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Chain127 君が待つ部屋


 リカルドが俺を責め続ける……。


 自分が何でも持っているから、何も無い俺を見下しているんだ……。





 母さんはまだ戻って来ない……リカルドもまだ“仕事”から帰ってこない。病室ここには、K2と医者と俺だけが残っている。


 『胃の中のものを全て吐き出してから洗浄しましたので、彼もまだ体に不快感が残っていると思います……』

 『そうですか』


 一体、何の事を話しているのか解からないが二人は少しだけ俺から離れて会話をしている。そんな二人など特に構う事無く、俺はベッドに座ってキョロキョロと辺りを見回す。

 いつまで此処に居ればいいのか……退屈になってきては、無意味な行為を繰り返す。煙草も酒も此処には無い……何故ここでじっとしていなければならないのか。


 『琉依。もう遅いから、お前は眠るんだ』

 『嫌だよ。さっき言ったじゃん、リカルドが俺を笑うから寝るのは嫌だって』


 目を瞑ってしまえば、リカルドの俺を笑う声が聞こえてくる……。俺には無いものを、自分が持っているという優越感に浸っては俺を笑う。


 “ドウシテ オマエハ ナニモデキナイノカ”


 指差しては俺を見下す……そんなリカルドを見るのが嫌だった。

 ここに居ると気分が悪い……そう思ってきたら、再び体の中も気持ち悪くなって来た。再びベッドから降りて、俺はトイレへと走っては中に溜まっているものを出そうとする。

 しかし、それでも胃から出てくるのは胃液だけだった。そして、無理に出そうとした所為か微かに血液も混じっている。


 どんなに気分が悪くても、俺の体からは何も出てこない。

 諦めてトイレから出て再びベッドの中に入る。しかし、枕に頭を乗せて横を向いた途端、俺の瞳からは何故か涙が流れてきた。

 『琉依、どうした? どこか痛いのか?』

 K2が心配そうに覗き込んでくるが、流れる涙を拭くことも無く俺はその問いにただ首を振るだけだった。

 痛い……何故か解からないが、心がとても痛んだ。


 “オマエハ ココデ ナニヲシテイルンダ?”


 ずっと聞こえて止まない声が、俺の頭の中で永遠に響く。俺を責める声……リカルドの声が俺を悩ませる。


 『リカルド……?』


 リカルドじゃない、ずっとそう思い込んでいたがその声はリカルドの物ではない。では、誰だ? 俺を責め続けているその声の主は、一体誰なんだ?

 しかし、そんな事を考えると更にその声は大きく響いてくる。他の事など考えさせないようにと、“声”は俺を責め続ける。


 『K2。ルイの調子は?』


 ふと聞こえてきた声に、俺は上半身を起こして振り返る。すると、そこには自分を責め続けていると信じて止まなかったリカルド本人の姿があった。

 『あぁ。さっきもまた胃液を嘔吐したくらいで、後は特に異常は無いよ』

 そう会話をしている二人の間には、母さんの姿もあった。そっと俺の様子を窺う母さんを見て、俺は手招きをしては自分の方へと近づける。

 『ねぇ、母さん』

 『な、何?』

 何をそんなに不安がっているのか……母さんは俺の呼びかけに、少しだが躊躇いながら返事をしている。


 『母さん、なっちゃんはどこに居るの?』

 『――っつ!』


 そうだよ。さっきから誰かが居ないと思ったら、君の姿がどこにも無い。今まで俺から離れた事が無い君が、どうして俺が病院にいるのにやって来ないのか。

 それを母さんなら答えてくれるかと思っていたのに、当の母さんを始めK2やリカルドも複雑な顔をしている。

 『ねぇ、なっちゃんは居ないの?』

 『琉依、なっちゃんは日本にいるから此処には居ないよ』

 K2の答えに、俺は笑みを浮かべては口を開く。

 『それはおかしいよ。だって、アイツ付いて来たよ? 俺の撮影の間は、母さんと一緒にショッピングするって言ってたし!』

 『ルイ、お前それって……』

 リカルドが言いかけた言葉を、隣にいたK2が塞いでいた。そして、医者に何かを聞いているK2に再び表情を暗くさせる母さん。滅多に見せない深刻な表情を浮かべるリカルド。そんな彼らに、俺は納得がいかないとベッドから降りる。


 『ルイ! どこへ行くんだ!』

 『家だよ! なっちゃんが一人で待ってる!』


 部屋を出ようとした俺を、リカルドは捕まえては問いただしてくる。しかし、家で待っている君を放ってはおけない俺は何とかリカルドから解放されようと必死に抵抗していた。

 だって、待っているから……今夜も一人で寂しく、君は待っているに違いない。君は泣き虫だから、今も一人で泣いている。

 だから俺は行かなければならないのに、それでもリカルドはさらに力を込めて阻止する。


 『琉依! なっちゃんは日本にいるのよ!』

 『違う! 部屋で待っているんだ!』


 早く行かなければ……そう思いながら、俺は絶叫する母さんの手を振り解こうとする。しかし、そんな騒ぎを聞きつけたのか、数名の医者が駆けつけてきた。


 『鎮静剤を! 患者は非常に興奮状態だから、鎮静剤を投与するんだ!』


 後ろにいた医者は、駆けつけてきた医者にそう指示する。それを聞いた俺はさらに暴れては彼らから逃げようともがく。

 リカルドとK2の腕力、数多の医者の圧力に絶叫する母さん……一体どうしてそこまでして俺を止めるのか。どうして俺を君の元へと行かせてくれないのか……


 『早く打つんだ!』

 『やめろぉぉぉっ!』


 頑丈に固定された腕に感じた痛み……そして、徐々に薄れていく意識の中に映ったものは……


 暗い部屋で一人蹲って泣いている君の姿だった。



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