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Chain174 時は流れる……



 ――日本に帰国して一ヶ月



 久しぶりのメンバーとの再会の後、俺を待ち受けていたのは“K/S”のオープニングセレモニーなどハードなスケジュールだった。

 オープニングセレモニーに参加する為にK2とヴァンが来日して、しばらくの滞在の間に俺はヴァンを観光案内したりK2と三人で打ち合わせをしたりと休暇らしい休暇も取れずに日々を過ごしていた。

 とても忙しい日々……しかし、それでも俺は辛いとも思わずその忙しさがどちらかと言うと遣り甲斐のある仕事が出来て嬉しいとさえ思っていた。


 そんな忙しい日々を過ごしていた俺だったが、今日は渉に一日オフを取っておくようにと言われていたのでこうして言われた通り尚弥の家に来ていたのだが……

 「紘佳ちゃんと会うのも久しぶりだね〜。元気していた?」

 「え、えぇ。宇佐美さんこそ、お変わりないようで……」

 「そんな、宇佐美さんだなんて他人みたいだよ。ルイでいいのに〜」

 君と訪れた尚弥の家で、俺は出迎えてくれた紘佳ちゃんを抱きしめては延々と話し続ける。君は既に梓とのやり取りで見慣れているのか、特に止める事無く尚弥と話していた。尚弥もまた、以前会った時は殴って止めていたのに呆れてしまったのか俺の暴走を放置している。

 「ん?」

 そんな俺の脚を掴む手に気が付いた俺は、足元へと視線を移すとそこにはミニサイズの尚弥そっくりの男の子がクリッとした大きな目を輝かせて立っていた。

 「おぉ! 猛じゃないか〜。おねむから起きたのですか?」

 「あ〜い」

 猛と同じ目線になるようしゃがむと、俺は両手で俺の頬を触ってくる猛の頭を撫でて問う。猛はそんな俺に声を上げると、そのまま抱っこをせがんで来たので俺は軽々と猛を抱き上げる。一気に高い所へ抱き上げられた猛はキャキャッと声を出しながら拍手をしている。

 しかし、まぁこの可愛い子の父親があの真面目一筋の尚弥の子供とは……正直、メンバーの中では一番結婚とは無縁だと思っていたのに一番最初に結婚するなんて……

 「しかも、出来ちゃった結婚ですよ〜? 君のパパはエッチですねぇ〜?」

 「あ〜い」

 「う、宇佐美! それに、猛まで……」

 俺の話す言葉の意味が解からないのにいい返事をした我が息子に嘆く尚弥。そんな尚弥の隣りでは苦笑いをする君と、恥ずかしいのか赤面になって君の後ろに立っている紘佳ちゃんが居た


 「お〜い! 来たぞ〜!」

 勝手に玄関を開けて中へと入って来た渉と蓮子。そして、渉の手には猛より一歳年下の冬馬が抱き上げられていた。そんな三人を見て、俺は猛の方を見る。

 「ほら、もう一人のエッチなパパが来ましたよ〜」

 「あ〜い!」

 渉を指してそう言うと、猛は笑顔になって答えていたので渉と蓮子は驚いてお互いの顔を見合っていた。そして、渉は慌てて冬馬を降ろすとこちらへやって来る。

 「お、お前ダメだぞ? 猛にそんな言葉を教えるのは……」

 「だって、本当の事だもんねぇ?」

 「あう」

 もはや気を失う寸前の尚弥の代わりに注意する渉に対して、俺は止める事無く猛と話をしていた。蓮子は驚きはしていたが、徐々に可笑しくなったのか笑い始めているし紘佳ちゃんも更に頬を紅潮させていた。

 そんな彼らに笑みを見せながら、俺は渉に降ろされていた冬馬の元に行くと猛を片腕で抱き上げてもう片腕で冬馬を抱き上げた。まだ話せない冬馬は、ただそんな俺の方を見ているだけだった。

 「ハイハイ。君たちのママの代わりに、今から一緒に遊びましょうね〜」

 これからパーティーの準備をする彼女たちに代わって、俺は子供たちの面倒を見る。そんな俺を心配してか、渉と尚弥も座ってきた。

 「別に父親あんた達まで来なくてもいいのに……」

 「お前一人にこいつ達を任せたら、何を吹き込まれるか解からないからな!」

 「渉に同感……」

 猛を高い高〜いと抱き上げながらあやしては話す俺に、渉はそう言うと尚弥も頷いていた。そんな心配しなくても、猛はおろか冬馬に至っては言葉すら理解できない歳なんだから……


 ――――――


 それからしばらくしてやって来た伊織と梓。この二人は先ほど役所に婚姻届を出してきたばかり……そう、とうとうこの二人も籍を入れたのだ。そして、俺達は二人を祝うため尚弥の家を借りてパーティーを開く事になったのだ。

 「おめでとう! 伊織、梓」

 子供たちが驚くだろうからとクラッカーは避けて拍手で二人の新しいスタートを祝う。そんな俺達の前で、梓は涙を見せながら笑みを浮かべて応えている。そして、伊織はと言うと……


 「アンタまで泣いてどうするの!」

 「だ、だってぇ〜。本当に嬉しいんですもの!」

 梓よりも大泣きする伊織は、蓮子に指摘されながらも更に涙を流してはハンカチで拭っている。これじゃあ、どっちが花嫁か解からなくなるよ。そんな伊織を置いて、俺は梓の手を握ると

 「梓ちゃん。まさか、そのお腹の中に子供は居ないだろうね?」

 「居ないよ〜! 伊織は、渉や尚弥とは違うよ〜」

 俺の問いに笑顔を見せながらもサラっと毒を吐いた梓に、渉と尚弥の表情が固まる。しばらく会わない間に、梓もこいつらの扱い方が上手くなったような……


 ――伊織と梓もとうとう入籍した。尚弥や渉も素敵な家族を持っているし、あとは俺たちだけだね……

 長い間続いてきた歪んだ愛情の果てに迎える結末は、きっと一番の幸せなものに違いない……何故だか強気になる事ができた。



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