Chain165 晴れ渡る日の来訪者
「ルイ〜! あっさですよ〜!」
昨夜、甘い時になるはずだったのが最悪な夜となり、あおるように酒を飲んでしまったので目覚めも最悪……
そんな俺がまだ完全に目が覚めていない所へ、逆に朝から元気なK2の大声が部屋と俺の頭の中で響き渡る。そして、K2は俺の反応を気にする事無くベッドで横になっていた俺の布団を思い切り取り上げた。
「さむ……」
「そりゃ、寒いですよ! 上半身何も着てないんだから!」
突然感じた冷気に震えている俺にそう告げるK2は、持っていたガウンを俺に渡す。そして、それを受け取ると軽く羽織ってはK2と一緒に下に降りて顔を洗う。
「ルイ〜! 今日の朝ごはんはねぇ……」
「昨夜飲みすぎたから、あまりいらないんだけどなぁ……」
そう呟きながらタオルを片手にテラスへ行くと、母さんが小さな土鍋を持って待っている。
「おはよう。昨夜は飲みすぎていて胃も荒れているだろうから、タマゴ粥にしてみたわ」
「……ありがと」
さりげない気遣いに、俺の口からでる素直な言葉。そして、俺は久しぶりに親子で朝食を摂った。快晴で心地よい風が吹く中、テラスにあるテーブルで色々な会話をしては笑みも絶えないひと時に俺もまた自然と笑顔になっていた。
「K2、今日仕事は?」
「今日はねぇ、お休みなんですよ〜」
ホント朝とは思えないくらいテンションの高いK2は、朝食にしては夕食並みの量をどんどん食べていく。いつかの雑誌のインタビューで、元気の秘訣は多めの朝食と答えていたが……これは酷すぎるだろ?
タマゴ粥とミニサラダの俺やハムエッグとトーストの母さんに比べて、K2の朝食はと言うと……
軽く四〜五人前はあるかと思う海鮮サラダに、和風ハンバーグ……それを軽く平らげていくK2の胃は一体どうなっているのか。見ているこっちも何だか胃が余計荒れそうな気がする。
「琉依。貴方も今日はオフなのでしょう?」
「えぇ。今日もオフなんですよね……」
そう言っては冷たい視線をK2へと送る。そんな俺の視線を感じたのか、K2は少々焦った表情を浮かべながらも決してこちらを見ようとはしなかった。
まったく……もし、ヴァンとのバカンスが嘘ではなかったら俺は今頃彼と一緒にロンドンの街を歩いていたのに……。今となっては、本当にありがたいのか余計なものだったのか解からなくなってくる。しかし、今の俺はただそんな嘘を思いついたK2を睨むしか出来なかった。
〜♪
「あらあら、こんな早くから誰かしら?」
遠くから聞こえてきた電話音に、そう言いながら席を立っては家の中へと戻っていく母さん。こんな朝から……と言っても、此処はK2の家だから仕事関係の電話が掛かってきてもおかしくは無いのですが。
内容までは聞こえないが話し込んでいる所を見ると母さんへの電話だったのだろう……俺は特に気にもせず再びタマゴ粥を口にする。そして、それから新聞に目を通していると母さんが戻ってきては何も無かったかのようにトーストを頬張りはじめた。
「友達から?」
「えぇ。何かお土産があるからって、今からこちらに来てくれるそうなのよ」
ふ〜ん……そう言いながら俺は再び新聞へと集中する。新聞に目を通している時、俺はその電話が君ではなかった事に少し気を落としていた。
もしかしたら君が歩み寄ってきてくれたのでは……そう思っていたが、どうやら今回は君もそれなりに意地を通しているのか未だに連絡が無かった。
―――――
〜♪
「琉依〜! ごめん。今、手が放せないから出て頂戴!」
キッチンから聞こえてきた母さんの声に、俺はハイハイと小声で言いながら玄関の扉を開ける。しかし、そんな俺の前に現れたのは母さんの友人ではなくて
『リカルド?』
『お・は・よん! お元気かな?』
そう言って明るく手を振るリカルドに対して、俺は一体何が起きているのか解からないまま立ち尽くしていた。しかし、この家はリカルドもよく寝泊りしているからこうして訪れるのもおかしくは無いのだが……
『お、お前。夏海の相手をしてくれって言っただろ? まさか、置いてきたのか?』
『い〜や。だから、連れてきたんだよ』
『えっ?』
リカルドの言葉に驚いていた俺の前に、リカルドの後ろから君が現れる。どこか暗い表情は反省の意を示しているのか……上目遣いでこちらを見る君に、俺はただ黙って見つめていた。お互い何も言わない俺たちを見て、リカルドが俺の方へやって来ると
『ナツミの話でも、聞いてやって下さいよ』
小声でそう告げると、リカルドはそのまま家の中へと入ってはリビングにいるK2の元へ消えていった。そんな結果、玄関に残された俺と君。一気に静まり返るこの場に、俺はフ〜ッとため息をつくと
「俺の部屋で話しましょうか」
それだけ言っては、君の背に手を添えて家の中に入れる。そして、無言のまま俺達は二階の自分の部屋へと上がっていった。