Chain157 日本からの新たなサプライズ
今まで迷惑を掛けてきたのだ……今度は、俺が皆を支える番……
『ルイ〜! また君に手紙が来ているよ〜』
オフである今日の昼過ぎ、来月にヴァンとの夏休みをどう過ごそうかと考えていた俺の元に束になった郵便物から一枚のカードを引き抜いて俺に差し出す。
『手紙? 一体誰から……』
それを受け取った時に見えた“JAPAN”の文字……それが見えた途端、俺の口から言葉が止まってしまった。つい敏感になってしまうその文字に、俺はただそのポストカードを手にしたままだった。そんな時、なかなか目を通さない俺の手からリカルドが奪うようにポストカードを取る。
『あっ、リカルド!』
『どれどれ〜』
俺の制止の言葉も聞かずにそれを見るリカルドだったが、ふと目を大きく開かせては俺にそれを見せてくる。
『ルイ〜! アンタの友達って、立て続けにおめでたいニュースを運んでくるね』
『えっ?』
去年の尚弥に続いてのめでたいニュース? 見せられたポストカードに写る写真を見ると、そこに写っていたのは……
「渉に蓮子? それと……」
俺が知っている時よりも更に大人びた二人の間に写っている赤ん坊。しかし、その子を宝物を扱うよう大切に抱いている渉を見て、この子はもしかして……
そう思いながら文面を見ると、他の文よりも大きく書かれた“結婚しました”の文字。そうか……渉もとうとうオトコを見せたか。俺が日本にいた時から渉の蓮子への気持ちは気付いていたからなぁ。けれど、蓮子は当時別の方に気持ちがあったからなぁ……俺の方へ。
けれど、自分を心から大切にしてくれる存在に気付いた蓮子。
「そうか……幸せになったんだな」
笑みを浮かべながら呟いた正直な気持ち。しかし、すぐにさっきの赤ん坊の事を思い出しては、手紙の続きに目を通す。すると、そこに書かれていたのは……
“それと、子供が生まれました。名前は『冬馬』と言います”
「子供ぉっ!?」
思わず叫んでしまった俺に、傍に居たリカルドは驚いてこちらを振り返る。そんなリカルドを無視して、俺はただそのサプライズを目を大きく開いて絶句するだけだった。
しかし、尚弥に続いて結婚に子供誕生とは……ってあれ? こいつ達が結婚したのは尚弥の後でしょ? それなのに、子供が生まれたのがこの夏ってことは……
「渉達もすけべ野郎じゃん!」
どうして俺の親友たちは、こうも“できちゃった結婚”が好きなのかなぁ。俺が居る時は自分以外のメンバーは、とても真面目な奴らだったのに……。尚弥に渉……俺が居ない間に本性を見せやがって!
『これ、何て書いてるの?』
日本語で書かれている文面の意味を、隣にやって来たリカルドが尋ねてくる。そんなリカルドに俺は振り返ると
『俺は大切な人を結婚前に子供を孕ませた悪い奴ですって書いてるの』
『はぁ……ナオヤといい彼といい、さすがルイの親友だね』
何で俺が!? うんうんと一人で納得しているリカルドに、俺は睨みながらそう訴える。しかし、長年の付き合いのリカルドにそう言われると俺も内心では“そうかも”って思い始める。
尚弥と渉がパパで、蓮子がママかぁ……。どうか梓だけはこの三人のように“できる”前の結婚をして欲しいな。オカマとはいい、伊織もオトコだ。いつ、本性を表すか解からないからな。
「やっぱり、あいつらが結婚する前にもう一度日本へ……」
梓の事を考えて出た言葉だったが、俺はやはりそれよりも君の事が気になって仕方が無かった。メンバー四人の近況は解かっていたが、君の事は知る事が出来ない……
五年の時の長さは、徐々に俺の忍耐力を緩くさせる。約束も薄れつつある……会いたいって気持ちが強くなってくる。
自分の我が侭が現実となる日はいつなのか……約束が無効となる時がくるのを、俺は心待ちにしている。
〜♪
『あっ、俺出てくるよ』
家の電話音が鳴り響いている中、リカルドが立ち上がって電話の方へ走って行った。そして何やら一言二言話しているのが聞こえたが、しばらくしてこちらへ足音が近付くと
『ルイ! ナオトから電話ですよ〜』
『兄貴?』
思いがけない相手からの連絡に、俺は驚きながらも持っていたポストカードをテーブルに置いて電話の方へと進む。
「もしもし」
“琉依か? 久しぶりだな”
受話器の向こうから聞こえてくる兄貴の声に、俺は懐かしい気持ちが蘇ってくる。
「久しぶり。この間は、ありがとうね」
“どういたしまして。困った時は助けるのが家族ってものでしょ”
それから両親の話をしたりお祖父様の家の事を聞いたりと、少し懐かしい兄弟の会話をしたのだがしばらくしてから兄貴が本題を切り出してきた。
“お前、今度ヴァンと夏休みを過ごすんだってな”
「K2から聞いたの? そうだけど、どれがどうかしたの?」
ヴァンと兄貴は面識が無い。だから、今回の話に兄貴が入ってくるのはちょっと変だと思っていた時に、兄貴は話を続ける。
“あぁ。K2から頼まれたんだけど、何でもヴァンが日本茶とお菓子が欲しいという事でそれらをお前のアパートに送るから”
「日本茶とお菓子?」
リカルドにベル……今度はヴァンまでも、日本の物が好きだなんて。俺の周りの外国人はどうしてこうも日本びいきなのか。
「うん、解かった。待ってるよ」
そう言って電話を切った俺の元へ、リビングからリカルドがやって来る。
『ナオト、何だって?』
『うん。ヴァンにプレゼントを送るって話』
そう言ってから、俺は再びリビングへ戻ってソファに座ってテーブルの上に置いていたポストカードを手に取る。
ヴァンとの夏休みはとても楽しみにしていたのに、このポストカードと兄貴からの連絡で別の何かが頭の中から離れなかった。