Chain144 それから二年後……
綾子サンとの錯覚を交えた再会は、これからも忘れる事は無い……
改めて自分の気持ちに素直になってから、さらに二年の時が流れる……
『ルイ! 郵便来ていたから置いておくよ』
『あぁ。ありがとう、リカルド』
辞書を片手に調べ物をしているところへ、リカルドが入ってきて部屋に入ってすぐ傍にある棚に郵便物を置いた。リカルドはそのまま俺の部屋にある椅子に座ると、一枚のポストカードに目を通していた。
『何だい? 珍しい事でも書いているのか?』
『いや。ルイの友達からの手紙だけど、結婚式の写真が写っていてね』
リカルドの言葉に、思わず調べ物をしていた手が止まってしまった。
結婚? 友達? 一体……誰の?
『キレイな花嫁サンだ……』
見たいという気持ちを抑えられず、リカルドが言い終わる前に彼からポストカードを奪い取って写真を確認した。しかし、そこに写っていたのは……
「尚弥……?」
ポストカードに写っていた幸せそうな顔をしている人物は、尚弥と……
『……この女性、誰?』
『俺が知るわけないだろ?』
リカルドは当たり前の返事を豪快に笑いながら言うと、部屋を出てリビングの方へと歩いていった。そして、一人になった今よくよくポストカードに書かれていた文を見ると、
“結婚しました。相手は知り合いの弁護士のお嬢さんで羽山紘佳さんです。宇佐美が帰ってきたら、改めて紹介したいと思います。”
尚弥が結婚!? メンバーの中では一番大人しい性格だったあの尚弥が一番に結婚? 結婚なんか興味ありませんって感じの尚弥が? あまりにも意外な事に言葉を失って、混乱してしまった。
それと同時に心からホッとしていた……。その写真に写っている花嫁が、君じゃなかったから……。
魅力的な女性になったらロンドンへ行く……そう四年前に約束していたが、三年の約束を過ぎた今ではその約束も君にとっては無効なものとなっているのではないかと正直不安になっていた。
早速、パソコンに向かってメールを打ち始める。尚弥の幸せいっぱいの表情を浮かべたポストカードを傍らに飾って。新郎新婦のほかに何人か写っている友人らしき人物たちの中に、蓮子や伊織もいたが君は写っていなかった。手紙も電話もしないという約束の中に写真等送らないという事は入っていなかったが、それもしないという徹底ぶりは君らしくて本当におかしくなってしまう。
「いやいや……ホント、なっちゃんらしいよ」
そう呟いたが、ポストカードの中に写っていた伊織や蓮子は、俺が知っている二人よりもさらに大人っぽくなっていて何だか寂しい気持ちに襲われる。
人は変わる……たった一枚のポストカードで、酷く痛感した。
“突然のお知らせビックリしたよ。結婚おめでとう……”
カタカタとキーボードを打ちながら笑みを見せたり沈んだりと、変な表情を見せる俺を戻ってきたリカルドが変な顔で眺めていた。
君と離れてから四年の歳月が過ぎたが、月日を重ねる度にだんだん君の事が恋しくなってくる。君はきちんと約束を徹底している……そして、もちろん俺も。しかし、あの約束をしたのは俺の方なのに俺はその決意を何度曲げようとしたか。
あ〜情けない! ……っていうか、約束は三年であってこの一年は勝手に俺がこっちに残ろうと決めた事だからな。それでも約束は継続されるのだろうか?
余りにも女々しすぎてマジで情けなくなってしまう。こっちに来てから、徐々に自分の性格が緩くなったような気がする。
『ルイ! K2から電話だよ』
K2とは宇佐美響一の事で、俺の父親。世界で展開しているブランド“K2”のデザイナーであるK2は、母と共にロンドンに滞在しており俺はモデルをしながら経営の勉強もしていた。ただし、決して日本には俺の写真を回さないという条件付きで。
そして四年経った今では、大学も卒業して“K2”ロンドン支社で働きながらモデルも兼業している。
『K2が? 何? 仕事かな』
『そうそう。下に来ているから早く来てね〜』
『えっ?』
その言葉に慌てて下を見ると、車にもたれてこちらを見上げては手を振るK2の姿があった。こういう場面、いつかどこかで俺もやったような気がする。
『リカルド! お前も……って、もういないの?』
再び外を見ると、今度はK2の隣で一緒に手を振るリカルドの姿を確認。深くため息をつきながら、身支度をして玄関へと向かった。その時、ふとドアの傍にある写真に目が移る。
そこにあるのは、いつの日かメンバー全員で撮った写真。この時から俺は君の事なんて何一つ知らない。四年もの間、お互い色んな事があって変わった所もいっぱいあるけれど、どうかこの笑顔だけは変わっていない事を願いたい……。
そう思いながら、写真の君に軽くキスをして部屋を出た。
……
「やべ、隣の渉にも唇触れちゃった。オエッ!」