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Chain173 これも○○の始まり




 ――俺と結婚してください


 そう告げた時、君の顔は更に紅潮しては溢れていた涙が流れる。無言で口に両手を当てる君だったが、僅かな時間が過ぎた後パッと両手を口から離す。


 「う、嘘だぁ!」

 「へっ!?」


 返事どころか、思わぬ言葉が君の口から零れた事が意外で思わず俺の口からは間抜けな声が漏れてしまった。

 いや、それよりも……嘘? 今まで君の前では滅多に見せなかった真面目な表情がいけなかったのか? こっちとしては結構緊張していたのだけど、君の一言で一気にその温度も下がる。

 「嘘って……どうしてそう思うのですか?」

 「だって、何か想像できないよ。琉依の口からそんな……プロポーズみたいな言葉が出てくるなんて」

 みたいじゃなくて、そうなの! 普段ふざけてばかりいた所為か、今の俺の言葉も“ドッキリ”と捉えているらしい。しかし、それでも俺は君に説得する。

 今まではふざけてばかりいた俺だけど、今回は正直に君への想いを打ち明けているんだ。嘘の欠片など無いよ。

 「夏海。俺は本気だよ」

 「ま、またそんな事言って! 冗談も……」

 「冗談なんかじゃないよ」

 涙を見せながら無理に笑う君の手を取り、俺は笑顔無しの真顔で君に訴える。そんな俺の表情を見て、君はようやくその口を閉じて俺の話を聞く。

 「ロンドンで夏海と再会してから、俺は今日のことをちゃんと考えてきた。いや……夏海と一緒になりたいという気持ちは、君に恋をして来た時からずっと抱いていた」

 君がまだ高月アイツと付き合っていた時もね……。俺の言葉を目をそらさずに聞いている君の頬は未だに紅潮したまま。


 「俺は、夏海が大切なんです。ずっと傍に居たいし、居て欲しいと思っている」

 「琉依……」

 嘘でも冗談でも無い、俺の本気の気持ちを君は一つ一つ自分の心に残している。この告白はまるで君を束縛したいと言っている様に捉えられるかもしれない……けれど、それでも俺は君とずっと一緒に居たいんだ。

 「共に笑ったり泣いたり……どんな時でも、俺の隣りに君が一緒に居て一緒に感情を見せ合いたい」

 今までだってそうしてきたんだ……これからもずっとずっと、お互いのいい所も嫌な所も見せ合おう。

 「一緒に? ずっと?」

 やっと開いた君の一言に、俺は頷く。そう、ずっと……君と俺ならきっと笑いの絶えない時が流れると思うけれどね。

 「そうだよ。皺くちゃのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんになってもね」

 「そんな時まで、アンタの顔を見ていかないといけないんだ?」

 それはキツイかも……そう言って苦笑いを見せる君。そうだね、今まででもかなり刺激的な時を過ごしてきたのに、これからも一生そうやって過ごすとなると一体どんな生活が待ち受けているのか。

 でも、俺にとってはそれも……


 「まぁ、それはそれで結構また刺激があっていいかもね」


 そう言って君は俺の方を見て笑う。流れていた涙はいつの間にか止まっていて、俺にずっと笑みを投げかける。そして、俺の両手をゆっくり握る。

 「私もずっと琉依と恋をしていきたいです」

 「夏海……」

 「これからは、幼馴染みじゃなくてお嫁さん……ううん、永遠の恋人にして下さい」

 永遠の恋人……“お嫁さん”よりもいい響きの言葉に、これじゃあどっちがプロポーズしているのか解からなくなってくるよ。でも、目の前で絶えず笑みを見せている君が本当に愛しいと思っているのは確かだ。

 「これから、ずっとずっと恋をしよう」

 結婚してもこれまでと変わらずお互いに恋をする……終わりではなく、これも恋の始まり。まるで、初恋の時のように君に想いを寄せるよ。

 あの五歳の頃と変わらない想いを、君に抱く事を誓うよ。


 そんな想いを秘めて、俺は目の前の君とキスを交わす。永遠の誓いの証に、お互いが一番大切にしている場所でキスを交わした。


 そして、しばらくのキスの後ゆっくりと君から離れた俺は小さく咳をすると

 「と、言うわけだ! お前たちも聞いたか!」

 そう大きく叫んではリビングの入り口の方を振り返る。驚く君が俺に続いて振り返った時、入り口から覗かせたのは……


 「すいませ〜ん。まさか、プロポーズするとは思わなかったから……」

 「そうよ〜。ただの再会の喜びを分かち合うだけかと思ったから」

 「すいません」


 渉と伊織、そして尚弥が次々とこちらへやって来る。その後には、蓮子と梓の姿もあった。ゾロゾロとやって来る仲間の姿に、君は絶句して立ち尽くしていた。

 「って言うか、琉依。なんで俺たちが居る事が解かったの?」

 「さっきから渉がツンツンヘアを覗かしていたら、そりゃ嫌でも気づきますよ」

 あっ……そう言って自分の髪を触る渉を叩く伊織と、やれやれとため息をつく尚弥。相変わらずのメンバーを前にして、俺は懐かしさもこみ上げ溢れてくる“何か”を必死に堪えていた。

 「皆、アンタの帰りを待っていたのよ」

 伊織の言葉に、俺は目の前に居るメンバー一人一人見る。だいぶ大人にはなっているが、別れたあの日と変わらない優しい表情。そんな彼らに何だか照れくさい気分ながらも、俺は一歩近付く。


 「ただいま……」



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