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Chain156 サプライズの前触れ


 ロンドンへやって来て5年目……

 時は夏を迎えたよ……





 『あら? ねぇ、K2』

 『何だ〜い』


 “K2”ロンドン支社での一室でスケジュール表を見ていた俺は、自分のスケジュールを全て目を通した後K2を呼ぶ。そんな俺に対して、新たなデザインをスケッチブックに描きながら返事だけを返すK2。

 『ねぇ、来月の俺のスケジュールって……いやに少なくないか?』

 七月も中ごろに入り俺は来月のスケジュールを見るが、どうも今までと比べるとかなり仕事の量が少ないような……。モデルの仕事はまぁまぁ入っているが、スタッフとしての仕事が恐ろしいくらい減っている。

 『まさか……俺、クビになったの?』

 思わずそう思ってしまう位、明らかに俺だけ仕事の量が減っていた。隣に記されているリカルドのスケジュールは真っ黒なのに、俺の方はまだまだ書き込めるくらい余裕があった。

 『あっ! ホントだ〜。ルイの来月のスケジュール、ガラガラじゃん!』

 そんな俺に追い討ちを掛けるかのように、部屋に入ってきたリカルドが俺の隣に来てはそう叫ぶ。期待していなかったが、リカルドのデリカシーの無さに俺は無言でリカルドを睨む。


 『違うんだよ、琉依。君には別の仕事があるんだ』

 『別の仕事?』

 K2の言葉に、俺ではなくリカルドが答える。そんなK2の元へ同時に行く俺とリカルド。何でコイツが……そう思いながらも、俺はK2の口から出る言葉を待っていた。すると、ある程度デッサンを書き終えたK2は、スケッチブックを閉じてこちらを振り返る。

 『琉依にはね、イタリアから来る友人のお相手をして欲しいんだ』

 イタリアからの友人? 一体誰なのか……そう思っていた時だった。


 『あ〜っ!』


 部屋中を響かせるリカルドの叫び声に、思わず俺もK2も耳を塞いでいた。そんな俺たちに構う事無く、リカルドはバンッとデスクを叩くとK2に近付く。

 『そのイタリアの友人って、もしかして……カルロス=ヴァンじゃないの?』

 あぁ! なるほどね。確かに彼はイタリア在住のK2の友人だし、俺の知人でもあるわ。そう納得しながらK2の方を見ると、K2も笑顔で頷く。

 『そうだよ〜。ヴァンがね、休暇をロンドンで過ごしたいからって君に案内役を依頼してきたんだよ』

 『なんで〜!』

 ニコニコと笑顔を浮かべながらそう言うK2に、一人納得していないリカルドがギャンギャン叫びながら部屋中を走り回っていた。

 『それで……俺に一ヶ月も休暇を?』

 『そうだよ〜。でもまぁ、急用が出来てしまったらその時は来て貰うけど』

 いや、それくらい大丈夫だよ! しかし、あのヴァンと一緒に一ヶ月も過ごせるなんて……その間、彼をロンドンの街を案内するほかに何をしてやろう。そう思いながら既に俺の心は来月に向けて舞い上がっていた。

 休暇だけど、少しくらいなら彼から何かを学んでもいいかな……そんな期待感を膨らませる俺だが、一方では物凄く叫びながら暴れているリカルドがいる。そんなリカルドに構ってやる事も無く、俺は子供ガキのように浮かれていた。



 『おや……』

 そんな浮かれ気味な面も徐々に収まってきた頃、デスクに落ち着いた俺のパソコンにはメール受信のサインが表示されていた。メールボックスを開くと、そのメールは久しぶりの尚弥からだった。


 “元気ですか? こちらでは夏休みが間もなく始まりますが、俺も仕事を一休みして初めての家族旅行へ行きます。場所はロンドンへ行こうと思ったけれど、宇佐美やリックにからかわれるのも嫌なので別の場所にしました……”


 など、浅井家の近況や兄貴の事などを長々と記されていた。尚弥曰く、どうやら兄貴はこれまで毎月欠かす事無くお祖父様の別宅の管理をしてくれていたらしい。誰も住む事が無いので、痛まないようちゃんと掃除もしては俺が知っている通りの綺麗な家にしてくれているそうだ。口約束だけではあったが、兄貴がそこまでしてくれていた事に俺は一刻も早く兄貴に会って礼を言いたい。その他にも、兄貴は俺が安心して日本でショーを行えるよう君を連れて海外へ行ってくれたから……

 「そういえば……兄貴はまだ浮いた話の一つもないのかなぁ」

 未だ開いたままの尚弥からのメールを見ながら、自然と俺の口から出た兄貴を心配する言葉。女性遊びが激しかった俺とは違って、とても真面目な兄貴だからきっとモテる筈なんだけど……。やはり、こんな手のかかる弟がいる限り兄貴に春は来ないのか……。

 「ねぇ、K2。兄貴の結婚話とか聞いた事ない〜?」

 「ナオトのか? それは無理だわ。身近にこんな迷惑を掛けている弟が居るんだから」

 ふとK2にそう尋ねるが……俺と同じ答えを当たり前のように出すK2に、聞いたのが間違いだったとため息をつきながら仕事に戻る。


 「しかし、琉依もナオトの事を気にかける程、余裕が出てきたんだね〜」


 再びデッサンに取り掛かったK2の言葉に、走らせていたペンを止めるとK2へと視線を移す。そして、穏やかな笑みを見せると

 「あぁ。長い時間が掛かったけれど、今度は俺が皆の心配をする方ですから」

 そんな俺の返事に、K2もまた安心したのか笑みを見せてはデッサンを再開した。


 そう……数多の人物に迷惑を掛けてきたのだから、今度は俺が皆を支える番なのだ。もちろん、その中には……君もいる。



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