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Chain147 思わぬ展開が招くもの……


 ロンドンでの生活も安定してきて、俺もモデルの仕事とスタッフの仕事の掛け持ちで頑張っていた……



 『何だって!?』


 ロンドン市内の高層ビルの中にある“K2”事務所で、俺は持っていた書類を乱暴に置いては叫んでいた。


 二十四歳になった俺は、リカルドと共にモデルの傍ら“K2”スタッフとして働いていたのだが……


 モデルの仕事を終えて帰って来た俺を待っていたのは、とんでもない知らせだった。


 『実はね、先方がどうしてもこちらに変えて欲しいと頼んで来たんだよ』

 俺の怒り様に対して、ソファに座って資料を見ていたK2は宥めるように俺に伝えてくる。そんなK2の横では、同じく資料を手にしては俺の怒る様子を驚きの表情を浮かべて見ているリカルドが座っていた。

 『冗談じゃない! 何で俺が……』

 『ど、どうしたルイ。何をそんなに嫌がる事があるんだい?』

 傍から見れば異常に怒る俺を、リカルドが立ち上がって静めようとしてきた。俺の腕を掴むリカルドの手を振り払うと、納得がいかない事を示すかのよう“チッ”と大きく舌打ちをする。

 『琉依。君が今そこへ行きたくない事は、僕も十分解っている。君がやり通して来た事なんだから』

 そう言いながら俺の元へ近付いて来るK2を、一瞬ジロッと睨む。しかし、K2もまた怯む事なく話を続ける。

 『しかし、これもビジネスなんだ。先方が希望している限り、君はそれに応えなければいけないんだよ』

 “ビジネス”という言葉を出した途端、さっきまでとは違って厳しい表情で告げてくるK2。そして、俺もまたその言葉を聞いてさらけ出していた抵抗の意を静める。


 そんな俺の様子を察したのか、K2はデスクに置いていた書類を俺に渡すとそのまま何も言わずに部屋を後にした。


 バタン……っ


 「クソッ!」

 ダンッと音を立てて壁に拳をぶつける。そして、リカルドがいるソファへ乱暴に座ると、テーブルに置いていた煙草を取り出しては火を点ける。

 『K2との親子ゲンカなんて、久しぶりに見たよ。しばらくは君達も穏やかにしていたのにね』

 からかうように言ってくるリカルドを鋭く睨むと、彼は両手を上げては降参の意を示していた。そして、視線を持っていた書類へと移してそこに記されていた文字を凝視する。


 『今回の仕事は大きいよ。なんたって“K2”と“ベライラル・デ・コワ”の二大ブランド合同のショーが行われるのだからね』

 『あぁ……そうだ。俺達が掴んで来た仕事だから』

 何とか場を明るくしようとリカルドがそう告げるが、俺は持っていた書類に力を込めながら答える。

 俺とリカルドが“K2”のスタッフとして、“ベライラル・デ・コワ”のディレクターであるベライラル=フォード氏を訪ねて提案した今回のパーティー。この二大ブランドのショーをパリで盛大に行おうと企画も進めて来たのに……


 『それが、まさかこんな提案が通されるなんて!』


 二人しかいない部屋に響き渡る俺の怒鳴り声に、リカルドは俺の怒りの原因を掴めずうろたえている。

 それもそうだろう……何も知らない奴から見れば、今回の出来事はむしろ喜ばしいと思う事だから。俺の事情を知らないからこそ、ただうろたえるしか出来ないのだ。


 “ベライラル・デ・コワ&K2合同ショー”


 そんな文字から始まる書類を手にする。今回の仕事には、モデルとスタッフの両方とも兼ねて参加する俺が今更抜ける訳にはいかない。


 “これはビジネス……”


 そんな事、K2に言われなくても解っている。貴重なスケジュールを割いてくれての参加なのだ……(ベライラル)が申し出れば、それを受け入れるのは当たり前なのだ。

 しかし……今回ばかりは、俺も首を縦に振る事をためらった。フォード氏の提案に手放しで喜んだリカルドとは対照的に、俺はただ立ち尽くしていた。


 『今回のパーティーは完全にルイが中心になるね。なんたって、地元なんだから』

 何気ないリカルドの一言さえも苛立ちを覚える。

 そして、唇を噛みながら訂正版の書類の続きに目を通す。


 “主催……K2/ベライラル・デ・コワ”


 そして……


 “開催地……日本”


 そう……フォード氏が提案してきたのは、開催地をパリから日本に変更する事だった。

 両ブランド共、日本とはとても縁がある……そして、何よりもフォード氏自身が大の日本好きという理由からだった。

 このような趣向を変えてのパーティーを、俺は自分に置かれている状況が無ければ共に喜んでいたのだが、日本は今の俺が最も行ってはならない国なのだ。

 日本あっちには、もちろん君がいるから……。二大ブランドの合同ショーなのだから、嫌でもメディアで取り上げられて君の目にも入ってしまう。今回の企画には俺もモデルとして参加するのだから、当然撮られるものは撮られるのだ。


 “手紙も、電話もダメ……”


 君に、そんな約束をしたのは俺。だから、俺のほうからのこのこ君の前に姿を見せる訳にはいかないのだ。

 日本での滞在期間は一週間……自宅に戻らなくてもホテルで生活は出来る。しかし、どうすれば君の目に俺の姿が映らないようにしたらいいのか……


 こんな悩みを毎日解決に向けて考えるが、無情にも時はあっという間に流れてしまう……



 そして……とうとう日本へ発つ日がやって来た……



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