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Chain150 長い時間を過ぎても変わらないもの


 K2と兄貴の計らいで、君は日本にはいなかった……

 周りは俺を支えてくれている……そう実感できた。





 日本に帰国してすぐに尚弥との再会……その日の晩、俺はリカルドと一緒に尚弥の実家で夕食に招かれた。


 「いや〜。それにしても、まさか薫子の手作りの夕飯を頂けるなんて思いもしませんでしたよ!」

 「あっ、あらそう? 久しぶりの帰国なんでしょ? お口に合うかしら?」

 美味い美味い……そう言いながら薫子お手製の和食尽くしを堪能する俺と薫子の会話を、頭を抱えながら俯いている尚弥。

 五年前に初めて会った俺と薫子は、最初からフレンドリーな感覚で話していては尚弥を悩ませていた。俺は、渉の母親である晃子や君の母親である真琴さんなど、親友の母親を名前で呼ぶのが当たり前だったからなぁ……。尚弥の目の前で“薫子”と呼んだ時のあいつの顔は、今思い出すだけでも面白い。

 『うん! かなり美味しいよ! カオルコは、シェフなのかい?』

 『あっ、あら! 素人なのに何だかお恥ずかしいわ!』

 俺の隣で食べていたリカルドも、その絶品ぶりを称えていた。素人とはいえ、本格的な和食に日本大好きのリカルドも満足している。そして、俺の真似をしてリカルドも“カオルコ”と呼んでいるから更に尚弥の悩みも増えていた。

 リカルドと尚弥は当然初対面だったが、それを感じさせないくらいとてもいい雰囲気で楽しい時を過ごしていた。まぁ、リカルドの明るい性格で暗い雰囲気が出来る訳が無いのだが……


 『ナオヤって、以前にポストカードを送ってくれたんだよね? 奥さんは?』

 そう言いながら、リカルドはキョロキョロと辺りを見回しては尚弥の嫁探しをしている。

 『あぁ。嫁さんは自宅で子供と留守番しているん……』

 『子供〜っ!?』

 尚弥が最後まで言い終わる前に席を立っては叫ぶリカルド。そんなリカルドに対して、思い出し笑いをする俺と再び頭を抱える尚弥。うっかり口を滑らしたかもしれないが、こういった話には俺に負けないくらいリカルドも食い付いてくるぞ。

 『子供って……去年の秋に結婚したのに、どうして……あれぇ?』

 一時は混乱していたリカルドだったが、すぐに“ある結論”を思いつくと妖しい目付きで尚弥を見つめていた。そんなリカルドと一緒に再び意地悪モードに入った俺も笑みを浮かべて尚弥を見る。

 『ナオヤって真面目そうな感じがしていたけど……カオルコ! ナオヤはエロだね!』

 『私もね〜、真面目な子だと思っていたんだけどねぇ』

 リカルドと薫子のやり取りを笑いながら見る俺に対して、肩身が狭いと言わんばかりに体も存在感も小さくなる尚弥。真面目な尚弥と同じで真面目な母親だと思っていた薫子の返しように、意外だと思いながらも笑いを隠す事は出来なかった。

 まぁ、今日は俺の為に実家こちらで過ごしてくれているのだから、感謝しなければいけないのについからかいたくなる。そんな尚弥の面白いところを発見してしまったリカルドも、初対面ながらもからかっては遊んでいた。


 君が日本こっちには居ないと知って安心した俺が、心から笑って過ごせる久しぶりの親友の家でのひと時。こんなにも賑やかで笑いの絶えない時間を過ごしたのは、一体何年ぶりだろうか……。

 もういっその事このまま日本に残って過ごしたい……なんて甘い考えもある。楽しいひと時が癖になって、再び落ち着いたロンドンでの生活をするのを躊躇ってしまう。

 尚弥の他にも、渉や蓮子。梓に伊織とも会いたくなる……そんな俺の我が侭は、決して外に漏らす事無く心の中に留める。



 しかし、楽しいひと時というものは……あっという間に過ぎてしまうのだ……。



 「それじゃあ、お邪魔しました〜!」

 「いいえ〜。また、いつでもいらして下さいね」


 楽しいひと時を終えて、俺とリカルドは玄関先で尚弥と薫子にお礼を述べる。いつでも……薫子はそう言ってくれるが、まさかロンドンから何回も行くわけにはいかないからなぁ。

 「明後日のショーには俺も行くから……嫁さんと」

 『聞いたか、リカルド。尚弥は嫁と一緒にショーに来てくれるんだと』

 『マジでか? それはまた、からかい甲斐があって面白そうだな!』

 尚弥のささいな一言にも過敏に反応しては、リカルドに話して一緒に笑いあう。そして、そんな俺たちの前で再び沈む尚弥。


 「嘘、嘘。待っていますよ」

 「いや……ちょっと考えておくよ」


 歓迎の意を見せる俺だが、尚弥も考え直しているのか慎重な態度を見せていた。そんな尚弥の反応に、また笑みを浮かべながら俺とリカルドは浅井家を後にした。


 『日本に、いい友達が居るんだね』

 『あぁ。最高の親友さ……』

 暗い夜道を歩きながら言うリカルドに、俺は穏やかな笑みを浮かべて答えた。


 長い年月はそれぞれの人生を変える……しかし、変わらないものもあるのだと俺は今こうして実感していた。


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