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Chain131 地道なる成長



 閉じた瞼の向こうに見える君……




 ロンドンに寒い冬がやって来る……


 二度目の冬を迎えた時、俺は二十二歳になっていた。

 そして……次にやって来る春には、梓を除くメンバー五人が卒業を迎える事になる。

 大学へ入学した時の俺は、自分もまた一緒に卒業出来ると信じて疑わなかっただろう。まさか、一人このような異国の地で過ごすとは誰が予想していただろうか。


 『いやいや、誰も予想していないよ』


 俺の心の中を見透かしたようなリカルドの発言に、思わず俺は隣りを見てしまった。しかし、そんなリカルドは決して俺の方を見ず、煙草の煙を吐きながら空を見上げている。


 どこか虚ろなリカルドの様子を見て、俺は彼の目の前で軽く手を振るがリカルドは気付いてないかのようにボーッとしている。


 『もしもーし。リっちゃん?』

 『んあ?』


 俺の呼び掛けでやっと我に返るリカルドは、変な返事をしてはこちらを振り向いた。

 『いや、何を予想していなかったのかなぁ〜って』

 『あれ? 口に出したっけ?』


 少し笑いながら尋ねる俺に対して、またボケたような事を言うから更に笑いが込み上げて来た。しかし、そんな俺とは裏腹にリカルドは沈んだ表情を見せると、自分の携帯の液晶を俺の前に見せてくる。


 『何だ?』


 携帯の液晶には、当たり前だが英文でメールが表示されていた。リカルドは読めと言わんばかりの様子で携帯を見せてくるので、まじまじと見てみると……


 『何々……“売れっ子で忙しい貴方には、私は必要じゃないみたいね”?』

 『……』


 彼女(アンリ)からの別れのメールなのか、それを声に出して読んだ後リカルドの方を見ると、リカルドは更に落ち込んではその影を薄くさせていた。


 『……ぷっ!』

 『な、何を笑っているんだよ! 今のメールにオモシロ要素があったか?』


 思わず笑ってしまった俺に、リカルドは沈んでいた表情から一気に怒りのものへと変えて突っ掛かってきた。

 そんなリカルドに俺はただ笑いながら彼の攻撃をかわしては、さらにからかう。


 下手に慰めるよりも、こうしてからかった方がリカルドにとっては立ち直れる道が短い。

 まぁ、リカルドの事だ。翌朝になれば仕事ラブに戻るだろう。

 『ほら、せっかくのクリスマスだ。一緒に飲みましょうよ』

 『あぁ〜。まさかルイとこうしてクリスマスを過ごすとは思わなかったよ……』


 思っていた以上に落ち込むリカルドに、俺はグラスを渡してはそこへウォッカを注ぐ。

 『よし、それを一気に飲め! 飲んで明日から仕事に励め!』

 そして、それから俺達は朝まで飲み明かしては辛い事を紛らわした。

 ロンドンに来てからしばらくは俺がリカルドに迷惑を掛けてばかりいたからなぁ……今度は俺がリカルドの愚痴を聞いてやる番だわな。


 ―――――


 『ん〜、もう飲めませんよ……』


 眠りながらそう言うリカルドを見ていると、どこかの誰かを思い出して笑みがこぼれる。そんなリカルドに毛布を掛けてやると、俺はデスクへと向かってパソコンを起動する。


 カタカタカタ……


 リハビリを終えてモデルに復帰してから、俺は両親の元へ行ってこれからの相談をした。ここでモデルの仕事をしていても、俺は何も得る事無く時を過ごしてしまうだけ。

 これでは、メンバーに留学と偽ったのがばれてしまう。だから、俺はモデルの仕事をしながらここで何か出来ないかと両親に相談しに行ったのだ。


 すると、その時にK2の口から出たのが


 “それじゃあ、僕の所で働けばいいんだよ”


 デザイナーとしてではなく、スタッフとして。語学に堪能だから広報に入るのもいいな……そう言うK2に、母さんも笑顔で頷いていた。

 俺も、幼い頃からモデルをしてきたのだから経験を生かした職業に就きたいとは思っていたが、まさかK2がそう言うとは思いもしなかった。


 K2は昔から身内を贔屓するのは嫌いだったから。モデルを始めたばかりの頃は、まだ未熟なのだからと言って身内だろうが俺を決して自分のショーには参加させなかった。

 自分の力でのし上がってくるまで、K2の方から手を差し出してくる事は無かったのだ。


 そんな彼がこうして自分のチームに入るよう誘ってくるなんて……


 誘われた時、俺はかなり警戒していたのを覚えている。

 そんな事を思い出しては、また笑みをこぼして俺はキーを打っていく。

 今している事、それはやがて正式に入るであろう“K2”について学んでいた。そして、大学にも行って経営学も学び始めた俺は、モデルという傍らこうして時間があればパソコンに向かっている。


 まぁ、こうして大学に編入したから結果的には留学というのは偽りではなくなったんだけど。でも、まさか俺が自分の親父の職業を継ぐとは誰も思っていないだろうな……。


 しかし、これでいつか来るであろう君にも堂々と会う事が出来るよ。

 でも、当初言っていた三年で帰るのは無理だろうけど……。だけど、例え君が三年過ぎた時に来てもいいよう、その頃までにはもっと自分を成長させたい。


 ねぇ、夏海。ロンドンへ来て二度目のクリスマスを迎えたけど、君は日本そっちで何をしている?

 君はもう自分のしたい事を見つけてそこへ突き進んでいるの?


 自分から約束させたのに、今の君の事が知りたくてたまらないよ……



 

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