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Chain168 再び訪れた別れの時




 君がロンドンへ来て四日後……


 俺と君はあの時と同じように、再び空港で別れの時を迎えていた。あの日と違うのは、ここが日本ではなくロンドンだという事。

 今度は君が俺の元から異国の地へ発つのだ。そんな俺たちを気遣っての事か、両親もリカルドもこの場所には現れなかった。


 “二人で別れの時まで過ごしなさい”


 ぎゃーぎゃーうるさいK2とリカルドの代わりにそう告げてくれた母さん。そんな母さんの気持ちを有難く受け取って、こうして俺たち二人だけでヒースロー国際空港までやって来た。

 車中、沈黙が一時も無いくらい俺たちはたくさん話をした。俺が尚弥と連絡を取り合っていた事など知らない君だから、尚弥が結婚した事や渉と蓮子が結婚した事。尚弥に至っては子供がいる事など……君は自分の事のように嬉しそうに話してくれた。

 そして、俺はというと……


 「数ヶ月前、俺は“K2”の一員として日本に帰国していました」

 「えぇ〜っ!」


 隠し事は嫌いだし、今はこうして君と再会できたから話してもいいかと思ってのことだが、予想通り驚く君はその頃の事を思い返していた。

 「そうだ! その頃、確かナオトが急にハワイに行こうって言ったのよ!」

 「うん。それは日本に来てから聞いたよ」

 K2が前もって兄貴に相談していて君をハワイに連れて行ったという肝心な事を俺に隠していたから、俺は無駄な心配をしたとしばらくK2と口も利かなかったっけ。そんな俺の仕打ちに、K2は子供のように嘆いていた。

 「そうよ。いつも店の経営で忙しい筈のナオトが急に誘ってきたからおかしいとは思っていたのよ」

 でもまぁ、ハワイでは思いきり楽しんだけど……そう呟きながら君は少し笑みを見せていた。

 「でも……そっか。琉依、日本に来てたんだね」

 そう言う君の表情が何だか寂しそうだった。こうして一人で帰国する事を承諾してはいるが、やはり本音は辛いのだろう。五年も離れていたのだ……たった四日一緒にいて、再び離れてしまうのは俺も辛い。

 だが、今すぐ一緒になっていつか後悔するのは目に見えている……だから、俺たちはあえて再び離れる事を選んだのだ。


 大丈夫……俺達はすぐにまた会える……


 ヒースロー国際空港のロビーで、俺達は時間の許せる限り食事をしたりたくさん話をした。以前この場所に二人で来た時、俺は君に怒られたっけ……なんて過去を振り返っては笑いあう。空港内にある店では、まだ買い足りないのか雑貨や菓子などを買い込んでは俺の両手への負担を増やす。そんな君に困惑の表情を見せる事無く、俺は無邪気に笑う君に見惚れていた。

 そして、徐々に近付いてくる別れの時……手続きを済ませた君は、椅子に座ってその時を待っていた。

 二人でこうして時を待つ……五年前の成田空港での光景が今こうして蘇る。


 「手紙、書くから……」

 「うん。俺も書くよ」

 「で、電話掛けてもいい?」

 「いいよ。俺も掛けるから」


 五年前と同じ君と俺のやり取り。ただ違うのは、君の言葉への俺の返事。あの時は全ての連絡を一切許さなかったけれど、今は違う……もう俺たちの間を阻むものは何も無いからね。出来る限り君とは連絡を取りたいと思ってる。

 顔が見れない分、お互いの成長をメールや手紙……電話で時間を気にせず語り合いたいね。

 あの頃とはもう違う俺たちなのだから、これからはもっともっとお互いを知り合おう。ロンドンと日本という超遠距離だけど、そんな不安を抱える暇も無いくらい俺達なりの恋愛を始めましょう。


 「それじゃあ。私、そろそろ行くね」

 そう言って立ち上がる君のあとに立ち上がる俺。そして、ぎりぎりまで一緒に付いて行く俺は、バッグから包みを取り出して立ち止まる。

 「夏海!」

 ふと離れた所から聞こえた俺の声に振り返る君。すぐ後ろに居ると思っていた俺の姿が離れた所に居る事に首を傾げながら、君は再びこちらへやって来た。

 「どうしたの?」

 立ち止まったままの俺に、君は笑いながら様子を窺ってくる。そんな君の右腕を取り、俺の前に軽く持ち上げては持っていた包みを君の手に乗せる。手のひらサイズの大きさの包みは、淡いブルーの袋というシンプルなもの。そんな包みを見て君は笑いながら

 「プレゼント?」

 そう尋ねるが、俺は笑みを浮かべて無言のまま首を横に振る。

 「残念。でもね、それはとても大事なものだから俺が帰るまで日本むこうで預かってくれないかな?」

 「大事なもの?」

 そう、大事なもの。そう念を押しては再び笑みを見せる。


 「決して開けてはいけないよ。開けたら、もう無駄になるからね」

 「開けないよ。そうね、どこかにでも隠しているわ」

 それは、いいね……昔のように二人で探したりするのも楽しいかも。そんな事を言いながら、俺はその包みを君に託した。

 「それじゃあ、またね」

 「ああ。皆にもよろしく」

 なんて、あっさりした別れ。五年前とまるで同じだ。けれど、あの時と違って今の俺には何の不安も無かった。

 今はあえて離れる……けれど、再会はすぐにやって来るのだから。


 だから、別れ際の涙もキスも必要ない。そんなモノは……必要ない。



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