った事で、俺は皮肉にも自分の本当の気持ちに気付いたのだ。

 俺とは違う別の男の隣りで幸せそうに歩く君の姿を見て、俺の心の中にはやがて歪んだ愛情と束縛したい欲望が芽生える。それは、ただの秘めた感情ではなくやがて君を苦しめる行動へと出てしまった。


 “別に心はいらない……”


 でもね、それはただの意地でしか無かったんだ……



 こんにちは、山口維音です。この作品をここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。本編は前回のお話で大体終わりです。あとは、回想編が今回と次回の二話と最終回とエピローグでこの作品も完結を迎えます。

 初めてここまでの長編作品を展開してきましたが、それでもここまで読んで頂いた読者の皆様には本当に感謝しています。あとわずかですが、どうぞよろしくお願い致します。

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