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Chain159 久しぶりの再会に、言葉は要らない


 慌てて開けた扉の向こうには……君がいた




 扉を開けた時……俺の中で時間は止まっていた。

 大切な書類を持って目の前に立っていたのは、リカルドの仕事先のスタッフではなくて……日本に居る筈の君だった。


 “そんなに大切なのかな? そうね……私よりも?”


 そう告げてからはずっと笑みを浮かべて立っている君。そんな君に対して俺はただ名前だけを告げただけで、未だに自分の身に何が起きているのかを把握できていなかった。

 ずっと会いたかった君……君と離れて五年の間ずっと心待ちにしていた筈なのに、いざこうして実際に君が現れると俺はどうしたらいいのか解からなかった。

 しかし、実際に君はこうして俺の前に現れているのだ。魅力を備えて、こうして俺を訪ねてきてくれた……。

 「琉依?」

 「あっ……やべ」


 バンッ!


 「琉依!?」

 君が声を掛けてきた途端、俺は思わず扉を閉めてしまった。ドンドンという扉を叩く音と共に聞こえてくる俺を呼ぶ君の声。だが、俺はこの扉を開けるわけにはいかなかった。何故なら……

 「泣いてるの〜?」

 「泣いてませんよ!」

 少し潤んだだけ! こんな思わぬサプライズに、平然といられる奴が居たら教えて欲しいよ。心がまだ現実に追いついていないものだから、まだちゃんと君の前に顔を見せられないだけだから。

 「琉依……開けて?」

 「……」


 ガチャ……


 君の呼びかけに、俺は無言でゆっくりとドアを開ける。しかし、そんな俺の前に再び現れた君の表情は……

 「何で、閉めるのよ!」

 怒ってた。だって、こっちの身にもなってよ? リカルドからはスタッフが来るって聞いていたのだから。それがこんなサプライズが飛んでくるなんて。

 でも、いざこうして君が実際に居る事を実感すると……

 「ねぇ! 何で……」

 それ以上は言わせない……未だに怒って問い詰めようとする君を、俺はただ抱きしめる。優しくじゃない、五年分の気持ちを込めてとても強く抱きしめた。

 言葉は要らない……こうしてお互いの温もりを伝え合うだけで、俺は君の気持ちが伝わるし君にも俺の気持ちを届ける。だから、しばらくはこうさせて? 五年ぶりの君の温もりなのだから、もっともっと俺に頂戴?

 「琉依……」

 「黙って」

 苦しいのか、それとも他に何かを言いたいのか……俺の名を呼ぶ君だが、それすらも俺は許さなかった。何も言わずに、しばらくはこうしていようよ。

 会いたかった……本当に会いたかった。そんな気持ちを込めながらさらに強く抱きしめた時、君の腕から震えが伝わってくる。泣いてるのか……しかし、君の俺を抱きしめる腕の力も一層増していた。

 「泣いてるの?」

 「……うるさい。黙ってるんじゃなかったの?」

 「そうだったね」

 さっきは君が尋ねた質問を今度は俺が問うと、図星だったのか君は強がりを言っては更に俺に強くしがみ付く。

 外見や雰囲気はとても大人になっていたのに、そんな所はホント相変わらずだね。でも、本当は俺も君と同じように涙を流して喜びたい気持ちでいっぱいなんだよ。それをあえてしないのは……やっぱり君の前では弱い所を見せたくないという意地があるからだね。

 「夏海……会いたかった」

 「――っつ」

 ふと囁いた俺のたった一言の気持ちに、君は堪えていた泣き声をもらし始める。俺も……君には見せないよう一粒だけ涙を零した。


 ――――


 〜♪


 しばらくしてから家の中に入った俺達の元に聞こえてきた電話の着信音。もしかして……そう思いながら、俺は君と手を繋いだまま廊下にある電話まで進んだ。

 『リカルドだね』

 『あら! ばれちゃった?』

 リカルドの明るい声に、俺はフ〜ッとため息をつきながら口を開く。

 『君は、こうなる事を……夏海がロンドンにいる事を知っててあの書類を持って行ったのだね?』

 『えへへ、そうです〜』

 そうです〜って、またコイツは何の悪びれる事無く言うのだから。どちらにせよ、この書類は明日に控えたヴァンとのバカンスに必要な大切な……

 「まさか……」

 ふと頭を過ぎったのは、有り得ない事だった。いや、いくら何でもこれは違うだろ? そう考えながら、受話器の向こうで俺を呼ぶリカルドに声を掛ける。

 『リカルド……もしかしてだよ、もしかしてこのバカンスの話も……』

 「うん。それも私の為にK2がついた嘘だよ」

 「えっ!?」

 リカルドに尋ねた質問だが、そんなリカルドの代わりに隣にいた君が答える。って言うか、嘘だって?

 『リカルド! それは本当なのか?』

 『本当だよ。ちなみにヴァンもちょっと協力をしてくれました』

 ヴァン……も? そんな嘘をつくなら別にヴァンじゃなくても、その辺の人でも良かったんじゃ……。あぁ、ヴァンだからこそ俺が信じて疑わないと確信していたんだな。

 スケールの大きい今回のサプライズに、俺は受話器を持ったまま唖然として立ち尽くしていた。そんな彼らの嘘を完全に信じきって色々な手配をした俺は一体……


 『ルイ〜! もしも〜し!』


 受話器の向こうから必死に呼びかけるリカルドの声も、今はただ虚しいものだった。


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