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Chain154 運命の日は確実に……


 久しぶりの日本での生活は、俺の心を癒してくれた……。そして、再びロンドンでの生活が始まったのだ。




 “ベライラル・デ・コワ”と“K2”による日本での合同ショーを終えて二ヶ月……季節は夏を迎えた。

 ロンドンでの生活もごく普通になっていた今も、俺は撮影の仕事と共にスタッフとしての仕事も増えては毎日走り回っていた。


 『お疲れ様〜!』

 そして今日も、俺は“sEVeN”の撮影を終えたところだった。俺の目標であったブランドであり、そしてリカルドの未だ届いていない憧れの存在であるカルロス=ヴァンがディレクターを務めるブランド“sEVeN”のオファーを再び俺が手にしたのだ。

 ロンドンへ来て約二年のブランクを乗り越えてモデルを再開してから、再び俺はヴァンと連絡を取るようになった。そして今回、秋コレクションに備えて俺にオファーが来たというわけだ。


 “また、ルイに取られた〜!”


 いつかの雑誌の件よりも更に一層機嫌を悪くさせては怒鳴っていたリカルドの顔が頭に浮かんでくる。欧米でトップモデルの座を長年掴んできたリカルドでも、未だに“sEVeN”のオファーだけは掴む事が出来ていなかった。

 それなのに、俺が二回もオファーが来たものだからリカルドの機嫌も悪い悪い。そんなリカルドに、俺は勝ち誇るかのように笑みを見せていた。

 いつもは、バカみたいに自慢してくる奴だから今回くらいは俺も仕返しを含めた態度を見せていた。そんな俺に対して、リカルドは何も言い返せず無言で睨んでくる……そんなリカルドがまた可笑しくて仕方が無い。


 『ルイ! お疲れ!』

 『ヴァン! 来ていたの?』


 そんな俺の元に、俺やリカルドの永遠の憧れの人物であるヴァンが声を掛けてくる。今日は別の仕事があるからと、こちらの現場には来れないと聞いていたから突然のヴァンからの呼びかけには驚いた。

 『今日は別の仕事があるから来れないって聞いたけど……』

 『あぁ。意外と早く終わったから、急いでこっちに来たんだよ』

 それでも、さっき着いたばかりだけどね……笑いながら言うヴァン。その整っていない呼吸をしている所を見てはおれも笑みを浮かべる。そして、まだ着替えていない衣装を着ていた俺をヴァンがまじまじと眺める。

 『うん……やっぱり、ルイは僕の作品が似合うね〜』

 『そ、そうですか! ありがとうございます』

 初めて彼の作品に袖を通したのは十九歳……“ベライラル・デ・コワ”のショーを見て俺を起用してくれたのが彼との最初の出会い。あの仕事を終えてから、俺はやっとプライベートでも彼の服を着る事が出来た。“sEVeN”のオファーを取る事が目標だった俺は、それまでは彼の服は絶対着ないと決めていたのでそれが叶った時にやっと解禁されたのだ。


 『K2で働いているんだってね〜。どうせなら、僕のところに来て欲しかったなぁ……』

 『本当ですか?』


 残念そうな表情を浮かべながら言うヴァンに、俺は笑いながら問う。そんな他愛もない話をした後、俺は控え室に戻って着替えてから自宅へと向かった。

 手には私物の他に、今回の撮影で着用した“sEVeN”の作品。ヴァンの好意で、新作全てを頂く事が出来てご機嫌なまま帰宅する。

 そして、マンションのエントランスに入って階段を上って三階にやって来た時だった……。


 タッタッタッタ……


 たった今、俺が上がってきた階段を駆け上る音が聞こえてくる。その音を聞いて思わず歩こうとしていた足を止めては、その場で立ち尽くしてしまう。

 足音からして、それは女性によるもの……このマンションにだって女性が住んでいるのは十分解かっているが、ここに来て三年を過ぎてからはどうしてもその足音一つに敏感になってしまう。それが、マンションの女性住人のモノではなく君の足音であれば……そう思って足を止めたのはこれで何度目だろうか。

 しかし、その足音の主をこの目で確認するまではこの足も動かす事が出来ないのだ。自分から駆け下りて見に行くのではなく……相手がその顔を見せるのを待っているしかない。


 タンタンッタンッ……!


 「あっ……」

 そして近付いた足音と共に見えた足音の主の姿……しかし、それは俺が願っていた人物ではなく、女性の郵便配達員だった。

 『あら、こんにちは〜』

 『……こんにちは』

 階段を上った所で立ち止まっていた俺の姿を見るなり彼女は笑みを浮かべて挨拶する。こんな所で立ち尽くしていた俺を不審がる様子も無く挨拶してきた彼女に、俺もまたぎこちない笑みを見せては挨拶を返す。ぎこちない笑みしか作れなかったのは、やはり足音の主が君ではなかったから……


 もうすぐしたら、俺も二十五歳……ロンドンへやってきた時は二十歳。徐々に制御出来なくなっているこの期待感。この感情が完全に制御できなくなるのが早いのか……それとも、君がロンドンへやって来る方が早いのか……。


 今の俺の気持ちも、徐々に一人歩きしつつある……しかし、運命の時は俺の知らない所で確実に近付きつつあるのだ……



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