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Chain148 予想外の帰国


 思わぬ帰国は、俺の心を暗くさせていた……

 そして……約束も薄れていく……




 『K2……落ち込んでいたよ』

 『あっそう』


 ロンドンヒースロー国際空港発成田行きの飛行機の中、新聞に目を通していた俺にリカルドが話しかけてくる。

 『ルイがずっと口を利いてくれないって言ってたよ』

 『ふ〜ん』

 さっきから告げられてくるリカルドの言葉全てを、素っ気ない返事をしながらも視線は新聞へと向けられていた。


 “K2&ベライラル・デ・コワ合同ショー”


 この新聞にも、こういった見出しで記事が載せられていた。そして、K2とフォード氏が握手を交わす写真を見ては“チッ”と自然と出てくるのが舌打ち……。

 開催地を日本に決定してからは、恐ろしいほど時の流れは早かった。何とか君の目に止まらないよう策を練ろうとしても、これまで何一つ君の情報を掴めていなかった俺はどうする事も出来なかった。

 そして今日……俺はリカルドと共に、日本へ向かう事となった。K2への苛立ちが未だに鎮まらず避けたい事、そして日本での混乱を防ぐ為に俺達だけ先に出発したのだ。

 『一緒に日本へ行きたがってたよ』

 相変わらずK2を哀れむような事を言ってくるリカルドに、俺は広げていた新聞を畳む。

 『そんな事、こっちの知った事では無い! さっきからK2、K2ってうるさいよ!』

 そう強めに言っては、八つ当たり同然にリカルドに新聞を叩き付けた。

 こっちは、もうすぐしたら最悪の事態が起こるというのに、いちいちK2の落ち込み様なんかに構っている暇は無い。あれほど自分の言い分を押し付けて来たのだ……息子(オレ)に無視される事くらい簡単に予想つくだろう。


 それよりも、俺の中で駆け巡る不安をどうにかしたかった。

 開催地は東京……君が住んでいる地域と、そう離れていない場所で行われる盛大なパーティーをどうして君に隠せようか。

 仕事上、暁生さんと真琴さんが参加する事になっているので、俺はこの事を君に言わないよう二人に釘を刺した。しかし……メディアはどうする事も出来ない。


 はぁ……


 「お願い……パーティ当日は、何も見ないで……」

 『何? 今、何か言った?』

 『……何も』


 小声で呟いた日本語(コトバ)に反応したリカルドの問い掛けを軽くあしらっては、ゆっくりと目を閉じる……


 この目が覚めるまでに、全てが良いように変わっていてくれたら……そんな都合の良い事まで頭に浮かんでいた。


 ――――



 『久しぶりの日本に〜到着っ!』

 そう叫んでは、成田空港の外へと飛び出すリカルド。そんな彼とは対照的に、ゆっくりと暗い表情でその地を踏む俺の目の前には、久しぶりに見る光景が変わりなく映っていた。


 前回この地を踏んだのは、五年前の別れの時……君と約束を交わした時だった。


 “なっちゃん!”


 ふと、後ろを振り向くが当然何も無い……。あの日叫んだ君の呼び名が、五年振りに受ける風と共に聞こえた感じがしたのだ。

 『ルイ。タクシーでそのままホテルへ向かうかい?』

 リカルドの言葉に我に返った俺は、頷いて停まっていたタクシーへと乗り込んだ。




 『ワオッ! 久しぶりの日本だけど、全く変わっていないね!』

 一人車内ではしゃぐリカルドを余所に、俺はまだスッキリしない頭をおさえながら目を閉じてホテルへの到着を待った。

 窓に張り付くよう外を眺めるリカルドとは正反対に、出来るだけ低く座っては外から見えないように隠れる。ここは東京……君がどこを歩いていてもおかしくない場所だから……



 『それじゃあ、とりあえず俺は寝るよ。ルイはどうするの?』

 『まだ残っている書類の整理でもするよ』

 おやすみ……ホテルに到着した途端、一気に眠気が襲って来たのか欠伸をしながらベッドに入るリカルドにそう告げる。そして、書類を出してテーブルの上に広げては目を通すが、自然と視線が外へと移動していた。

 このまま普通に外を歩けば、君に会う事が出来る……そんな誘惑が俺の頭の中をずっと()ぎっていた。

 自宅へ帰れば……なんて、同じ日本にいるせいか約束も薄れつつある俺の心。こんな事ばかり考えてしまうので、作業に集中出来なくなっていた。


 〜♪


 そんな時、部屋の電話音が鳴り響いた。滅多な事では鳴らないコール音に、僅かな動揺を見せながらも受話器を取る。

 『はい……』

 『ルイ=テイラー様に、お客様がいらしていますが……』

 フロントが告げるその言葉に思わず更に動揺した。情報が漏れないよう本名ではなくリカルド家族と偽ってチェックインしていたので、ルイ=テイラーとしての俺に客が来る筈が無いのだ。名前を偽ってここに居る事を知っているのは、今回のチームの人間だけ。


 『あぁ……悪いけれど、客の名前を聞いてくれるかな?』

 しかし、さすがにホテルマン。そこのところはちゃんと聞いているらしく、すぐにその名前を告げてきた……。

 『……えっ?』

 フロント係から告げられた名前に、一瞬頭の中が真っ白になった。そして、そんな俺に声を掛けてくるフロント係に適当に返事をすると、寝ているリカルドに書置きを残してはジャケットと帽子を持って部屋を後にした……


 宇佐美琉依ルイ テイラーを訪ねてきたのは……意外な人物だった。



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