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Chain169 君と別れてから



 俺が託した“大切なもの”を持って、君はロンドンを去った……


 そして、それから一ヵ月後。俺は君との別れを悲しむ事無く、いつも通り仕事に励んでいた。モデルとしても、“K2”スタッフとしても……俺は絶えず笑みを見せながら来る時を楽しみにしつつ働いていた。


 『ハッピーバースデー! ルイ!』


 パーンというクラッカー音とともに、俺を迎えるモデル仲間に“K2”スタッフ。

 『えっ? あぁ、今日は俺の誕生日か!』

 用事があるからと母さんに呼ばれて両親の家に行った俺は、そんな彼らにキョトンとしながら傍にあるカレンダーを見て今日が自分の誕生日である事を思い出す。そんな俺を、彼らは俺らしいと笑いながら揃ってテラスへと行く。

 『ルイ。お前、自分の誕生日も忘れるくらい仕事頑張っていたんだね〜』

 『って言うか、俺はもともと自分の誕生日も覚えていないのよねぇ』

 からかってくるリカルドに冷静に答える。そう、昔から俺は自分の誕生日を覚えていなくて他人から言われるまで気付かないくらいだった。学生の頃、まだただの幼馴染みだった君もそんな俺の誕生日を覚えてくれては毎年俺の家で祝ってくれてたっけ。

 『ルイ、グラスを持って』

 『うん……って、ヴァン!?』

 グラスを差し出してきた人物の顔を見て、俺は驚いてその場で固まってしまった。だって、その人物は玄関には現れなかったヴァンだったから……。そんな固まった俺を、周囲の仲間達は笑って眺めている。

 『えっ? どうして、ヴァンがここに?』

 『うん。先月、K2と一緒に君を騙したお詫びも兼ねてパリからお祝いに来ちゃった』

 来ちゃったって……そんな簡単に多忙な筈のスケジュールの合間に来てくれたのか? しかも、既に終わった事を気にしてくれていたなんて。

 『ヴァン。あれは結果的には良かったのだから、別に気にしなくてもいいのに……』

 『でもねぇ。俺は本当は人を騙すのが嫌いだからねぇ』

 そう言うリカルドに、いつの間にかヴァンの隣りに来たK2が笑っている。

 『そう言いながらも、結構乗り気だったじゃん』

 『うん、まぁ……カップルの為ならねぇ』

 K2にからかわれながら子供のように笑うヴァンに、俺も自然と笑みが零れる。そんなヴァンを始め、此処には俺の誕生日を祝う為にベルやモデル仲間もたくさん集まってくれた。


 「琉依! FAX来ているわよ〜」

 パタパタ走ってきた母さんの手には、異常なほど多いFAX用紙が抱えられていた。そんな母さんの姿ごと驚く人たち。しかし、俺の誕生日にはFAXはつきものだった。

 日本にいた頃も、ロンドンに居た両親から送られてくるFAX。アメリカにいた君の両親からも毎年送られてきた。

 しかし、今回は何故にこんなにも……そう疑問を抱きながら母さんの手からFAX用紙を受け取る。そして、差出人を確認すると


 「あっ……」


 大量のFAXの差出人は、日本に居る暁生さんや真琴さん。兄貴に君からのメッセージ、それだけでなく懐かしいメンバーからも来ていた。

 梓に伊織、渉に蓮子まで……未だまともな連絡を取った事が無い彼らからのメッセージにしばらく俺は立ち尽くして読んでいた。中でも、ついこの間再会したばかりの君からのFAXが一番長かった。そんな君からのメッセージを、俺は一文字一文字愛しい気持ちで読んでいく。

 メンバーからのFAXには、それぞれの近況を少し記しては俺へのお祝いのメッセージへと続く。もちろん、その中には尚弥からのメッセージもあった。

 尚弥とは、今年の初めに再会してからもメールでお互い連絡は取り合っていた。たまに画像で見せる猛と一緒に写る尚弥の顔は、学生の頃の面影も残しつつ確実に“父親”のものへと変化していた。

 『凄いね〜。それ、全て日本あっちの友人からだろ?』

 『ああ』

 リカルドの問いに、俺はそっけなく答える。想像以上の自分を祝ってくれる人々の多さに、今の俺は驚きを隠せずそんな返事しか出来なかったのだ。

 『さぁ、主役は早くこっちに来て! 乾杯をしなくちゃ!』

 『あ、ああ! 今行くよ!』

 テラスから聞こえてくるK2の呼びかけに、俺は手にしていたFAX用紙をテーブルに置いて彼らが待つテラスへと向かった。


 ―――――


 『お〜い、ルイ! 早く降りて来〜い』

 『ハイハイ! ちょっと待っててね〜』


 太陽が綺麗に見えていた時間から、いつの間にか真っ暗になっていた今でも彼らは誰一人帰る事無く場所をテラスから屋内のバーカウンターで飲んでいた。そんな中、一人二階へと上がった俺を階下から酔っているリカルドが呼んでくる。

 そんなリカルドに適当に返事をしながら俺は携帯を耳に当てていた。

 “もしもし?”

 「久しぶり。元気?」

 電話の向こうから聞こえてきた君の声に、俺は思わず笑みを浮かべながら第一声を漏らす。しかし、そんな俺の気持ちとは反対にやがて君は無言になってしまう。

 「夏海?」

 “今……何時だと思ってるのよ……”

 「えっ? あっ……」

 思わず俺は時計を見上げる。示す時間は午後八時……日本だと午前五時……。酒も入っていて浮かれていた俺は、日本むこうとの時差も考えずに電話をしてしまった。


 「お、おはよう〜。目覚めはいかが?」

 “……おかげさまで。そちらは結構早くから飲んでいるみたいですね”

 仕方なく起きたのか、電話の向こうからはベッドから移動する音が聞こえてきた。そんな君に俺は申し訳なく思ったのも僅かな間で、すぐに普段通りの接し方に戻る。

 「FAXありがとう。ちゃんと全員分、届きましたよ」

 “結構たくさんあったでしょう? それくらい、アンタは人気者だって事ですよ”

 フフと笑いながら話す君に、俺もまた笑って答える。それから俺は三十分ほど君と会話を楽しんだ。眠たいのを我慢して俺に付き合ってくれた君との会話は、もらってFAXよりも最高のプレゼントとなった。

 会話の内容? 特に大した事では無い……普段と同じ日常的な会話だった。しかし、今日が自分の誕生日という所為かそれは特別なものに感じた。ロンドンと日本という超遠距離ながらも、こうして俺達は一緒に誕生日を過ごした。


 しかし、来年の俺の誕生日には……日本むこうで一緒に過ごせているに違いない。



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